製作ノート 20ページ目
◆文字描写で「カメラズーム」に挑戦
「手触り感」のある作品作りにおいて、本作で意識的に挑戦していたのは、文章による「カメラズーム」です。
これまでお伝えしているとおり、AIの副監督が書くたたきの文章は、往々にして説明文になります。
いわゆる「引きの映像」というものですね。
部屋に誰がいて、何が起きたか。
ヘタをすると登場人物がベラベラと状況説明するセリフまで発してしまう。
副監督は頑張ってくれてはいますが、それだとどうしても「手触り感」は少ない。
私はそこへ、映画のカメラが被写体にじりじりとズームインしていくような視線誘導を文章でできないか、と挑戦してみました。
広い空間から人物へ、そして表情へ。
先ほどの解像度アップの事例を思い出してください。
キスをするという行為に沿って
「陽菜の様子、服装、香り(全身もしくはバストアップ)」
「服の手触り(服にズーム)」
「肌(手や首筋にズーム)」
「髪(触れた手と陽菜の表情にズーム)」
「唇(陽菜の顔のアップ、もしくは二人のキスにカメラスイッチ)」
と段階的にフォーカスを絞り込むように問いかけをしていましたね。
このように、本作ではカメラワークのようなイメージを持って描写を考えていきました。
実際の例として、いくつか振り返ってみましょう。
1.瑞恵の肖像画と「真紅の唇」(第128話)
アトリエの二台のイーゼルという空間から始まり、除幕された絵を見た塩浜が吸い寄せられるように距離を詰める。
視線は肖像画の「二枚それぞれの唇」に注がれ、最後は触れる寸前の近さで「アリザリン・クリムゾンが映える、真紅の唇」の超アップへと寄り切るズームです。
2.陸上競技大会、フェンス越しの対峙(第24話)
広い競技場の観客席から、絶望してフェンス際に立つ陽菜へとカメラが移動します。
手を伸ばせば届きそうな距離」を経て、最終的に「フェンスに顔を近づけ、彼女の潤んだ瞳を、真正面から見つめる」。
感情高まる瞬間にフォーカスを当てました。
3.岩瀬鈴江への「壁ドン」と限界突破(第64話)
横丁の雑踏から、セットの物陰という狭い空間へ。
至近距離で視線が絡み合い、彼女の顔が深紅に染まっていく。
荒い息づかいという聴覚的な接近を経て、最後は「赧い鼻から、一筋の別の赤(鼻血)が伝う」という決定的なアップにしました。
4.横丁の夕焼けと陽菜の「汗」(第42話)
雑踏から離れたフォトスポットで、照明に照らされ輝く「ラムネの瓶」から視線が始まります。
そこから上目遣いの赫い顔へとフォーカスを移し、最終的には「水玉の開襟シャツの胸元から見える、汗ばんだ素肌」まで。
背景から陽菜の表情、そして「体温」を感じさせる質感へと、読みながら視線を誘導していただくように書きました。
こうした「ズームしていく」視線誘導は、一般的なWeb小説の作法とは少し異なるかもしれません。
しかし、副監督が用意してくれたたたきの上に、私が「物語の手触り感」として最もこだわりたかったのは、このような「カメラワーク」でした。
もしこの「カメラワーク」によって、読者の皆様が作品のシーンをあたかも当事者のように感じていただけたら嬉しいです。




