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巫のまつりごと  作者: 一靑華巳
初夏
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待ち時間

 今日は、丸一日お休みの日。昨日の反省を生かし、私は朝から酒の肴作りに励んでいた。


 本当は領主様がお休みの日に訪ねようと思ったのだが、あいにく彼には決まった休日というものは存在しないらしい。殆どの時間を公務に注いでいるらしく、まさに神出鬼没。


 だから、私は早めに料理を作り終え、摩天楼で待つつもりだった。けれど、あれやこれやと納得の行く物を試していたら、気付けばお昼前になってしまっていた。


 私は急いで後片付けを済ませる。お重を風呂敷で丁寧に包み、酒瓶も別の風呂敷へ包み直した。準備万端に、私は五光亭を後にする。


「領主様はいらっしゃいますか?」


 庭守の朔夜さんに尋ねると、彼は首を横に振る。今朝から出ていて、まだ戻って来ていないらしい。情報通の管狐達にも聞いたが、姿は見ていないという。


 私はお庭で待たせてもらうことにした。初夏の気配が満ちる此処は居心地が良い。


 薔薇の花が見事に咲き誇り、塔の外壁には青い花が蔦のように絡みつき、螺旋を描くように咲いていた。風が吹く度に、花々が小さく揺れる。


「綺麗だなぁ……」


 思わず声が漏れた。現世に居た頃は、花をじっくりと鑑賞する余裕なんて殆ど無かった。学校や仕事に追われ、季節が変わることすら見過ごしていた気がする。


 けれど、此処では違う。花の香りを感じて、風の音に耳を澄ませる。景色を眺めるだけの時間が、不思議と心を軽くした。


 そんな風に花を眺めていると、


「胡和〜!」


 白練様がこちらへ手を振りながら歩いて来た。時刻はちょうど十三時頃。管狐達の稲荷寿司も用意していたが、作り過ぎてしまった。


「良かったら、白練様も食べませんか?」


 そう言って風呂敷を開くと、彼女の目がぱっと輝いた。保冷剤を入れていたおかげで、稲荷寿司は程よく冷えている。甘辛く煮た油揚げの香りがふわりと漂い、食欲をそそった。


「やはり、胡和の料理は絶品じゃ〜」


 白練様が、頬を緩めながら声を上げる。


 管狐達も中庭に呼んで、稲荷寿司パーティーの開幕だ。


「わーい!」


「いなりずしだー!」


 あっという間に、風呂敷の周りは賑やかになった。


「モグモグ」


「ガツガツ」


「おかわり〜!」


 皆が無我夢中になって食べ進める。狐が油揚げを好むことは知っていたが、まさかここまで稲荷寿司に食いつくとは。小さな手で稲荷寿司を抱え込み、頬張る姿は何とも愛らしい。


 口元にご飯粒を付けながら食べる者。誰よりも早く食べ終えようと競争している者。幸せそうに尻尾を揺らしながら味わっている者。それぞれ好き勝手なのに、皆とても嬉しそうだった。


「たくさん作って、良かったです」


 思わず、そんな言葉が零れる。


「お前達、胡和に感謝するのじゃぞ〜」


「「こよりさま〜!」」


「「ありがとうございます〜!」」


 元気いっぱいの声が、中庭に響き渡った。その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。自分の作った料理をこんなにも美味しそうに食べてくれる。


 管狐達の笑顔を眺めながら、私はそっと微笑んだ。


 それからというもの、昼を過ぎても領主様は戻って来なかったので、私はまた彼の部屋で待たせてもらうことにした。


 本当は勝手に上がるのも気が引けるけれど、白練様達があまりにも勧めるので、つい。戻って来た彼から悪態をつかれなければいいのだが……。


 私は畳の縁を踏まないよう、壁を背に膝を抱える。部屋の中は静かだった。


 彼はいつ戻って来るのだろう。足音が聞こえたような気がして、はっと顔を上げる。


 けれど、違ったようで、また膝に顔を埋めた。忙しいのだろう、領主なのだから当然だ。


 自分に言い聞かせながら待っているうちに、瞼が次第に重くなる。気付くと、意識は微睡みの中へと沈んでいた。

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