25…八眉女とぬいぐるみ
ようやく攻略キャラを出せる事が出来ました。口調と性格が変わりましたが出せて良かったです。
二人の会話を邪魔する訳にはいかないので、お茶を出し終えて扉の後ろに立っている私は暇を持て余していた。
こういう時は人を観察して覚えたりしてたんだけど、それはバイト時代で。今は人通りも少ないし覚える必要もない。だからってこうしてただ棒みたいに居るのは退屈だ。
それならぼろ雑巾みたいにコキ使われた方がまだ良かったかもしれない…ってけしてぼろ雑巾みたいに扱ってくれて光栄です!みたいなマゾじゃありませんからっ!!ノーマルですから。あ、でも主人公ちゃんになら…この話はやめよう。
「(暇だなぁ…)」
軽い背伸びをして扉を背もたれのように身を預けていれば、応接室から二人の声が聞こえてきた。
声と言っても微かな声で、聴きとるには少し難だ。扉を少し開けば会話の内容が分かるかもしれないけど…流石にそれは駄目だろう。
にしても二人はどんな話をしてるんだろう。学校の事とは分かるけど自分もこの学校の生徒の一人として気になるところだ。
いっそのこと扉に張り付いて聞き耳を立ててみようか。いや、そんなことでもしたらあの玄條が黙って見過ごすわけがないだろう。
「(気になる…)」
次第に強くなっていく好奇心を押さえつけようとしても中々収まらないもんで。
悶々とした頭で唸っていればカツンと靴音が聞こえた。
「あんたなにしてんの?」
「え」
声がする方へ向けば紫色の髪が私の視界に映り込んだ。
はっとして彼女の顔を見れば私を怪しんでいるのか眉間に皺を寄せていて、可愛げのある八重歯が口元から覗き込んでいた。
「…立ち聞きでもしてたの?悪趣味ね」
鼻で笑うかのような台詞に癖のある声、紫髪のツインテールの前髪の少し上には二つのピンがクロスされており、前髪の奥から覗く八眉が印象的な少女。
私の記憶上からでは判断されない誰か。
思い出させようと彼女を見つめていたら私の視線でさえも煩わしいのか眉間の皺が濃くなった。
「ジロジロ見ないで、気色悪い」
「え、ぁ、ごめんね。ちょっと混乱して…」
「そんなことどうでもいいわ。で、立ち聞きしてたの?どうなのよ」
さくっと無視するとか酷い。どうやらこの娘は自分の質問以外は受け付けないみたいだ。
なんて横暴な、と思いつつ玄條に頼まれた事を伝えれば彼女は呆れた顔で私の言葉をひと蹴り。
「要は立ち聞きしてたんでしょ」
「か、勝手に解釈しないでよ!というか、貴方は誰?他の学校の生徒に見えるけど…」
彼女の的確な言葉が胸に刺ささる。思わず反論してしまった私は内心焦っていたが少しだけ気になることがただ一つ。
彼女が着ている制服がこの学校の制服ではないことだ。
彼女がこの学校の生徒ではない、それは分かるが何故他校の生徒が此処に来るのだろう。確か…今日来るお客様――もとい、他校の方は王子様オーラバリバリの鱈那さんだけの筈。それに彼女の制服は鱈那さんの制服と似ている。
上半分まである薄いベージュのジャケットに白いワイシャツと紺色のベスト。紐をボタンだけで留めるネクタイのようなもの、ジャケットの襟には赤い線、ボタンは赤い大きな丸ボタン。
可愛らしい制服とは正反対の不機嫌そうな顔に思わず背けたくなった。
「他人に名前を聞く時は自分から名乗るって教わらなかった?ったくこの高校には常識人が何人ぐらい居るのかしら。」
「ウチは京、一文字だから覚えられるでしょ?生 徒 さ ん 」
ムカっ。
さっきから聞いてればなんなのこの娘。上から目線というかその言い方は無いだろ。
彼女は私のことが気に入らないから貶しているのだろうか。といっても彼女の言葉はどちらかというと学校を貶してるようにも聞こえる。…どちらにせよ不愉快だ。
「失礼しました。私としたことが自分の立場を弁えていませんでした。私の名前は渚と申します。それでなんのご用でしょうか?」
「今更態度を改めたって意味ないわよ、アホ女。――ウチは鱈那を迎えに来ただけ。別にこの学校の風紀委員サマに用なんか無いわ」
「そうですか。にしても、鱈那さんが仰った学校は言葉遣いが荒い学校では無く気品に満ちた学校だと思ったのですが…あぁ、すみません。他校へ行ったことがないのでよくわからなくて」
困ったように眉を下げ、謝る私は内心ほくそ笑んでいた。
彼女はプライドが高い。さっきの言動もこの学校に対してのこと。まるで自分の学校は一番偉いと言い張ってるようなものだ。
実際、そちらの学校は偉いかもしれないが。彼女から見るこの学校はゴミのような存在と認識しているのだろう。ならば、そのゴミに蹴落とされる気分はどうなのだろう。きっと嫌に決まってる。こんな事は言いたくない。いつもなら相手が飽きるまで無視を決める筈だったのに。
「っ~!!…申し訳ありませんね。少々取り乱してしまいましたわ。あぁ、でも…こちらの学校はそこらへんの学校より優秀な学校です――ここの学校よりね」
「そうですね、私も優秀だと思います。まぁ、マナーに関しては賛成できかねますが」
「そうでしょ!…って何がマナーだ!あんたがマナーを口にするなっ!!」
嫌悪感丸出しのオーラと目つきに笑えるのを堪える。ほんと、この子面白い。
ドヤ顔してはムスっと不機嫌そうな顔に戻すし、表情がころころ変わってて中々退屈しない。
彼女はどうやらその事に気づいていないみたいだけど。彼女を煽ったせいか声量が少しづつ上がってる気がする。このままじゃ二人の話の邪魔だ。――煽った私がいうのもなんだけど。
「ふん!そうやってるのも今のうちよ、あなた達の学校なんか容易く潰せるんだから!!」
なんて物騒な事を言うんだ、この子は。
飛躍しすぎてつい言ってしまったのは分かるけど、幾らなんでもそれはないだろう。そもそもそんなことが可能なのか?
「普通の高校ならできないわ。でも、ここは普通と少し変わってるのよ…スポンサーがついてるからね。」
「スポンサー?」
「そう。スポンサー側は学校を支援することで自分の名を上げることができるワケ。そして、この学校のスポンサーはウチの学校も入ってるわ。まぁ、他の学校から支援されてるみたいだけど、大半はこっち。」
「見返りは?」
「さぁね。それはウチには分からないわ。それは鱈那がすることだから。基本的に、ウチの学校があんたの学校に人材や支援金などを送ったりしてるわ。逆に返せばウチの学校の支援が無ければこの学校は終わりってゆーことよ」
京の話では、学校が潰れぬよう互いを助け合い良い学校にする為、支援する学校をスポンサーと呼び、スポンサーは人材や支援金を送るとその分の見返りや支援することでスポンサー側は多くの人々に知ってもらえる、ということだ。
京や鱈那が通っている学校の他に数名のスポンサーが付いてることから、やっとの事で安定した学校になったのだろう。就職する人もいるので、企業との関係が良好するためにはスポンサーもスポンサーで有名な学校で無ければならない。ここらで有名な学校といえばそこの学校がダントツだ。部活中心で多くの賞を獲得し、有名な大学や企業を得ている。信用性も充分高い。だから彼女はこんなに自分の通ってる高校を謳歌してるのだろう。
「その決定権は鱈那さんがすることで貴女にはないんじゃ?それになんで…」
彼女の話はこの学校が終わることを前提に話している、それがどうも気になった。
確かに大半そこの学校でまかなってきたからそうなのかもしれない。でもそれがずっと続くとは思わない。スポンサーから支援され続けたらそれこそ学校の終わりだろう。それじゃあ意味がない。
スポンサーを外すには結んだ人が必要だ。一般生徒ではなく、学校を取締りする人が―――鱈那だ。
鱈那じゃなくてもその役員に居る人が結び、取り消しすることができるはず。なら、その役員ではない京が何故前提で話すのか。それは簡単な答えだった。
「名誉の為よ。私には決定権はないわ。でも判断する権利はある。
あんたの学校に問題があればこちらにも影響する、それは分かるわよね?問題がある学校に支援なんかしたら名を汚してしまうもの。汚してしまわぬよう、こうやって会談するのよ。」
なるほど。つまり尋問みたいなものか。この学校が悪さをしてないか情報をもらって本当かどうか問い詰めて、判断し決断する。一人で決断しにくいなら判断役を複数連れてきて判断する。彼女は迎えに来た、とか言ってたけど密かに判断してたのか。選任するの間違ってると思うけど。
「で、あなたの学校には問題児がいるでしょ。今のところまだ範囲内だから許せるけど。もしその範囲外からはみ出したらこっちも危ないから忠告してるのよ。だからさっさっと不要物は退学させればいいのに」
「…それって」
「知らないフリしても無駄よ?あんたの貧しい頭でも分かるでしょ?―――錬城 昶の素行ぐらい。喧嘩三昧で、他校と喧嘩を吹っかけてる不要物…まさに害虫そのものだわ」
「ッ…!その言い方ないんじゃないの?」
「何故、怒るの?だだ、要らないものを要らないと同じように害虫も害虫と言っただけ。それの何が悪いのよ」
京は悪びれた表情もせず、淡々と話してく。その表情にふつふつと怒りの感情が沸いてきた。その感情をどうにか抑えようと拳をギュッと締める私に、面白そうに笑う彼女。
そんな彼女に文句を言ってやろうと口を開いた瞬間、大人しそうな声が私と京の間に割り込んできた。
「そこまで、です」
金色の絹のような髪に癖がついていて、そこから見える赤と桃色が混じった丸い瞳。肌は透き通るような白さと綺麗な輪郭。ジャケットから見える白いパーカーと片方に抱きかかえてる紫の兎のぬいぐるみが印象的な彼。そんな彼は間に入り込むと宥めるように丁寧な口調で話した。
「此処は喧嘩する場所ではありま、せん。批判する場所でもありま、せん。怒るのも無理ありません…だけど。仲良くしなきゃ、だめ、です。それに今いるところ分かってますか?」
「ッ~!!!でもっ…」
「京先輩。でもじゃ、ないです。先輩、言いすぎ」
彼はそう言ってぬいぐるみの手を重ねてバッテンを作ると京は言葉にならない声を吐き出した。
それを見ていば自然に目が合ってこちらに振り向いた。
「先輩への無礼…失礼しま、した。後でこちらから…」
「ううん。私にも非があるわけだし、そこまでしなくていいよ。それに迷惑掛けたくないし」
「もう、掛けてますがね」
ヒヤリと背中が冷えてきて、肩に乗せられる手が冷たく感じる。
聞き覚えのある声に後ろを少しづつ向けば、悪魔のように微笑んでいる眼鏡がいました。
「はひっ!げ、玄條様…」
怖くなってダーク玄條を様付けで呼べば、その呼び方が気に入らないのか訂正され肩に乗っている手に力が加わった。
おっと。暴力はいけませんよ、肩の筋肉を摘むなんて卑怯ですよ。それに実は様付けで呼ばれるのは嬉しいんじゃ…ってイタタタ!
「申し訳ありません、こちらの犬が煩くて、沢山のご迷惑失礼しました」
「いや、蓮が謝る必要はないよ。こっちもこっちでお邪魔させちゃったしね。ここはお互い様ということで、無しにしようか」
そう言って爽やかスマイル鱈那がこの場を回収しようとすれば気に入らないのか、京は文句ありげに口を滑らす。
「…こんなとこに支援したって無駄だわ」
「先輩…!!」
「うるさいわね!だってそうじゃない…ここに問題児が居るせいでこっちにも非があるって、信用してくれない人も居て。あんた達のせいでこっちにも被害があるのよ!」
「錬城君は違うっ!確かに喧嘩好きだけど優しいところだってあるよ!それなのに何も知らないで、たった一人をそういう風に決め付けるのはよくない!!」
「はぁ?そんなの誰が信じるワケ?あんたの偽善なんか聞きたくないわ。それとも何?証言者でもいるの??」
「それは…」
言い返せない言葉につまずいて押し黙れば、なにか閃いたかのように手をポンッと叩く鱈那。
それに目を向ければ鱈那は柔かな笑みで提案した。
「ここの学校にボクの生徒を送り込んでみるってゆうのはどうだい?」
「なるほど」
鱈那の提案にいち早く理解した玄條は小さく頷くが私と他二名は唖然としていた。
いやいや、どうしてそうなった。なんでそんな話になるの!?そんな事しなくても今ままでのままの方がいいんじゃないの?
「こうやって蓮に話して今までの情報を貰ったり聞いたりするのも良いと思うんだけどさ、判断する上にはもっと細かい情報が欲しくてね。大切な情報を要らない情報だと判断して話さないのは…ちょっとね。だからさ、そういう事ができないようにしたらいいんじゃないかってね。そうしたら鈴攫さんの言う事も少しは信じてもらえるかもしれないよ」
「スパイ…みたいなものです、か?」
「まぁ、そんな感じだね。で、誰がそのスパイになるかっていう話なんだけど――」
二人を交互に見比べて決めようとする鱈那に京は否定し続ける。そんなにこの高校が嫌なのね。
京は首を振ると困ったような顔をした後輩がおずおずと手を挙げた。なんていい子ちゃんなのかしら。しかも困った顔可愛いし、金髪だから天使にしか見えない。後輩のいい子ちゃん系ってキュンと来ちゃうのよね。
「健太君、なんかごめんね。巻き込んじゃって」
元々言いだしたのは、私だ。それに巻き込ませたのも私なわけで。ほんと申し訳ない。京だったら笑って済ませるんだど、後輩君が巻き込まれるのは気が引く話だ。
「い、いえ。僕も京先輩を止められなかったわけ、ですし…僕の責任です」
「あぁ、もし健太になにかあったら京、君が責任を取るんだよ?」
「えぇ!?なんでよ!」
「なんでって君が嫌がったから健太が引き受けたんだよ。元はといえば、君が文句を言ったのが始まり。それも後輩に引き受けさせるなんて先輩として恥ずかしくないかい?」
王子様オーラを纏ってる鱈那は少し強い口調で言うと、渋々引き受ける京。他人から見れば親と子供にしか見えないのだが、そんな子供をまとめる鱈那は凄い。流石王子様。そして、私の後ろでまた力を加える魔王様。
「じゃあ、そういうことで。詳しい事はまた後で伝えるよ。今日は色々ありがとう蓮。あぁ、鈴攫さんの淹れてくれたお茶美味しかったよ」
「え、ぁ、ありがとうございます…?」
鱈那は嬉しそうに言うと二人を引き連れて行ってしまった。
嵐のような人達で少し実感が湧かないが今日は色々あった。それも肩に感覚がなくなるほどに。
やっと解放された時は暫く腕が冷たく感じたが、玄條が言うには『変な事を考えてたから』やっていたらしい。にしてもやりすぎじゃないですか?
安直してたのもつかぬ間、これからはもっと忙しくなる筈。
健太君がいつ頃来るか分からないがもし来た時にはなるべく問題が起きないようしないといけない、と玄條は言っていたが果たして無事に問題が起きないまま事が進めばいいのだが。
よし、コーヒー飲みに行こうかな
・
「いやーあの時は楽しかったよ。鈴攫さんと言い合ってるところね」
「盗聴ですか?」
怪しむような目でボクを見る京に軽く笑う。
彼女はよく人を怪しむ癖があるのだが分かりやすくて笑ってしまうのだ。
「人聞き悪いなぁ、話してたら聞こえちゃったんだよ。君達の声って大きいからね」
「悪趣味ね、なんでさっさと出なかったのよ」
「出ようとしても、出れるようなタイミング無かったし、もし出てきたらそうやって怒るでしょ?」
「う゛…」
半分は二人のやり取りが面白くてわざと出なかったんだけどね。
「あの、先輩」
「ん、なんだい?」
「ここって何処です、か?」
「…なんだろうね」
「また迷子じゃないですかぁああああああ!!」
あはは。そんなに怒らないでよ。僕だって未だに覚えられないんだよ。
まぁ、彼ならもう準備してると思うけどね。だからさ、ちょっとゆっくりしていても問題ないでしょ?




