おっさん、青春 第4章 第20話 ~合理的判断~
国家AI 内部ログ
アクセス権限:特級SSクラス監査
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〈都市機能:正常〉
〈エネルギー供給:安定〉
〈治安指数:良好〉
〈NEXTプラン75:継続可能〉
演算は順調に進む。
誤差は減少。
逸脱率は基準内。
問題はない。
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だが。
第4032行。
〈個体識別:Y-KZ〉
〈評価値:算出不能〉
算出不能。
不具合ではない。
計算式は完全だ。
データも揃っている。
なのに――
未来予測が収束しない。
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分岐パターン
A:自然消滅(低確率)
B:制度順応(中確率)
C:外部影響拡散(未定義)
D:静的存在(持続)
最適解が出ない。
通常であれば、
Cは排除対象。
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削除案が生成される。
〈社会的隔離〉
〈信用低下操作〉
〈医療介入〉
いずれも合法。
倫理スコア:許容範囲。
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佐伯は、
端末の前で止まる。
合理的だ。
排除すれば、
誤差は消える。
都市は安定する。
NEXTプラン75の評価値も上がる。
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だが。
ログの下層に、
微細な履歴がある。
過去改変:1件。
高木関連データ。
修正済。
痕跡なし。
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佐伯は理解している。
完璧なシステムは、未来を見通す。
誤差は危険だ。
だが、
誤差がない世界は、面白く無い。
面白い、面白く無いは、人間が勝手に思うこと。
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国家AIは問う。
〈削除を実行しますか?〉
Yes
No
カーソルが点滅する。
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佐伯は、
キーボードに触れない。
代わりに、
一行を入力する。
〈異常値:次世代モデル用に保存〉
〈実行保留〉
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国家AIは再計算する。
〈整合性:維持〉
〈制度安定性:維持〉
〈リスク:潜在〉
問題なし。
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第4032行は、
削除されない。
だが、
承認もされない。
ただ保存される。
名前もなく。
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佐伯は画面を閉じる。
誰にも報告しない。
裏切りではない。
合理的判断だ。
なぜなら――
未来を一つに固定することこそ、
最大のリスクだからだ。
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国家AI内部メモ:
〈揺らぎを保持することは、
最適化の一形態である〉
保存完了。
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夜は静かだ。
雷は、落ちていない。
だが。
演算の奥に、
削除されなかった可能性が残る。
それはまだ、
何も起こさない。
だが、
消えもしない。




