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絶滅危惧種の深夜ドライブイン。夢破れた出戻りの俺と、VTECを奏でる幼馴染と。  作者: とむ


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13.Apple 『iPhone 17』


 俺は相も変わらず、ハンバーガー自販機にもたれかかりながら固まっていた。


 図らずも大バズりしてしまった例の投稿のいいねとコメントの増加は、スマホを握る俺の焦燥とは裏腹に留まることを知らなかった。

 普通であれば、自分が勤めている店のインプレッションが増加することは、大変喜ばしいことであるはずなのだが……。



『投稿主さん生きてる!?』

『このアカウント、他の投稿一切ないのがヤバイ』

『このあと亡くなったんだよね』

『昔、この泉南廃ラブホに不法侵入して捕まった知り合いがいます』

『県北のドライブインとかいうデマが広がってる』

『デマ広げる奴なんなん。県北にドライブインなんかあるわけないやん』

『What part of Japan is this? 翻訳を見る』

『Este es un hotel del amor abandonado en Sennan. 翻訳を見る』

『成仏してクレメンス……』



 これがおおよそ望ましくない伸び方であることくらい、SNSに疎い俺ですら分かる。

 なぜかデマも生まれかかっているので、ここはいわゆる火消しというものが必要なのかもしれない。

 しかし、いったい火消しなんてどうすれば……。



「……いかんいかん。ここは堂々とするんや、シュン」



 俺は自分の頬をパチンと叩いて、スイッチの切り替えを試みた。


 実のところ、俺は何も悪いことはしていないはず。

 むしろここは堂々と、普通に正しい宣伝し直せばいい。



 ほどなくしてアップしたふたつめの投稿は、このようなものとなった。

 

『今朝の投稿では皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。当該投稿の経緯といたしましては(以下略)』といったキャプションの詳細な冒頭に始まり、結びを『当店では昔懐かしいゲーム筐体や自動販売機等も取り揃えております。県北唯一のドライブイン、是非お越しくださいませ』として、写真には“ひよしドライブイン”の外観を今しがた撮影した、無難なものを選択した。



「完璧や……これでもう変なデマは広がらんやろ」



 俺は、意気揚々とシェアボタンを押した。

 スマホの時計に目を移すと、時刻はもう朝の8時を迎えようとしていた。



「もしかしたら、いつもよりぎょうさんお客さん来るかもしれんなぁ」



 投稿が終わった途端、俺の肩からさっきまでの緊張がスッと抜けていき、ついには少々楽観的な考えもできるようになっていた。


 このあとは、オトンに前々から密かに温めとった新商品の提案をしてみて、軽トラで病院いって、そんで買い物して……。


 あーあ、今日も忙しなるで!

 


 ◆



 そうして迎えた夜。

 俺は仕事前の自室の中で、ふと思い出したようにインスタを開いた。


 ふたつめの投稿のいいねは、残念ながら“1436”に落ち着いていた。

 


『投稿主さん生きててよかった~』

『生きとったんかワレェ!』

『おもんな』

『文章が固すぎるッピ!』

『よく県北走るけど、ひよしドライブインなんて知らなかった』

『死ぬほど真面目な文体でウケる』

『誰やねん泉南のデマ流した奴』

『What part of Japan is this? 翻訳を見る』

『这里是位于泉南的日吉汽车餐厅。 翻訳を見る』

『キャプションが固い』



 コメントも、今朝一のバズりのことを思えば、おおよそ落ち着いたと見る他ない状況だった。

 正直インプレッションの急落と、ちょくちょく混じるディスりコメントには、ちょっとだけ傷ついた。

 

 しかし、冷静に考えてみれば、実績のないユーザーが1000越えのいいねを早々に叩き出せているだけでも、相当な大戦果だ。

 幸いなことに、フォローの通知だってかなりの数が来ている。

 

 そして何より、窓から外に目を向けると――夜にも関わらず、駐車場に停まっている県外ナンバーの車が、目に見えて増えていたのだ。



「すごいな、広島、北九州、静岡、栃木、滋賀、横浜……しかも“わ”ナンバーの車まであるやん」



 もしかしたら、蘇我入温泉から流れてきているお客さんも多いのかもしれん。

 想像した増え方とは違うが、それでも昨日の苦労が報われたような気がした。


 興奮冷めやらぬまま、俺は弾むような足取りで一階へと駆け下りた。



「あれ、オトンー?」



 引継ぎを受けようと厨房に顔を出したが、オトンはそこにはいなかった。

 もしかしたら表に出ているのかもしれないと思い、そこからスイングドアを開けて、ゲームコーナーに出る。


 ゲームコーナーを見回すと、筐体や実機で遊ぶお客さんは確かにいるものの、表に停まっていた車の数ほどの人入りは不思議と感じられなかった。


 そして、スナックコーナーに顔を出すと――



「すみませーん、この投稿の人ってまだ来ないんですかー?」

「俺たち、横浜からわざわざ来たんですけど……」

「ち、ちょっと待ってください。そういうんはちょっと……」



 狭いスナックコーナーには似つかわしくない、10人ほどの人だかりと、それらの前に立ってしどろもどろになるオトンの姿があった。



「オトン、なんなんやこの状況?」

「あっ……アホっ、中に戻……!」



 オトンが慌てて俺を静止しようとした矢先、そこにいたうちの一人の若い女性が大きな声を発した。



「――もしかして、この投稿の人ですかぁ!?」



 同時に突き出されたスマホの画面には、今朝俺が投稿した例のホラー風写真が写し出されていた。

 それが目に映った瞬間、俺は反射的に首を縦に振った。



「えぇ、まぁ……」


「うおぉ、まじか!」

「キャー! すごいラッキーじゃん!」



 すると、眼前の人だかりは何故か一斉に沸き立ちはじめた。

 3~4人のグループなのだろうか、それらが3つに別れて、中には抱き合って喜ぶ人たちもいた。


 視界の外からは、オトンのため息が聞こえた。

 しかし、いまの俺の心の中では、何かポカポカとしたものがじんわりと広がっていた。


 幼少から大学まで、俺はかつてここまで誰かに好意的な目を向けられ、喜ばれたことがなかった。

 特に若い女の子からこうも分かりやすく、黄色い声が上がることなんてなかったから――はっきり言って、俺は“バズった人間”になれたのだと浮かれてしまっていた。



「すみません、写真撮らせてもらってもいいですか~?」

「あ、は、はいっ、いいですよ……」



 若い女の子に声をかけられ、俺は咄嗟にピースのポーズを取った。

 しかし、彼女とその周囲の皆は首を横にふって、苦笑いしていた。



「あっ違います。そうじゃなくて……」

「え?」



 間抜けな返事を返すと、彼女は自販機の下から上に向かって腕を伸ばした“例のポーズ”で俺にジェスチャーを送った。

 ここに来て、俺は皆が何を望んでいたのかをようやく理解した。



「あ、あぁ~、なるほどそういうことですね! そしたら……はい!」



 ハンバーガー自販機の前で、俺があのポーズを再現する。

 すると、皆は「おー」「すげぇ」等と声を上げはじめた。

 それから、さっきの女の子が一本のチューブを持ってもう一度声をかけてきた。



「すみません……できたらこれ、塗らせてもらってもいいですか!?」

「え、なんですコレ……」


「血糊です! 昨日USJのハロウィンイベントで使った余りなんですけど、これを……」



 俺がOKを返す前に、彼女はスマホの写真を見ながら、それを俺の左手にペタペタと塗りはじめた。



「ありがとうございます! それから、あとはこれを持ってもらって……」



 さらに手渡されたのは、女の子のスマホと、すでに冷めきったシワシワのチーズバーガーだった。

 言われるがままに左手でそれを持ち、朝と同じ構図で構えると、彼女たちの男女グループは自販機のそばにくっついて並び、「写ってますかぁ?」と尋ねてきた。


 左手、ハンバーガー、自販機、ポップ、そしてグループが何とか入るように画角を調整して、縦に首を振る。



「じゃあお願いしまーす! せぇの、熱すぎてぇ~……」


「「滅ッ!」」



 そして、彼女たちの放った掛け声とおぼしき謎の言語とともに、俺はスマホのシャッターを切った。


 直後、一緒に写っていた仲間の若い男が「何なんだよ今の掛け声」と笑いはじめ、他の人も「イミフじゃん」「でもなんか次来そうだよねー滅」「やはははっ」等と腹を抱え、盛り上がりはじめる。



「あの……こ、これでどうでしょう……?」

「え? あ……あ、ばっちりですー。ありがとうございまーす」



 アウェーな空気のなか、俺が恐る恐る声を上げ、スマホを女の子に渡すと、彼女はあっさりとOKを出した。

 そして、すぐにグループの他のメンバーと画面を共有しはじめた。



「おぉーいいじゃん、これで心おきなく帰れるよね」

「理恵の滅ポーズウケるぅ」


「あの、よかったら皆さんも何か買うて……」



 そして、俺の一言が届く前に――女の子たちのグループは、大きな声で談笑しながらドアを開けて外に出ていった。


 外からは、「この冷めたバーガーどうしよっか」「田舎だから自販機の中、虫とかいそーじゃん」「帰りのサービスエリアでペットボトルと一緒に……」等といった乾いた言葉が微かに耳に届く。



 ――あれ?

 なんか、おかしいなぁ。



 俺が脳裏に浮かび始めた疑問を咀嚼する――それよりも先に。



「すんません、俺っちゃもお願いしまーす!」



 次に待っていた若い男のグループの声が、それを上塗りしていった。


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