77.金属切削加工会社 『会田技研』
同日夕方、俺は修理が終わったというアレを一度この目で確認するため、さっそく軽トラに乗り込み、先日の病院があった町とはまた別の町に向かっていた。
いつもの国道を逸れ、ガタガタ道かつ、時おり離合困難になるほど狭い区間が途中に存在する県道沿いには、蘇我の町よりも民家が少ない代わりに土木建築関係の業者が資材や重機の置き場として使用しているような、背の高い鋼板のフェンスに覆われた敷地がいたるところに点在している。
モルタルで雑に舗装された駐車スペースに軽トラを置くと、剥げたペンキで『会田技研』と書かれ、瀬貝自工以上に錆びついたトタン張りの建屋を一度見上げてから、開口部を覗いた。
そして、ガラクタの山の向こうでほんのりと明かりが灯っている建屋内に向かって、大きく声をかけた。
「すみませーん!」
「入れっ!」
間髪入れず、ぶっきらぼうすぎる歓迎が奥から聞こえてきた。
その声だけでも、あの人が変わっていないことが分かって、すこしホッとした。
ガラクタの山の間を縫うように進み、カツン、カツンと足音を響かせる途中で、原色の黄色一色であしらわれたタンクトップと派手な金魚柄のステテコ、そして例の網ベストという強烈な出で立ちの白髪爺さんがひょこっと現れた。
「おぅ来よったか、もじゃもじゃ坊主」
「こ、こんばんは。4月の晩にタンクトップて……寒ないんですか?」
「あぁ? 暦の上でいうたらもうじきに立夏やろがい」
「いや、そういうことやのうて……まぁええですけど……」
「それより、今日はアルミさん抜きの一人かい」
「アユミです。最近そこまで鉄の女でもないっすよ、あの人は」
「そうか……まあえぇ、こっちや」
会田さんに連れられ、更に奥へと進む。
そして、最奥のガラクタがどかされ、開けたスペースの真ん中には――
「……おぉっ!」
――黄色と金属素地のボディがピカピカに磨き上げられ、新品のように生まれ変わった“川鉄製めん類自動調理器”が堂々と立っていた。
「まぁ、中見といてくれ」
会田さんは鍵を手に、筐体の前部扉をガチャンと開く。
俺はすかさずバッグから一眼レフを取り出し、手早く設定をいじってファインダーに露わとなった内部を収めた。
ボトルやレール、フラップのような構造部から壁面にいたるまで、外観同様に綺麗に拭き上げられた内部は、要所要所が真新しい部品に取り替えられており、それらはひときわ鏡のような輝きを放っている。
「前も言うた通り、モーターはメーカーも用途もなんもかんも違うもんを改造して似せたもんやさかい、使うとるうちに噛み合わん不具合が出るかもしれへんから、その時は稼働止めて連絡せえ」
「はい、分かりました」
「フラップの軸回りやら、歪んどったレールは、一応キチンと動くことは確かめとるが……いま、加熱槽とダシ槽には水を仮に入れとる。電源は入っとるし、いっぺん動かしてみたるから、お前さんも見て確認してくれ」
「はい、お願いしますっ」
そう言って、会田さんは100円硬貨を二枚と50円硬貨を一枚投入した。
機械のコインチェックが無事に済むと、やがて螺旋状のレールにセットされていたダミーの丼が前にガコンと押し出され、下部の斜面を滑って取り出し口奥の調理室にカコンと到着した。
「内蓋見てみい。進行ランプもサービスで直しといたったわ」
「あっ、ほんまや! ありがとうございます……よかったんですか? そんなことまでしてもうて」
「まぁモーターのベースが届くまで暇でしゃあなかったからな」
会田さんは口角を上げて、機嫌よさげに話した。
その傍ら、手にした一眼はメカシャッターをカシャン、カシャンとしきりに響かせている。
やがて、加熱槽からジョロロッと落ちてきたお湯を丼が受け、丼を支えるアタッチメントがガクンと斜めに傾く。
それに合わせて、修理したフラップが稼働して本来はうどん麺を押さえるための蓋となり、中身のお湯が丼の縁から捨てられて、そのまま調理室下部と繋がった排水管に流れていった。
「すごい! ちゃんと湯切りできてます!」
「ん……もっぺん湯切りしよるから、ちゃんとよう見とけ」
そして、調理器は同様の湯切り工程をあと一回繰り返した後、最後に実際の稼働ではダシが落ちてくる槽から、お湯が丼に注がれ――
完成品が、取り出し口まで送り出されてきた。
「……会田さん、完璧です。問題なしっす!」
「当たり前や。思てたより時間はかかってもうたが……まぁ、それも及第点やろ」
俺が語彙力に乏しい賛辞を送ると、会田さんは腕を組んで、誰がどうみても照れ隠しとしか思えないセリフを吐いた。
「……このテストのことも、記事にするんか」
「もちろん……あれ、あんま良うなかったですか?」
「いや、かまへん……」
「そうですか、やったらいいんですが……。実は今回の修理、全国のマニアの方々がけっこう注目してくれてはるんで、記事にせんわけにもいかへんのですよね。クラウドファンディングもそれなりの額が集まりましたし……」
「なんや、その“くらうどふぁんでんぐ”て」
「んー……、返礼ありのカンパ集め、ですかね?」
「なんやそれ」
「……それと実は、この自販機がドライブインに届いたら、返礼の一環で投資してくれた人たちのために、お披露目会を開いてうどんを振る舞おうと思ってるんです。会田さんも来ませんか? ご馳走しますよ」
「……いや、ええわ。人ぎょうさんおる場所は好かんねん」
相変わらず、会田さんの返事はどれもぶっきらぼうなものだったが、不思議と嫌味は感じなかった。
そして、彼はほんの少しの間を置いてから、更に口を開いた。
「……次もあったら、また仕事よこせ」
「会田さん」
「久しぶりに……オモロイ仕事やったわ」
会田さんがニッと口角を上げる様子を見て――俺は内に秘めていたアレの話をすることにした。
「……実はひとつ、相談しよう思てたことがありまして。もちろん、金額次第ではありますが……」
「……なんや。負けたりせぇへんぞ」
「分かってます。あのですね――」




