製作ノート 21ページ目
◆セリフのない「無言の会話劇」で登場人物を雄弁に
副監督がまず描かない描写として、言葉を一切介さない「無言の会話劇」があります。
もともと、この「セリフのない会話」は、私が「コレやりたいな」と常々思っていたものです。
これには一つの明確なルーツがあります。
それは、2000年代初頭に放送された交通系ICカードのデビューCMです。
朝の通勤時間、ホームでの出来事を切り取ったCMです。
男性が電車に乗り込む前のほんのわずかな時間に、ペットボトルの水を買っていく、というワンシーンでした。
キオスクの女性店員と男性が、直接言葉を交わさず、視線だけで心を通わせているのです。
この視線と動作の演技、そして二人の内心のごくわずかなナレーションで、以下のことがわかるのです。
いつも男性が水を買っていくこと。
女性店員が髪を切ったことに気づくくらい、このキオスクの常連であること。
そして女性に好意を持っていること。
女性も「いってらっしゃい」と見送るようなほのかな好意を持っていること……。
このような細やかな感情と状況説明を、たった15秒もしくは30秒で視聴者に伝えていました。
観た当時は「すごいな」と思うだけでしたが、20年以上経過した今は、映像は創れないけど文字でそのようなことができるのではないか……と本作で描いてみたつもりです。
副監督が生成するたたきの台本では、どうしてもキャラクターが自分の状況や感情を説明台詞で語ってしまいがちです。
そこでセリフのない会話シーンを創り出し、セリフ以上に饒舌になってもらいました。
本作の該当シーンをいくつかピックアップしてみます。
ひとつは、第4話の文化祭、文学コスプレ喫茶でのひと幕です。
メイド姿の陽菜を美大生のつくばがスケッチした直後、灯と陽菜の間で繰り広げられた、視線だけの攻防。
陽菜の視線: 「(スケッチを)見せて?」と小首をかしげて訴える。
灯の視線: ゆっくりと首を振り、「やめておけ」と制する。
陽菜の視線: 「なんでよ?」と不満げにむくれる。
灯の視線: 真顔で、もう一度静かに首を振る。
灯が必死に止めたのは、それが陽菜のショックを誘う「悪夢のような奇怪な絵」だったから。
結局、陽菜は不満げながらもしぶしぶ納得し、最後には二人で笑い合います。
幼なじみならではの阿吽の呼吸と、そして言葉を超えた信頼関係を表現しました。
二つ目は、第57話の横丁編。
迷子を保護した陽菜が、遠くにいる灯に向けて口の動きだけで「が・ん・ば・ろ・う・ね!」と伝え、灯が小さく頷いて親指を立てるシーンを描きました。
雑踏の中だからこそ際立つ、二人の心が繋がった瞬間です。
そして、本作の「無言の会話劇」の代表的なシーンが、第130話、図書室の返却カウンターでの灯と鈴江のやり取りです。
肖像画を完成させた灯が、資料集めに協力してくれた鈴江に本を返しに行った回想シーン。
灯は、返却する本にそっと封筒を挟み込み、「中を見て」と目で合図を送ります。
封筒の中には、完成した瑞恵の肖像画のプリントと、灯からの感謝のメッセージ。
それを読んだ鈴江は、瞳を潤ませながら、眼鏡のブリッジをクイッと上げて灯を見上げます。
そして別れ際、灯が振り返ると、彼女はただニコリとして、小さく手を振る。
それまでの鈴江は、常に言葉が暴走し、妄想が爆発しては鼻血を出すような「動」のキャラクターとして描いてきました。
そんな彼女が、最後に見せた一言も発しない「柔らかな笑顔」という「静」のリアクション。
「気持ちはデフラグしなくていいからね。僕の作品のファンでいてください」という灯の言葉に対し、彼女は言葉ではなく「ただ微笑んで手を振る」という答えを返しました。
このやり取りは冒頭で紹介したCMを強く意識しています。
当初は鈴江のラストシーンは第88話で書き終わっているので、チョイ役はあっても、灯とからむ予定はなかったのです。
ですが、灯の性格を考えると、資料を揃えてくれたファンであり、友達以上恋人未満の鈴江に何もしないことはないと考え、登場させました。
ただ登場させて、会話させるとラストシーンがあまり意味のないものになり、また新しい関係性が始まってしまいそうでしたので、無言のやり取りにして、ラストシーンの余韻と二人の新しい関係性を演出したつもりです。
いかがでしたでしょうか。
AIという「副監督」は、整合性の取れたプロットを組んだり、たたきやアイディアを出したりといったこと得意ですし、頼りになります。
一方で感情らしいものは持たないので、気持ちの揺らぎや心の奥底にある感情的なことは表現することは苦手です。
「動作や視線で全てを語らせる」という、微妙な演出にはまだ手が届きません。
なにしろ、副監督自身「逆立ちしたってできません」と逆立ちじたいできないのに断言するくらいですから……。
この第三部の冒頭で申し上げましたが、AIは、決して楽ちんに執筆する魔法の杖ではありません。
加筆修正は多いし、間違いもします。言うこと聞かないこともしばしばです。
でも、副監督のやる気は、私の創作活動を劇的に変え、138話の完結に大きく寄与してくれました。
AIの本当の「チカラ」とは、アイディア出しや執筆の効率化よりも「作者を完結に導く伴走力」なのでは、と感じるしだいです。
◆本当の完結あいさつ
さて、数ある作品の中から本作「情念の画家」を見つけ出し、さらに本編とあとがき、長い長い物語をお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。
書き出した時は「本当にラブコメなんて書けるかな」と不安の中で筆を進めましたが、コテコテのラブコメから外れたものの、青春群像劇として幕を下ろすことができました。
また、今回はAI共作の初作品ということで、学んだことは多々あります。
今後はオリジナルの次回作や過去作をスマホ文体でリブートするなど、まだまだ書いていきますので、よろしくお願いいたします。
また、読者の皆さんと作品でお会いできることを楽しみにしております。
それでは、また。
2026年4月 船橋ひろみ




