↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手からあれを出したい。〜三十年、風呂場で構え続けた男の話〜  作者: やっくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

2話 トリガーとは

「お、俺はサ◯ヤ人だったのか……」


 思わず声に出た言葉に返事があった。


「いや、ちげぇからw」


「だ、誰だっ!?」


 後ろを振り向く。


 そこにいたのは――妖精、としか形容できない存在だった。


 大きさは手のひらサイズ。俺の目線の高さで宙にふわりと静止している。


「よォ!」


 背中から生えた四枚の羽は、羽ばたいている様子もないのに、その体をしっかりと空中に留めていた。


 黒いドレスを着ている女性。胸元と足元は大胆に露出している。


「ってオイッ! 聞いてんのかっ」


 吊り上がった目。目の周りの黒々としたアイメイク。見た目は二十歳前後、ちょっとキツめのお姉さん、といった印象。おしりが大きいのもポイントが高い。


「アタシのこと見えてんだろうがっ! 無視してんじゃねェ!」


 ……完全に俺好みに仕上がってやがる。


「ウケるw これ夢だ、みたいな顔してらぁw」


 そう、これは夢だ。うん、夢に違いない。


 仕事終わりのレジ待ちでキレて、そのまま寝落ちしたんだろう。


 ただ、妖精好きなんて属性は俺にはないんだけどな……


「頬でもつねってみな」


 心の中を見透かされたような一言。仕方ない、試してみるか。


 ギューーーーッ


 思いっきり自分の頬をつねってみた。


 ――いてぇ。


 夢じゃない、のか。まじ?


「アタシはディオ・ローラ。気軽にディオでいいぜぇ!」


 え、それはちょっと……


「ローラのほうがいいかも」


「い、いきなりそっちで呼ぶんじゃねぇっ!! テメェ常識も知らねぇのか!」


 いや、知らんよ、そっちの常識なんて。


「いきなり真名で呼ぶなんてマジ信じらんねぇ……これだから人間はよォ……」


「はぁ……」


 今、この状況を理解しようとしても頭が追いつかない。赤色の髪も、目の前の妖精も、何もかもが現実感を持たずにふわふわと漂っている。


「まぁ座んな。説明してやっからよォ」


 ローラはそう言うと、テーブルの上――ちょうどレジ袋の隣――にちょこんと降り立った。


「一気にマナが膨れ上がったのを感じて来てみりゃ、案の定『トリガー』が引かれてやがる」


「トリガーとは……」


「いいか、トリガーっていうのは心の中の怒りが限界を超えた瞬間に引かれるもので――」


「そのトリガーが引かれると?」


「まぁ最後まで聞けって! まずマナが一気に膨れ上がる。そして戦闘値も普段の十倍以上に跳ね上がんのよぉ! それが『トリガー』」


 マナ、戦闘値。十倍。急に出てきた単語の情報量に頭が混乱する。


 ……よくわからん……ドラゴンの玉を集める某マンガじゃあるまいし……


「怒りで覚醒するタイプは阿修羅タイプだな! タイプ一致の攻撃だと威力が二倍だァ!」


 いやポケ◯ンも混じってんじゃん。


「はぁ……」


 間の抜けた声が出た。


「んで、来週だ」


「来週……」


「フェアグラが開催される」


「……フォアグラ?」


「フェ・ア・グ・ラ! フェアリー・グランプリのことだァ!」


 そんなものは知らん。


「アタシら妖精が代理人を一人立てて、そいつらを戦わせる大会だ。要は最強決定戦だな」


「へー」


 俺は冷蔵庫から麦茶を出してコップに注いだ。


 自分の家なので当然の権利である。


「いや聞けよ!」


「聞いてるよ。で、なんで人間を代理に立てて戦争みたいなことしてんだ?」


「そりゃ、アタシらは人間より長生きだらよォ、娯楽に飢えてんのよォ」


 要は暇だから人間を戦わせて楽しもうってことか。あんまり気持ちの良い話じゃないな……


「そんで優勝者には賞金が出る」


 コップを持つ手が止まった。


「……いくら」


「けっこう出る」


「ふーん、そうなんだ」


「若返りのポーションも」


「若返りのポーション……」


「あと、代理人を立てた妖精のランクが一つ上がる」


「あ、ランク制なんだ」


「んで、アンタが代理人――アタシのパートナーってわけ」


「いや、むり」


「もう登録したよォ」


 麦茶を吹きそうになった。


「はっ!?」


「お前を見た瞬間ビビッときたの! アタシもう出場妖精だし」


「取り消してくれ」


「それこそ無理」


「なんで」


「取り消したらアタシのランクが下がるから」


 こいつ自分のことしか考えてねぇ。


「トリガーを引けるお前には、優勝できる力が――ポテンシャルがあんだよォ」


「え、いやなんだけど」


 才能とかポテンシャルとか言われるのは悪い気はしない。


 でも急に大会に出ろと言われても困る。妖精の暇つぶしに巻き込まれるのも、モルモットみたいに戦わされるのも気が進まない。


「その役目は他の人に譲ります」


「だ〜か〜ら〜もう登録しちゃったの。それにトリガー引けるのはアンタしかいねぇんだよ」


「なんでそんなことわかんだよ」


「アタシの特殊能力でわかんのっ! なぁ、頼むよ大将! よっ大将、男前! あんま印象に残らねぇ顔してっけど、よく見たらカッコいいな! 性格もいい!」


 顔が薄いのは気にしてんだよ。それに会ったばかりで性格が分かるかっ。


「むり」


「たいしょぉぉぅ……」


 キラキラキラ――


 ローラが上目遣いで仲間になって欲しそうにこちらを見ている。彼女の瞳の奥は今、百ルーメン以上で輝いている。


「いや、むりだか――」


 彼女をよく見ると目のアイメイクは汗でにじみ、羽の一枚は欠けてボロボロ、黒のドレスも砂やホコリで汚れていた。


 その表情の奥に切羽詰まったなにかが見える。





「はぁ…………報酬は、山分けな」


 手のひらサイズのローラが俺の鼻にしがみついてきた。


「た、たいしょ〜〜!!」


「大将じゃない。俺は大平大志(おおひらたいし)」


「た、たいし〜〜!!ってあんま変わんねぇじゃねぇかw」


「うっせ。あと命の危険とかあるなら――」


「わーってるわーってる、怪我しても魔法で治してやっから、ケヒャヒャ!」


 う〜ん、決断早まったか……


「あと離れろ、お前少し汗くさいぞ」


「は、はぁ!? 妖精は汗かかねぇんだよォ!」


 そう言いながら、片手を上げてワキの辺りをクンクンし始める。


「めっちゃ気にしてんじゃん」


「おまえ、マジでデカシリーがないヤツだな」


「そりゃお前だ」


 いろんな意味で。


「あとデリカシー、な」


 こうして、この日を境に俺の生活が一変した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。