第三話 道中、最初の死
# 第三話 道中、最初の死
獣国へ向かう街道の三日目、夜。
野営地の焚き火を囲んで、人間たちは黙って薄いスープを飲んでいた。獣人たちは離れた場所で肉を焼いていた。種族ごとに食卓が分かれていた。
マリエルは、その夜、スープに口をつけなかった。
サラフが彼女の前に膝をついた。獅子族の将軍が、人間の女の前で膝をつくのは、獣国の歴史で前例のないことだった。
「食え」
マリエルは首を横に振った。
「子供たちは、もう、私のスープを飲むんです」彼女は静かに言った。「上の子は今日、髪を結う日でした。下の子は熱を出しやすい子で、毛布を二枚かけてあげないといけない。私が居ないと、夫はそれを忘れる。だから ── 」
「お前の夫など、知らぬ」サラフは唸った。「番は私だ」
「番って、なんですか」マリエルは、初めてサラフの目を見た。「私は、母です」
その夜、マリエルは焚き火の番に立つと言った。誰も疑わなかった。
朝、彼女は焚き火のそばで冷たくなっていた。手には、薬草を束ねたまま握り潰した塊。アイリスはそれを見て、すぐに分かった。**毒薊。**心臓を緩やかに止める。アイリスの薬箱から、彼女が黙って一束、抜いていた。
サラフは咆哮した。獣の咆哮だった。森が震え、馬が暴れた。
アイリスはマリエルの瞼を、そっと閉じた。
「彼女は、母であることを最後まで貫きました」と、サラフに向かって言った。
「あなたが見つけた番は、もう居ません。あなたが連れていくのは、母の屍です」
サラフは膝から崩れ落ちた。
強い獣ほど、初めての敗北を理解できない。




