第二話 ……ダメみたいです
「お止め下さい!このようなことをすれば、自分の品位を落とすことになると何故気づかないのですか?」
必死に何かを訴えるが聞こえて、オルトは目を開けた。
すると、目の前には両手両足を開いて虐めっ子達に注意をしているフスティーシアが居た。
しかし、その身長は低く、年の頃は十歳くらい。
オルノは、この日の事をよく覚えている。
貴族の子女が集められ、初めてのお茶会をした時だ。
口下手でひ弱なオルノは、格好の標的にされていた。
悪ふざけで一人の少年がお菓子を投げつけると、次々に他の者も同調した。
それに背を向けて頭を抱えるオルノを、フスティーシアが身をもって守ってくれたのだ。
「弱い者虐めして、恥ずかしいとは思われないのですか?」
自分も怖いだろうに震えながら周りを叱るフスティーシアに、少年達は益々ニヤニヤし始めている。
大人を呼ぼうにも、彼らは室内で歓談中だ。
庭に出ているのは子供だけ。
メイド達も貴族の子供達相手に注意が出来ないでいる。
本来なら、フスティーシアもオルノも公爵家の子供だ。
このような扱いをされる側ではない。
しかし、悪戯っ子を先導しているのが王太子のカエールとなると話は別だ。
十二歳の彼は、未来の側近を見定めると称して、わざわざこの茶会に顔を見せていた。
しかし、本当の目的は、王太子妃候補で名前の残るフスティーシアを見に来たと言って良い。
「ふ、ふん、生意気な女だ!」
反抗され慣れていないカエールは、フスティーシアに嫌悪感を持ったようだ。
顔を引きつらせて、もっと菓子を投げろと周りに命令する。
――そうだ。この時、フスティーシアは誰かが投げた石で顔にけがを負ったんだ。
結局犯人は分からなかったが、もしかしたらカエールがやったのかもしれない。
そうでなければ皆が口裏を合わせて、「見ていない。何も知らない」なとど言うはずがないのだ。
一瞬で状況を飲み込んだオルノは、自分の頭を抱えていた腕を伸ばしてフスティーシアの前に出た。
――コイツが、フスティーシアを殺したんだ。
血で真っ赤に染まった幼馴染を思い出したオルノは、目を血走らせ今にもカエールに襲い掛かりそうな勢いだ。
さっきまでメソメソ泣いていた少年が、鬼のような形相で睨みつけてくることにカエールは怯えた。
「な、な、なんなんだ」
隣に居た少年を押して自分の前に立たせ、その背中に隠れる性格は、次期王に相応しいとは言えない。
昔から目立つことが好きなくせに責任を負わない王太子の評判は、あまり良くはなかった。
今回も自分が焚きつけたくせに、反撃されるかもと思った瞬間から及び腰だ。
「わ、私は、王太子だぞ。その目はなんだ!」
カエールの手に握られていたのは石だ。
どさくさに紛れてフスティーシアを傷つけようとしたことは間違いない。
――やっぱり、お前が犯人か。
益々頭に血が上ったオルノは、全身から湯気のような魔力を放出し始める。
今まで眠っていた力が、時を遡ることで完全に覚醒したようだ。
腹の底から湧いてくる力に、思わず冷静さを失いそうになった。
「ダメよ、オルノ。手を出した方が負けよ」
フスティーシアがオルノの背中にしがみ付いた。
それは、今まさに王太子に飛び掛かろうとしている幼馴染を止めるためだった。
しかし、大好きなフスティーシアに抱きつかれ、オルノは急にヘナヘナと座り込んだ。
どうやら怒りより恥ずかしさの方が上回ったようだった。
「な、なんだ、やっぱり腑抜けたやつだな」
再び元気を取り戻したカエールは、手に持っていた石を思い切り振りかぶって投げた。
「危ない!」
オルノは立ち上がると、フスティーシアの頭を守るように抱きしめた。
ゴン
そして、飛んできた石は、オルノの後頭部に当たった。
血の匂いがプンと漂い、周りにいた少年達も目をウロウロとさせる。
流石にやり過ぎだと思ったのだろう。
「きゃ~、オルノ」
フスティーシアの叫び声に、流石に室内に居た大人達も気づいたようだ。
「どうした?」
慌てて飛び出してきたのは、フスティーシアの父シレンシオだ。
普段大人しく冷静な彼が顔を真っ青にしている。
「お父様、オルノが、オルノが私を守って」
娘を庇って頭から血を流すオルノに、シレンシオは驚いた。
普段は娘の方が気弱な彼を守る側なのに、ここ一番のところで最高の働きをしてくれたことに心から感謝する。
「大丈夫かい?オルノ」
そう声を掛けられ、オルノは一瞬迷った。
ここで大丈夫と言えば、この騒動は有耶無耶にされるだろう。
何故なら、昔フスティーシアが怪我をした時、彼女が必死に場を収めたことで公にならなかったのだからだ。
なにせ、この場には王太子が居る。
彼の名誉を傷つけることを、フスティーシアは良しとしなかったのだ。
しかし、オルノは違う。
フスティーシアの最期を見た彼は、絶対的悪意には、絶対的悪意で報復すべきだと考えるようになっていた。
「……ダメみたいです」
そう言って、オルノは倒れた。
そして、揺さぶられようが、耳元で名前を叫ばれようが決して目を開けなかった。
まだ反撃できるだけの力を持たない彼は、完璧なる被害者を装うことで今回の事件を大事にするつもりだった。
明日から、午前七時に投稿する予定です。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。




