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巫のまつりごと  作者: 一靑華巳
皐月
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決戦後

 少女は戦いに挑み、思いの外あっさりと敗れた。


 人間の身体にしては、よく戦った方だろう。だが、やはり鬼に致命傷を与えるには至らなかった。不死身の身体とは実に厄介なものである。


 地に伏した少女は微動だにしない。けれど、その手には未だに刀の柄が強く握り締められていた。


「……終わりか」


 そう呟きながらも、俺は少女から目を離せなかった。この一週間で、よくぞここまで仕上げたものだ。


 妖刀娘と鍛錬に励んでいたのは知っていたが、やはり昨夜のことが余程堪えたのだろう。俺を見据える目には執念が宿っていた。人間というのは追い詰められると、ここまで喰らいつくものなのか。


 だが、まだ足りない。俺は彼女の傍らに膝をつき、その顔を見下ろした。


 手加減はしたつもりだが、擦り傷ができている。泥と砂に塗れ、まるでボロ雑巾のように転がっていた。今にも、消えてしまいそうな程に脆い。


 少女を両手に抱き上げる。網代車を手配して正解だった。不死身の肉体とはいえ、いつもより傷の治りが遅い。妖刀の名も伊達ではなかったようだ。


 腕の中の温もりを確かめながら、俺は小さく息を吐く。


 五光亭に送り届けても良いが、これ以上血で汚す訳にはいかない。


「摩天楼へ向かってくれ」


 短く告げる。


 やがて、天高く聳える塔の前に着き、胡和を抱えたまま中へ入る。庭で待ち構えていた白練が目を見開いた。


「お、お主……、とうとう人殺しを……?!」


 悲鳴にも似た声が響く。


「待て。これは俺の血だ」


 改めて見れば、胡和の着物は見る影もない。鮮血に濡れ、赤黒く染まっていた。抱き上げている俺も、同じような有様だ。誤解するのも無理はない。


「何じゃ、びっくりさせおって」


 白練は胸を押さえ、大きく息を吐いた。


「悪いが、着替えさせてやってくれ。気を失っているようだが、念の為医者にも診せろ」


 外傷は浅い。だが、あれだけ無茶をしたのだ。見えない箇所に異常があってもおかしくない。


「うむ。任せておけ」


 白練は婦女の姿になると、胡和を受け取る。


「だが、お主も医者に診てもらえよ。酷い有様じゃからな……」


 痛みは殆ど感じなくなったが、やはり見てくれは悪いらしい。


「そうだな」


 俺は一人、自室へ向かった。廊下を歩くたび、血の跡が点々と続いていく。


 早く止血しなければならない。誰に言われるまでもなく分かっていた。


 部屋へ入ると、畳の一角へ手を掛ける。重い音を 立てて持ち上げれば、その下には地下通路へ続く暗い階段が口を開けていた。


 ひやりとした空気が流れ出す。俺は壁に手をつきながら、一段ずつ降りて行った。


 ぽたりと、石段に血が落ちる。また一滴。静まり返った地下通路には、その音だけが妙に大きく響いた。


 視界が僅かに揺れる。流石に、血を流し過ぎたか。


 それでも足を止める気にはなれなかった。暗闇の奥へ。誰もいない場所へ。俺は身体を引き摺るようにして、ゆっくりと歩みを進めた。

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