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【本編完結】【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第五章(最終章):未来キャンバスと、素顔の肖像画(ポートレート)

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第94話:激情と不安のマーブル、夜の公園のルーティン

はむっ……んちゅ。

ちゅっ……ちゅっ。


「んっ……んんっ」


彼女は俺の首筋に顔を埋め、息を吸い込んだ。背中に回した腕に膨らんだ背中の感触が広がる。


「だから……いっぱいチューして、ガマンするの……///」


か細い陽菜の声が耳元に届く。

耳に吹き付ける陽菜の甘い吐息が、俺の肌を直接熱くする。


「ともくんの描いてる絵、みたいなあ」


「いいけど……叩かれ台のデッサンだから、ぐちゃぐちゃな所もあるよ?」


「だから見たいんだよぉ。

……そんなの見れるの、私だけだもん」


俺の頰に唇が当たる。


「……うん、見せるよ、陽菜に」


「やったぁ……困ったときは半分こ。

……忘れちゃヤダよ?」


「うん。陽菜も……な?」


含み笑いをした陽菜は、俺をついばむように唇を当てていく。


頰……


唇……


あご……


首筋……。


恋人に包まれているようなうっとりとした気持ちは、喉元の痛みでぱちんと弾けた。


陽菜がキスではなく、歯を立てて甘噛みしたのである。


「痛っ……陽菜?」


「……ごめん

……なんか思い出しちゃって……

つい……んんんっ!?」


俺は、謝る陽菜の言葉をキスで塞いだ。


ちゅっ……ぱぁっ……はぁ……


静な空気の中で、俺たちの吐息だけが白く溶け合い、重なり合っていく。


「……忘れないで。

灯くんの熱も、匂いも、全部……

私のものなんだから」


唇を離した陽菜の瞳。


三段跳びで見せる「不死鳥の輝き」が俺に向けて燃え輝いていた。

俺は、その揺らめく炎をそっと抱きしめた。




数日後のレッスン後の日立先生のアトリエ。

みんなが引き上げた後、また俺は独り、イーゼルに向かっていた。


塩浜さんから聞いた印象的な思い出話からイメージした、たたかれ台のデッサンは五枚。


記憶をたどりながら、少しずつ手を入れ、瑞恵さんを浮かび上がらせる。


一枚目。

『寒い日は店の隅でな、売り物の豆炭で芋を焼いたんだ。

アイツは『美味しい!!』って言って、半分に割った芋を頬張っていたよ』


食べること、生きることを肯定する、生命力に溢れた笑顔を描いたデッサンだ。


二枚目。

『雨が降った時、結露した借家の窓に指で「ツダシゲ商会」と書いてな。

「いつかビルを建てようね」ってアイツは笑っていたよ。本気だったよ』


TSEグループの前身、ツダシゲ商会。

走り始めた塩浜さんに寄り添うパートナーとしての覚悟を宿した顔。


笑顔って、その人の覚悟と強さで輝くものだと思うから。


三枚目。

『納品した帰りにな、夕暮れの霞ヶ浦沿いを走ったんだ。

『これからだよね、シゲちゃん』ってトラックの窓を開けて、まぶしそう笑っていたよ』


未来を見据えて、歩んでいく意思のこもった顔。

その後、会社がTSEとして成長して、偶然夕暮れの霞ケ浦を走った事があったそうだ。

その時、塩浜さんがこの話を思い出して、傍らの瑞恵さんに話したら、瑞恵さんの笑顔が寂しげだったって言ってたな。


四枚目。

『会社が小さかったときは、休みの日は霞百貨店に行ったんだ。

金がないから見るだけだ。

『いつか、この口紅を買ってね』っていたずらっぽく笑っていたよ』


塩浜さんの才覚を信じている表情。

ただ、この話をする塩浜さんは歯切れがわるかった。

霞百貨店が閉店する直前に最高級の口紅を買ってあげて喜んでいたと聞いているんだけど……。


そして、五枚目。

『燃料屋がみすぼらしい車じゃいけないって、あいつは言った。

で、無理して買った月賦の車さ。

あの頃、ガダガタ道を走ったら、きゃあきゃあはしゃいでた……

最高に綺麗だったよ』


情熱的なドライブデートの横顔。



鉛筆が止まり、腕組みして天井を見上げる。


「なんか、足りないんだよな」


俺や陽菜にはまだ足りない何かがある。

付き合い始めの俺たちでは、瑞恵さんのはしゃいだ空気感を描くのはむつかしい。


「……頼んでみるか、あの人に」

【担当:誉田灯(情念の画家/高校生)】

「いっぱいチューして、ガマンするの……」。 陽菜の甘い吐息が、俺の肌を直接熱くする。

抱きしめるたび、俺の視界は、普段見えないはずの影のグラデーションを捉え始める。

彼女の熱が、俺に「瑞恵さん」を描くための色彩を与えてくれるんだ。

「半分こ」の約束を胸に、俺は再びイーゼルに向き合う。


次回、第95話『五枚の瑞恵さんと、欠けているピース』 笑顔、覚悟、未来、そして……。俺たちにはまだ描けない「何か」がある。


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