第十七話 ヴェルグリムの咆哮
ヴェルグリムが、目を覚ましたのは、それから三日後だった。
塔の最上階。檻は、開いていた。
彼女の、薬研も、本も、紅茶のカップも、揃って、置かれていた。
だが、彼女が、いない。
匂いが、しない。
竜は、最初、自分の鼻が、壊れたのだと、思った。
番の匂いを、見失ったことが、彼の人生で、なかった。彼女がどこに居ても、彼の鼻は、彼女を、捉えていた。それが、消えていた。
捜索隊が、出された。
獣国の、すべての銀狼が、すべての黒豹が、すべての鷲獣人が、彼女を探した。
誰も、見つけられなかった。
彼らは、彼女の匂いを、知らなかった。
ヴェルグリムだけが、彼女の匂いを、知っていた。
そして、ヴェルグリムは、もう、彼女の匂いを、感じなかった。
二月目に、彼は、すべてを、悟った。
彼の机に、置かれていた、彼女の最後の置き手紙が、それを、教えた。
『ヴェルグリム様
あなたは、私を、愛したと、思っているでしょう。
あなたが、私を、愛したのは、本当です。
私が、あなたを、愛さなかったのも、本当です。
両方が、本当です。
本当のことを、ふたつ並べると、ときどき、人は、別れなければ、なりません。
あなたが、誰も、傷つけずに、私を、愛してくれていたら、私は、あなたを、愛したかも、しれません。
たぶん、それは、もう、起きない、未来です。
お元気で。
アイリス』
ヴェルグリムは、塔の最上階で、三日間、咆哮した。
火を、吐かなかった。
火を吐けば、彼女が居た部屋が、燃える。
燃やせなかった。
燃やせない、ということが、彼が初めて、自分のために、選んだ、選択だった。




