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悪役令嬢に祝福のキスを  作者: ジュレヌク


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第九話 迷子じゃありません。オルノ・マエルストロンです

 オルノが巻き戻る前の世界でホビアルを見たのは、一度だけ。


 学園が、創立以来の天才を見せびらかそうと、入学式の日に壇上へ無理やり彼を引っ張り出した時だ。


 二年上だった彼は、当時三年生。


 ずっと不貞腐れた顔で無言を貫いていた。


 ただ、溢れ出す魔力が尋常でない為、彼の力にあてられて魔力酔いする生徒が続出した。


 その為、早々に入学式が切り上げられ、後日学園長が各家庭にお詫びの手紙を送る羽目になった。


 その後、学園では彼を見ることが出来た人間は、オルノを含め、同級生には一人もいない。


 そんなホビアルを、オルノは体験入学の日に見つけると言う離れ業を行ってしまったのだ。


 しかも、相手がオルノに向かって話しかけてくるオマケ付きだ。



「どうやって、ここを見つけたんだ?」



 微笑んでいるように見えて、ホビアルの目が笑っていない。


 どうやら、彼の私的なスペースに土足で入り込出しまったオルノに怒っているようだ。


 近づいてくると、威嚇するように顔をグイッと近づけてきた。


 そんな圧の強さにオルノは体をのけぞらぜながら必死に答える。



「えっと、木の幹が歪んで見えて」


「ほぉ」


「それで触ったら柔らかくて」


「それで?」


「ちょっと魔力を流したら硬くなって」


「で?」


「流すほど硬くなるから面白くてドンドン流し込んじゃいました」


「あははははははは」



 ホビアルは、体をくの字にして突然笑い出した。


 ヒーヒーと苦しそうに息をして、目に涙を溜めている。



「勘弁してくれ、今まで俺は自分を天才だと鼻高々だったが、それをこんなひ弱そうな奴に破られるとわ」



 ホビアルが言うには、この部屋は代々見どころのある後輩に先輩が譲り渡す形で受け継がれてきたらしい。


 初代は創立直後まで遡る由緒正しき隠れ家。


 それをホビアルは入学した日に見つけ出し、オルノと同じようにこじ開けた。


 そして半ば強制的に奪った後は、自分の知識と魔力を詰め込んで誰にも開けられないよう魔改造したと言う。


 その最高傑作の砦をなんとなくで開けてしまったオルノを、どうやらホビアルは認めてくれたらしい。



「どうだ、少年。お前、今日からここの主になるか?」



 肩を組んでくる彼は、まるで騎士のように筋肉質な体をしている。


 グイグイと体重を掛けられて、オルノは思わずよろめいてしまった。



「い、いえ。僕、今日は学園見学に来ただけですから」


「そう言うなよ。学園の制服さえ着てない奴が俺の結界を破ったんだ。細かい事は気にするな」


「い、いえ、そういうわけにはいきません。合格すらしていない僕が校内に入り込んだら、ただの不法侵入です」



 必死に辞退するオルノを眺めていたホビアルは、体を離して観察するようにまじまじとオルノを眺めると、



「そうか。じゃぁ、お前が入学してくるまでは、この部屋も俺の物だな」



と言ってオルノの背中をポンと叩いた。



「折角来たんだ。お茶でも飲んでいけ」


「でも、職員室に行かないと先生方が心配されるので」


「なんだ、迷子か?」


「迷子じゃありません。はぐれただけです」


「それを迷子って言うんだ」



 ホビアルは、壁に掛けていたジャケットを羽織ると、部屋のドアを開けた。



「ほら、行くぞ迷子」


「迷子じゃありません。オルノ・マエルストロンです」


「おっ!公爵家の御子息様か。これは、失礼を」



 ホビアルは、まるで舞台俳優のように右手を大きく上げたかと思うとスーッと振り下ろし胸元に手を当てて礼をした。


 すると、肩のあたりで切りそろえられたキャメル色の髪が、サラサラと流れて顔に掛った。


 それすらも計算しつくしていたようで、なんともキザったらしい。


 この出会いが、オルノの魔法人生を大きく変えることになるのだが、この時は、迷子迷子と揶揄われることにホッペを膨らませることしか出来なかった。



▽




「ホビアル君が、まさか入学前の見学者に、このような親切を施すとは思っていませんでした」


「いったい、俺の事をなんだと思っているんですか?」


「ん?天才の問題児でしょうか」



 教師に向かって軽口をたたくホビアルに、オルノの方が緊張の汗をかいている。



「ホビアル君。君、授業にも出ないのに、学園に来る意味はあるのですか?」


「テストと実技で満点とったら、何処で何しても良いって言ったの、先生ですよね?」



 態度の悪い生徒に対し、売り言葉に買い言葉で言ってしまった条件を、軽々と超えてくるとは思っていなかったのだろう。


 気まずそうな顔をした教師は、オルノの方を見ると、



「君は、こんな風にならないでくださいね」



と釘を刺してきた。



「は、はい」


「おいおい、オルノ、お前助けてもらったのに教師側に付くのかよ」


「そ、そうでは」


「まぁいいや。じゃぁ、又、入学したら会おう!」



 それだけ言って、ホビアルはさっさと帰ってしまった。



「オルノ君は、どうやって彼と会ったのかな?」


「どうやってとは?」


「いや、探しても見つからない子だからね。正直迷子を自分から連れてくるような親切な奴ではないよ」


「あぁ……たまたまです。本当に、たまたま会っただけで。何故あの人が僕に親切にしてくれたのかも心当たりがありません」



 必死に言い訳するオルノを、教師は胡散臭そうに見た。


 ただでさえ王太子の評判を落とす原因となった少年だ。


 あまり関わっても自分の不利になると思ったのか、そのまま解放してくれた。


 言われた場所に走っていくと、既に男子も女子も整列して解散の時を待っていた。



「す、すみません、遅くなって」



 オルノは、列の一番後ろに並ぶとフスティーシアが何処にいるのか探す為に辺りを見回した。


 すると、彼女は、もう友達が出来たらしく一人の少女と微笑み合っていた。



――良かった、友達が出来て。



 もし、この思いを彼女に伝えたら、きっとフスティーシアは呆れた顔をして、



「私の心配より、自分の心配をしなさい」



と、溜息をついたことだろう。


 なにせ、オルノのボッチは全く解決しないまま、見学会は終わってしまったのだから。


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