24…王子様オーラ
あぁ。来なければよかった。こんなのってないよ。
玄條から頼まれた仕事は来客を応接室まで案内しお茶出しをするという仕事。こんな仕事なら別に私じゃなくても違う人にも頼めるような仕事で、なぜ私に頼んだのか理解できない。
人に寄り付かせないオーラと厳しさを半減させれば可愛い子達がお茶出しでもなんでもしそうなんだが。それこそ玄條っぽくないやり方と言えばそうなんだけど。
でもなぜこの仕事を私に、来客なら自分から行ったほうがいいんじゃないの?それとも事情があるのかな。下準備とかなら分かるけど、そこまで時間が掛かるようなものなのだろうか。
『ゆっくり連れて来てくれ。』
玄條が爽やかな笑みで後付けしてきた言葉。
「連れて来い」ということは分かる、問題が前の言葉。「ゆっくり」とはなんだ。いや、「ゆっくり」そのものの意味じゃなくてどうして「ゆっくり」行かないといけないのだろう。普通に行っちゃ駄目なのかな。それとも単なる考えすぎなのか。
あぁ、でも来客が来るなら学校の宣伝にもなるし特色ぐらい言ったほうがいいのかな。余計なことかもしれないけど、来客ってことはこれからもその人と仲良くしていかなきゃいけないから。そっか、その為か。ん?待てよ…?それって私がわざわざ伝える必要ないんじゃないの。寧ろそれを伝えるべきなのは玄條でしょ。じゃあなんで私に?――そっか。
玄條は私に面倒事を押し付けたのね。
へぇーふぅーんそーなんだーって納得するわけないじゃない!!!あんなイケメン顔しといて面倒事を押し付ける悪魔がいるなんて驚きものよ!
確かに玄條なら酷いこと普通にしそうだなーとか思ってたけど、期待した私が馬鹿だった。あの顔は詐欺、イケメンは詐欺、全部詐欺!!玄條と主人公ちゃんを比較したら断然主人公ちゃんだわ。あんな悪魔にぼろ雑巾扱いされるより主人公ちゃんとうふふあははイベントの方が良いにきまってる。
にしても最悪だなぁ。今から放棄したら迷惑掛けちゃうし、もう断れないし。
「あぁ!もう!!」
何度も深呼吸を繰り返し、疲れ切った顔に喝を入れて無理やり思考を変えさせる。
この地図通りに行けばいいんだよね。また胃が痛くなってきた…苦しいけど頑張らないと。自分から引き受けたんだから最後までやり通さないと。逃げちゃ駄目、ほら大丈夫。人を案内するだけの仕事なんて楽勝じゃない。バイトしてた時、どう言う風に接客していた?その接客をすればいいだけ、やれる時はやれるんだから。
◆
玄條お手製手書き地図を頼りに進めればだんだん気になってしまう来客者のこと。
やっぱり自分の通ってる学校と違えば色々気になってしまう。特に制服は欠かせない。女子たるもの制服はどうしても気になるのだ。
ここの学校は基本ブレザーで女子はリボンの色、男子はネクタイかループタイの色が学年ごとに決められている。
色は男女共に一年生はピンクか赤、二年生は水色か青色、三年生は緑と決められている。女子のリボンは斜めストライプなんだけど間に王冠みたいな柄が入ってて結構自分の中では気に入ってる。スカートはチェック柄でブレザーは紺色で男子もほとんど変わらない。中にはブレザーは着ないでパーカーを着たり、女子がネクタイをつけたりなどファッションで着崩してる人もちらほらいるけど、それは玄條が見張っていない時だけで。風紀委員に目をつけられるのが怖いんだとか。そんな怖い風紀委員の目が瞑るのは文化祭や歓迎祭などイベントの時だけで、よっぽど我慢してたんだね…と思うほど激変してる人もいる。
そんな学校に対し、他校はどういう制服制度が行われているのか気になるところだ。厳しい風紀委員が一人いるなら優しい風紀委員も出てきて欲しいし、むしろこっちに来てほしいぐらいなのだが。
そもそも、その風紀委員の容姿も気になる。乙女ゲームではよくあるモブキャライケメンか。それとも真面目と言わんばかりの七三ビン底眼鏡か。流石に後者はないと思うけど居たらいたで凄そうな気がする。
悩んでるとどんどん膨らんでいくもんで、いつの間にか指定場所に着いていた。
七三か、イケメンに該当する人を探していればそれっぽい人を見つけ出す。その人は誰かを待っているようで腕を組みながら佇んでいて、なるほどこの人か。
近づいて声を掛けて合ってるかどうか確かめてみるとこちらを振り向く来客者。同時に心臓を締め付けられたような感覚。
「そうだけど…君が来るってことは玄條に頼まれたのかい?」
「え、ぁ…はい」
イケメンを通り越して王子様でした。
茶髪で左分けショートヘアーに翡翠色の瞳。目元は少し垂れ下がっていて優しそうな印象を受ける。制服は薄いベージュに白いシャツとネクタイ。カーディガンとシャツの襟には二本のボーダー。
優しい表情をしているせいか王子様にしか見えない。この人絶対金髪似合う。
王子様オーラが眩しすぎてよく見えない私に大丈夫?と心配そうに声を掛けてくる王子様。顔覗かないでください、鼻血で貴方を汚してしまいそうで怖いです。
女子からの視線を浴びないよう、ある程度の距離を保ちつつ案内を開始する。ここの校舎は無駄に広いから迷子になりやすく、生徒でも迷子になりがちだ。
まぁ、この人なら人の目を盗んで違う所へいくような人ではないと思うから心配ないかもしれないけど。
「わざわざすまないね、迷惑だったでしょう」
「?どうして謝るんですか、頼んだのは玄條さんなのに」
「私から頼んだんです。ここには数回来てるんですが未だ覚えてなくて…。彼だとなかなかペースが合わなくて迷惑ばかりかけてしまうので」
なるほど。だから玄條は「ゆっくり連れて来てくれ」と頼んだのか。
別にそこまで遅いという訳じゃないけど少し遅い。せっかちな人なら少々気に障ると思うけどそこまで気にするような事じゃないし。話してたら誰もが遅くなってしまうもんで。
「いえ、謝らないでください。それよりゆっくり歩くなら我が校の特色について少し話そうと思ってたんですがいらないみたいですね」
「そこはちょっとだけ彼に教えてもらったんだけど…君の思うこの学校について興味はあります」
話を振ろうと顔を見る彼に私は面接試験をふと思い出す。なんかこういう問題だった気がする。高校生生活についてとか、特色とか、頑張ったところとか。
まさかここでも面接があるとは思いもしなかったけれど。
「えぇ…と。この学校は風紀委員の方が厳しくしているので少々窮屈ですが、私は面白くて気に入ってます」
「どうしてです?」
「イベントがある度に皆はっちゃけちゃってお祭りみたいに楽しんで、終わったら真面目に授業を受けてたり、大人しい先生でさえもイベントでは盛り上げ役になったり知らない人がみたら急変っぷりに驚くと思いますよ」
「風紀委員さんは?」
「いじられキャラになってましたね。前は背中に張り紙が貼られてたのに気付かないで校内を回ってましたからね」
その張り紙に書かれてたのが『悪い子はいねぇ゛かぁ!』と筆ででかでかと書かれた下に可愛いマスコットが描かれてて面白かった。厳しくて怖いのに背中は可愛いというギャップと言葉にツボに入っちゃって笑いを堪えるのが大変だった。
そのことを伝えたら彼も笑いのツボに入ったらしく壁に寄りかかって笑いを耐えていた。
「とにかく私が思う我が校は面白いところです。皆イベント好きで一日中はしゃいじゃうぐらい」
「…それはとても面白いですね。私も一変した空気を楽しみたいです」
クスクスと笑う彼はまだツボから抜け出せなくて私もつられて笑ってしまった。
そのせいかお互い話が盛り上がって、彼の通う高校についてのことなど聞かせてくれたんだけど予想以上に凄かった。
部活を主に力を入れていて二年生まで全員が部活に所属している。特に文化部に力を入れていて美術部や茶華道部の作品は県内で金賞を受賞している。道具も豊富でプロの方が指導してくれるなど。吹奏楽部もそれに当てはまるが、去年はあともう少しで全国大会で優勝するところまで行ったが落ちたらしく今年はさらに力を上げてるんだとか。
写真で見せてもらった氷彫刻と生け花の融合写真は凄く綺麗だった。これを文化祭に出してるあたり頭が痛くなる。
彼も部活に所属しており、吹奏楽部でフルートを担当していてなんともイメージにピッタリだ。
え?私?入ってますよ。「家に帰るまでが部活」をモットーとした帰宅部にね!!!
「案内お疲れ様、面白い話が聞けて良かったです。あぁ、そういえば名前を教えるのを忘れてましたね。私は鱈那と申します以後、お見知りおきを。」
「こちらこそ沢山お話が聞けて良かったです。またこちらいらした時に沢山お話を聞かせて下さい」
あぁ、今日はある意味充実した日じゃないか。お茶出ししなくちゃいけないんだけど。
でも違う学校のことを聞くのもいいのかもしれない。さっきも聞いてみて行ってみたいと思った。
そしていつまで経っても消えない王子様オーラを感じていたいと思いました←
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