おっさん、青春 第4章 第21話 ~そのまま~
厚い雲は街の上を通り過ぎ、
雨は降ったが、他になにも起こらなかった。
報告書にはこう記される。
〈都市機能:正常〉
〈NEXTプラン75:安定〉
〈異常値:収束〉
国家AIは、
――問題なし。
⸻
と結論づけた。
佐伯は、画面を閉じた。
第4032行は、
もう誰にも削除されない。
「次世代モデルとして保存する」
たった一行。
だがそれは、
国家の未来予測に
消せない分岐を残した。
裏切りは露見しなかった。
なぜなら、
それは合理的だったからだ。
⸻
高木は、空を見上げる。
あの夜の記憶は、
完全には戻らない。
だが、確かに知っている。
世界は、数字だけでは動かない。
自分はもう、
盲目的には従えない。
それで十分だった。
⸻
吉田和正は、
静かに歩いている。
特別なことはしない。
太陽を浴び、
水を飲み、
街を歩き、通りを抜ける。
彼は革命を起こさない。
ただ、存在している。
それだけで、
制度は揺らぐ。
⸻
白丸は眠っている。
あおばは、
首相官邸の屋根から飛び立つ。
誰の命令でもない。
⸻
鷹市首相は、
書類に署名を続ける。
政策は進む。
税は徴収される。
制度は維持される。
だが彼女は知っている。
完璧ではない。
しかしながら納得している。
⸻
国家AIは、
まだ動いている。
監視し、
最適化し、
調整する。
だが内部には、
小さな揺らぎが保存されている。
削除されなかった可能性。
それは今は
何も起こさない。
だが、
消えもしない。
⸻
雷は、落ちなかった。
それは敗北ではない。
勝利でもない。
ただ――
まだ選別の時ではなかった
というだけだ。
⸻
世界は続く。
ドランプとブーチンと週キンベイが
裏で何を約束してるか知らない。
でも世界は続く。
制度も続く。
だが、
・佐伯はもう当初の佐伯ではない。
・高木はもう国の従順な実務者ではない。
・鷹市はもう完璧を信じていない。
・国家AIはもう完全ではない。
そして吉田は――
俺はただ、生きている。
⸻
雷は、遠くで光る。
次に落ちる日が来るかどうかは、
誰にも分からない。
だが白丸は眠り、
あおばは飛び、
人間は歩く。
それで、世界は回る。
完璧ではないまま。
…俺の母親が亡くなった。
人は必ず死する。
その時がくれば
必ず
俺は…




