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【本編完結】【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第五章(最終章):未来キャンバスと、素顔の肖像画(ポートレート)

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第130話:鈴江への報告、デフラグ不要の感情

文化祭のメイド服。

横丁のデートで着ていた生成(きな)り色のワンピース。


そして、ボルドー色の今日の服。


ジャージ姿ばかり見てきたけど、幼なじみから彼氏になって、こんな可愛らしい姿になるなんて初めて知った。


「あのう……陽菜……」


「……?」


心臓が高鳴る。


「今日みたいな陽菜……もっとみたい……ダメかな?」


ガガガッ!


「うおっ!」


腕をからめたまま、陽菜が急に立ち止まったので、後ろにつんのめる。

服越しに恋人の体温が上がっているのがわかる。


「ほん……と?」


コクコクとうなずく俺。


「か……考えておく……///」


ぜひ!という言葉が喉から出かかるが、これから塩浜さんたちと会食なのに、二人してデレデレしていたら叱られそうだ。


陽菜にうなずいた俺は、彼女を促して歩き始める。


カツカツ、カツカツ


「ねぇ、そういえば、今日、どこでご飯食べるのかな?」


「教えてくれなかったよ。元政治家さんだからなー。高級料亭とか……?

ドラマとかでよくあるじゃん。企業の重役とかとヤバい相談してんの」


「やだ、お誘いされたのに、不謹慎ねぇ」


いつもの調子で笑い合う。


田辺先輩たちが重ねてきたものは、もしかしたら、こういう何でもないやり取りなのかもしれない。

何でもない二人だけの積み重ねが、ふと気がついた時に特別なことに変わっているのだ。


肖像画に「みぃちゃん」と呼びかけた塩浜さんも、きっとそうなのだろう。


改札機が見えてきた。

大野さんが指定した待ち合わせ場所は、改札を出たあたりだ。


ポケットの定期入れをつまむ。

定期入れに入っている、鈴江ちゃんから友達の証としてもらった栞。


つい数日前、図書室で見た鈴江ちゃんのにこやかな顔を思い出す。


肖像画を納めたことと、借りている期限が近いこともあって、集めてくれたツダシゲ商会やTSEグループの資料を返却しに、図書室に行ったのだ。

鈴江ちゃんが返却カウンターに座り、生徒たちの返却に対応しだしたのを見計らって、資料を抱えて列に並ぶ。

ほどなくして、俺の番になると、わずかに目を細めた図書委員は、本を置いてとゼスチャーした。


俺の後ろに人はいない。


重ねた本を置いたあと、わざとらしく一番上の本に封筒を挟んで鈴江ちゃんへ押し出した。


封筒と俺を見比べた図書委員。


目配せしてうなずく俺。


封筒には『ご報告と資料協力のお礼』と書いた付せんを貼った。


「……?」


再び俺を見る、鈴江ちゃん。

俺の作品のファンである彼女にうなずいて、中身を見てと目で促した。


こちらと他の図書委員をちらちら見ながら、こそこそと封筒を改める。


折りたたまれた三枚の紙を広げた。


「……!!」


眼鏡の奥の目が大きく見開かれる。

鈴江ちゃんの小動物顔と相まって、驚愕の様子が手に取るようにわかる。


二枚はスマホで撮った、瑞恵さんの肖像画を上質紙でプリントアウトしたもの。

三枚目はレポート用紙に書いたメッセージだ。


『僕の最新作です。

あなたが集めてくれた資料に関係する人の肖像画です。

この二つの作品はある人から依頼されて描きました。とても喜んでもらえました。

鈴江ちゃんの協力が無ければ、きっとここまでのクオリティにはならなかったと思います。

本当に、ありがとう』


鈴江ちゃんは眼鏡のブリッジをクイっとあげて、俺を見上げた。


顔が赤らみ、瞳が少し潤んでいる。


俺は、ゆっくりとお辞儀をして、背を向けて出口に向かう。


出る寸前、振り返ると、鈴江ちゃんはニコリとして手を振ってくれた。


初めて見た鈴江ちゃんの柔らかな笑顔。


レポートにはお礼に続き、一文を添えた。


『気持ちはデフラグしなくていいからね。僕の作品のファンでいてください  灯』

【担当:神栖陽菜(陸上部/灯の幼なじみ)】

自動改札で引っかかる灯くん、相変わらずマヌケだなぁ。

でも、大野さんに会った瞬間に背筋が伸びた。

タクシーの中に座っているのは、あのおじいちゃん。

……緊張する。私の心臓、灯くんにも聞こえてるかな。


次回、第131話『タクシーの沈黙、茨城のドンの圧』


し、しつれいします!……神栖陽菜です!


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