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空、渡す者−−継げなかった技を継ぐ−−  作者: 八雲 海


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8/12

第八話 「同じ目」

式典まで、残り四日になった。

 冴は疾を連れて、施設の裏手、搬入口へ向かう途中の通路を歩いていた。人気の少ない時間帯を選んで、疾を落ち着かせるための短い据えの時間を取っている。

 通路の角で、黒木と行き合った。黒木は一人で、ドローンの点検用らしいケースを提げていた。

 互いに、軽く会釈しただけで通り過ぎようとした。

 そのとき、黒木の足が止まった。

 冴も、つられて足を止めた。黒木は、冴ではなく、腕の上の疾を見ていた。

 長くは見なかった。数秒だった。それでも、冴はその視線の質に気づいた。施設や数字を見るときの黒木の目ではなかった。

 「……いつからですか」

 黒木が言った。

 「何がですか」

 「一周、減ったの」

 冴は、何も言えなかった。

 誰にも話していなかった。覚書のノートにしか書いていない。宮下にも、担当者にも、気づかれた様子はなかった。疾の飛びは、傍目には完璧だった。

 「……分かるんですか」

 冴の声は、自分でも思ったより小さかった。

 黒木は、しばらく黙っていた。それから、視線を疾から冴に移した。

 「昔、鷹匠になろうとしてたことがある」

 冴は、初めて聞く話だった。

 「うまくいかなかった。理由は今はいい。ただ、鷹を見ることだけは、体に残ってる」

 黒木は、それだけ言って、ケースを持ち直した。

 「病気じゃない。怪我でもない。それは分かってるだろう」

 「はい」

 「飛べる。速い。まだ仕事もできる」

 黒木は疾を見た。

 「でも、前と同じじゃないんだろ」

 冴は答えなかった。答える必要もなかった。黒木の言っていることは、冴が覚書に書いた〈旋回、一回少なし〉と、同じことを指していた。

 「それでも、この二週間、うちより早く群れを散らしてる」

 黒木の声には、皮肉の色はなかった。

 「だからこそ、聞きたい。式典当日、その鷹に、あとどれくらい頼るつもりだ」

 冴は、疾を見た。疾は、いつも通り、冴の腕の上で静かにしていた。

 「……分かりません」

 正直に、そう答えるしかなかった。

 黒木は小さくうなずいた。それ以上は何も言わず、通路の向こうへ歩いていった。

 冴はその場に、しばらく立っていた。腕の中の疾の重みだけが、いつも通りだった。


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