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【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第五章(最終章):未来キャンバスと、素顔の肖像画(ポートレート)

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第93話:柊珈琲店の公開処刑、あるいは嫉妬のラテ

「い、いや、言ってない言ってないっ!」


思わずポケット越しに定期入れを握る。

エラい厄介な、ファン兼友だちができたものだ。


シュゴゴゴ……


ラテのミルクを作る音が響く。

俺がしおらしくしているのと、いきり立っている陽菜自身が周囲の注目を集めていることにようやく気づき、立腹少女はため息をついた。


「……とにかく、私には一番に言ってほしかったんだから!

彼氏、失格だよ!」


「ごめん……でも、なんて言うか、実際のファンがいるってこと自体、びっくりしてるんだ。

……それも二人も」


ギラッと身を見開き、眉毛が吊り上がる幼なじみ。


がたん。


「な……ふーたーりぃ!?」


身を乗り出す彼女。

陽菜の鼻息で、俺の前髪が揺れる。

予想通りのリアクションだが、これ以上この話で陽菜をモヤモヤさせたくない。


「あ、え、あの……岩瀬さんと……」


俺は震える指先で、目の前で目を三角にしている陽菜をそっと指差した。


「……ふぇっ? ……あ……え?///」


「あ……違った?

陽菜は、俺の絵のファンじゃ、なかった?」


覗くように上目遣いで陽菜を見上げる。


かちん。


マシンが動作を止め、ゆったりとしたBGMがやけにはっきり聞こえる。


「ちがっ……た?」


陽菜の顔が、耳の付け根まで真っ赤に染まっていく。

口を尖らせた恋人は、ストローの袋をクシャクシャに丸め、俺に投げつけた。


「……もう、バカ! 知らないっ!///」


鼻先に当たった紙屑がコロコロとテーブルに転がる。


嫉妬、怒り、悲しみ、驚き、喜び。


いろんな感情が混ざると、こういう顔になるのか。

目の前の、顔を真っ赤にしてスネながら、嬉しそうに腕組みしている陽菜。


そのままマーブル模様のように感情が混ざった顔をして、足音を立ててお店を出ていった。

何となく、店内がホッとした空気になる。


伝票を持ってレジへ向かうと、佐倉さんがイタズラっぽい笑顔でレジを打ってくれた。


「灯くん、モテモテねぇ。私もお友達になっていい?」


ネームプレートの柊マークが増えた佐倉さんは、いじるのが楽しくて仕方ない様子だ。


「……やめてくださいよ。大変なんですから」


「ふふふ。……まあ、あの娘の気持ち、わからないわけじゃないわ」


佐倉さんにお金を渡す。

結局、二人分支払うことになってしまった。


「……大事にしてあげてね。

ほら、あんまり待たせるとまた怒られるわよ」


お釣りを渡す佐倉さんの眼差しは、柏木さんにそっくりだった。




「ん……ふぅ……んっ……///」


視界の端で、ポニーテールが揺れる。

いつもの公園の、いつものベンチ。

自転車を停めた俺たちは、いつものように引き寄せられ、唇を重ねる。

恋人の首筋から漂う、甘やかで爽やかな香りが気持ちを落ち着かせる。


ちゅっ。

ぷちゅっ。

んちゅっ。


手指をからめて抱きしめると、制服越しに陽菜の体温が伝わるようだ。


ちゅぱっ……。

ぎゅっ。


唇が離れると、陽菜は俺の耳元で囁いた。


「……さっきは……ごめんなさい」


「もう……いいよ……

気持ちはわかったから……

こっちこそ、ごめんな」


お店を出た直後の陽菜は、それこそ燃えるような様子だった。

しかし、時間が経って頭が冷えてきたのか、公園に向かう途中で元気がなくなってきた。

信号待ちをしている時など、さみしげに俺の袖を引っ張っていた。


「でも……すきなんだもん///」


「うん……俺も……」


むちゅっ。

ちゅちゅっ。

はふっ。


重ねた唇を離した陽菜が、からめた手指を強く握りしめた。


「……本当はね……もっとくっつきたいの……」


街灯に照らされた恋人の顔に浮かぶ、昼間のような『彼女は私だ』という激しい感情。


「だけど……そうするの、まだ怖いから……」


そして、キス以上に踏み込むことで、陽菜自身がどうなるかわからない、という不安げな表情。


目の前の顔は、激情と不安にゆらゆらと揺れている。

【担当:神栖陽菜(陸上部/灯の恋人)】

「怒ってるの!わ・た・し!」

隠しごとはナシって言ったのに、ともくんのバカ。

「Torch」なんてかっこいい名前で絵を描いて、しかもそれを鈴江ちゃんにだけ教えてたなんて。

……私には、一番に言ってほしかったんだから。 彼氏、失格。

……でも、私のファン一号は譲らないからね!

次回、第94話『激情と不安のマーブル、夜の公園のルーティン』 「本当はね……もっとくっつきたいの」。

暗闇で、私の本音が零れだす。

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