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手からあれを出したい。〜三十年、風呂場で構え続けた男の話〜

作者:やっくん
最新エピソード掲載日:2026/09/24
 前の客のカゴが、パンパンだった。

 動いているレジは一台だけ。

 ピッ――550円。

 ピッ――1100円。

 ピッ――2300円。

 すいません、細かいのありました。

 すいません、ポイントカードありました。

 あっ、五百円の商品券もありました。

 あっ、これとこれはキャンセルで――

 そしてレシートの両端はピンクに染まり――切れた。

 ――同時に俺の中で、何かが弾けた。

 気づけば髪は逆立ち、全身から赤黒いオーラが立ち上っていた。

 目の前に現れたのは、口の悪い妖精・ディオ・ローラ。

 なんでも俺は「怒りのトリガー」とやらを引ける人間らしく、

 怒りが限界を超えると、戦闘値が普段の十倍以上に跳ね上がるのだという。

 そして彼女は言った。

「んで、来週フェアグラが開催される。アンタが代理人な」

「いや、むり」

「もう登録した」

 妖精が人間の代理人を立てて争う最強決定戦、フェアリー・グランプリ。

 優勝すれば賞金と、代理人を立てた妖精のランクが一つ上がるらしい。

 断りたい。心の底から断りたい。

 明日も普通に出勤だし、有給は三日しか残っていない。

 これは、しょうもない理由でキレた三十路手前の社会人が、

 しょうもない理由でキレながら、なぜか世界最強を目指すことになる話。
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