side:レン
一瞬の出来事だった。
大きな影がふっと横切ったかと思うと、次の瞬間には龍の断末魔とともにその首が落とされていた。
いったい何が起こったのかと、呆然と見やれば大柄な男とともにユーナの姿が目に入った。
なぜユーナがここに・・・?
そんな疑問は近くにいた少し老けた仲間の男-アルフといったか-の言葉によってすぐさま消え去った。
「ありゃ・・・赤山の龍殺しじゃないか」
「赤山の龍殺し・・・?」
耳に入ってきた言葉が信じられなくて思わず聞き返してしまった。
「なんだ、レンも知ってるだろう? もう五、六年前になるか・・・赤山の龍が暴れだしたときの英雄だよ」
「その話は知ってるけど・・・あいつが・・・?」
「あぁ、間違いない。あの大剣を振り回せるやつなんかそうはいないからな」
そう言われ大男の背負う大剣に目をやった。
ユーナ二人分はあろうかという長身とそれに見合ったがっしりとっした体つきの大男の背負う剣は、その身長とほぼ変わらないくらいの長さがあり、刀身の幅も広めに作られていた。その見た目だけで重量がどれほどのものかと想像して、唖然とした。
「あんな大剣をふりまわせるだなんて・・・」
「まぁ、だからこそ『龍殺し』になれたんだろうよ。・・・それにしても・・・」
急に声のトーンが落ちたアルフをいぶかしみ、レンは隣をチラッと見上げる。
「商隊が避難できたなら俺たちも早いとここの場を離れたほうがいいかもしれん」
なぜだ? と聞き返す前に周囲の仲間たちも同じように囁き合いだした。
「位の高い龍は死後、不死龍になるって聞いたことがある」
「俺もその話は聞いたことがあるぞ」
「あの龍は下位・・・なわけないな」
「あ~・・・やっぱり今日が俺の命日か・・・」
「龍が出た時点でわかってたことじゃないか・・・」
言い知れぬ不安が周囲に広まっていく中で、ふと思った疑問を口に出した。
「不死龍・・・赤山の龍の時はどうしたんだ?」
「赤山の龍退治のときは神官様がご一緒されて、討伐後に浄化されたと聞いた」
「つまり・・・?」
「つまり、だ。この場に浄化できるような高位の神官様がいらっしゃらないことは明白。よって、あいつは不死龍になる。ってことだ」
アルフの言った結論に護衛仲間たちは絶望に似た諦めた空気を生み出した。
「ちょ・・・そんな簡単に諦めるなよ! 不死龍を倒す方法はないのかよ」
その空気に抗議するように声を上げれば、諭されるように言われてしまった。
不死なるものを滅するにも神官様がいないとどうにもできないのだと・・・。
「そんな・・・・」
思わず呆然とつぶやけば、アルフがポンッと肩に手を置いた。
「お前はまだ若い。あそこのお嬢ちゃんをつれて商隊に合流しろ。この場を離れる理由は、なぜか知らんがこの場にもどってたお嬢ちゃんを隊に合流させるため。これで万事解決だ」
「そうだ! ユーナ、あいつ何でここにいるんだ!」
アルフに言われてユーナがこの場に戻ってきていたことを思い出した。
「まったくだ。お嬢ちゃんは商隊の大切な水源だ。きちんと合流させてこい」
さぁ行けといわれんばかりに背中を押されるが、それに足を突っ張って抵抗する
「そ、そんな! 俺だけ逃げるなんてできるかよ!」
自分にだって護衛役をひきうけた者としてのプライドがある。
いざというときは命をかける覚悟だってしている。
今だってそうだ。
太刀打ちできないかもしれないが、この場にはまだ『竜殺し』がいる。
全員で不死龍を足止めしている間に、誰かか神官を呼んでこればいいのだ。
「お前の言いたいことはわかる」
思ったことを口にする前にアルフが先に口を開いた。
「だがな・・・神官様のいる場所まで何日かかる? 神官様がすぐ動いてくれればいい。だが実際はそうもいかんだろう。つまり、この場に残れば死しか待っていないわけだ。
俺はな、逃げろって言ってるんじゃない。あのお嬢ちゃんをこの場から連れて行けといってるんだ。商隊はもうだいぶ先にまで行っちまっただろう。途中魔物が出ないとも限らん。誰かが護衛役でここを離れなきゃならん。
商隊に送っていった後で戻ってきたければ戻ってこればいい。だから、行け」
アルフのいってることは、もっともらしく聞こえるが、結局はレンをこの場から遠ざけるものだった。
護衛役が一気に減った商隊にもどればそのまま護衛を求められるに違いない。
ましてやこの場にはレンよりはるかに頼りになる『龍殺し』の存在がある。
レンがいなくても足止めは十分に果たせるだろう。
レンは悔しさで口をかみ締めたが、それでもこれはユーナのためなんだ、と自分に言い聞かせアルフの言葉に頷いた。
だがそんな決意は、あっという間に無駄なものになった。
いい意味で・・・。
ユーナのもとに駆け寄ろうとしたその瞬間、それは起こった。
最初は小さな淡い光が灯るように・・・そしてそれは次第に数を増やしていき、最終的にはまばゆいほどの光の塊となってユーナと龍を包み込んだ。
その光は圧倒的な光量のはずなのに目には優しく、どことなく温かみを帯びていた。
そしてその光景に呆然と動けなくなっていると、光は奔流となって天に昇っていった。
後に残ったのは、祈りをささげるユーナの姿と、そばに寄り添う『龍殺し』の姿だけだった。




