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おっさん、青春 第4章 第19話 ~4032~


稲光は、まだ遠い。


空は暗い、光だけ見える。

切迫はしていない。


ニュースでは、

「大気の不安定さ」が

いつもの言葉で処理されている。



吉田和正は、

自分の身体の異変を

説明できなかった。


痛みではない。

不調でもない。


ただ――

少しズレている。


足を出す前に、

もう着地している感覚。


息を吸う前に、

胸が膨らんでいる。


考える前に、

判断が終わっている。


それは便利でもあり、違和感でもあった。


俺の判断は、

違和感はそのままで良いし、

白丸や佐伯も何も言わないし、

ならば、大丈夫と思っている。


だから、俺も他の誰も


記録しないし、記録されない



街を歩く。


横断歩道。

人の流れ。

信号。


すべてが、

一拍だけ早く見える。


危険が、

先に避けられている。


偶然だ。


そう思って生活してきた。


だが、今回は、いつもと違う違和感と偶然が続く。



高木

高木は、

資料をめくる手を止める。


意味のない白いページ。


どこか、

削られた感覚。


思い出そうとすると、頭が拒否する。


それでも、

確信だけが残る。


自分は一度、

 ここではない場所を見た。



佐伯のモニターに、

わずかな遅延が出る。


通信エラーではない。

負荷でもない。


説明不能。


だが、

無視できる程度。


ログには残らない。



白丸は、


幸子の家にいた時と同じように、

ここでも同じように、こたつの中で丸くなっている。


規則正しい呼吸。


異変に反応しない。


猫は、

未来を読まない。


ただ、

今にいる。


吉田が近づくと、

チラッと見るだけ


それだけ。



あおばが、

ビルの縁で羽を整える。


都市の光が反射する。


一瞬だけ、反射する。


都市の気流が、

わずかに変わった。


高いところから見れば、

雷雲は均一ではない。


歪みがある。


でも落ちない。



国家AIは、

演算を続けている。


問題はない。


誤差は許容範囲。


NEXTプラン75は、

安定している。


結論は、変わらない。



だが。


一つだけ。


未来予測の端に、

名前のない影が残る。


削除候補にも、

保護対象にもならない。


ただ、

消えない。



俺は、夜のベランダに立つ。


雨の匂い。


遠くで光る稲光。


音は聞こえない。


「……落ちないな」


独り言。


理由はない。


予感でもない。


ただ、

そう思った。



雷は、

まだ選ばない。


世界は、

まだ揃っていない。



国家AIのログの奥底の

第4032行が微かに点滅した。


記録形式外。

分類不能。

優先度未設定。


AIによる自動補正は、実行されない。



こたつの中で眠っていた白丸の耳が、

一度だけ、ぴくりと動く。


尻尾の先が、

ほんのわずかに揺れた。



ビルの縁。


あおばが首を傾ける。


青い羽の隙間に、

光が反射する。

一瞬だけ。


規則的ではない、わずかな瞬き。



それが

街のどの通信とも

同期していないことを、誰も知らない。



ログは閉じられない。


だが、

消去もされない。


白丸は眠る。


あおばは飛ばない。


雷は、まだ遠い。


そして第4032行は、

誰の管理にも属さないまま、そのままそこにある。



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