龍殺し
『龍殺し』それは英雄でありながら忌むべきものとして人々に恐れられる。
龍が怒り、人々を襲いだしたのならば、それは天命だとして人間は受け入れなければならない。龍が神の使いだというのなら当然だ。けれども自らの死を受け入れることのできるものは多くない。神の使いだろうと何だろうと、殺されたくはないものだ。
そうして龍に抵抗し、勝利をあげることのできたものが『龍殺し』となる。
人々は『龍殺し』の偉業をたたえるが、同時に恐れる。
神に刃をむけたものとして・・・
一閃。
ラグが背中の大剣を抜き、剣を振るったのはそのたった一振りだけだった。
けれどもその一振りで先ほどまで暴れまわっていた龍の胴体と頭は切り離された。
ドォォォォォォン、という音を立てて龍の体が倒れる。
それを取り囲むようにして呆然と見るのはラグが来るまでの間死闘を繰り広げていた護衛達と、何故かラグによって一緒に連れてこられた優奈だった。
「ユーナ! わりぃが手伝ってくれ」
思わぬ光景に唖然としていた優奈は、かけられたら声に我を取り戻し顔をあげ微かに首をかしげた。
少しばかり離れたところでラグが手招きしているのを見て、優奈は躊躇いがちに側へ行く。
「何をしたらいいの?」
傍に来てみると龍の死体の大きさは圧倒的だった。
両手を広げてみても首まわりに手は回りそうにもなく、顔だけで優奈一人分以上の大きさがある。
驚きを露わにしている優奈にラグは初めての聖女としての仕事を優奈に頼んだ。
優奈は目を丸くし、次いで戸惑いを露わにしたが、何か決心するように一つ頷くと、龍にむかって祈りを捧げるように両手を組み合わせて目を閉じた。
最初の戸惑いは自分にできるかという不安だった。けれども今この場でそれができるのは優奈しかいないのだという。
そしてそれをしなければ、この龍は不死龍として蘇ってしまうということに驚いた。
それを聞かされれば、若干自信はないものの、優奈はやるしかないと決めた。先ほどの龍の切実な悲鳴に似た声を聞いたのだ。やるしかない。
ここでやらねば女じゃない!
優奈は心からの祈りを捧げた。
安らかに眠れるように。
苦しみから解き放たれるように。
どうして暴れていたのかは知らないが、この龍は殺して欲しがっていた。きっと止めて欲しかったのだろう。
彼の本意ではなかったのだ。
優奈の捧げた祈りが通じたのか、暖かな風が吹き抜け、微かな光を瞼の裏に感じ、次いで目を開けると龍の姿は跡形もなく消え去っていた。




