第七話 「根拠」
二週目の終わり、フォレストパークの管理事務所で、進捗確認の場が設けられた。
冴と黒木、双方が同じ部屋に呼ばれるのは初めてだった。総務担当者と宮下が同席し、テーブルの上にはノート型パソコンが一台置かれていた。
「では、まずスカイシールドさんから」
黒木がノート型パソコンを操作すると、画面にグラフが表示された。日別の鳥類確認数、忌避成功率、施設エリアごとの飛来傾向。数字と色分けされた図が、整然と並んでいた。
「初日を百とした場合、現在までに確認数は二十三まで低下しています。予測の的中率は九十一パーセント。このペースなら、開業式典までに目標水準まで到達する見込みです」
担当者が、なるほど、と頷いた。宮下も画面を見つめ、メモを取っていた。
「如月さんは」
担当者が冴に目を向けた。
冴の手元には、覚書のノートしかなかった。数字はほとんど書いていない。〈搬入口、二週目でハトの再訪、目視ではほぼなし〉〈屋上、旋回一回で群れ散る〉——そういった記述が、日付ごとに並んでいるだけだった。
「目視の確認では、搬入口周辺は、ほぼ寄りつかなくなっています」
「ほぼ、というのは、何パーセントくらいですか」
冴は、答えに詰まった。
「数字では、出していません」
部屋が、少し静かになった。
「実際に減っているのは分かります」
担当者が、フォローするように言った。「現場を見ていますし、苦情の件数も減っていますから。ただ、式典の報告資料には、何か数字があった方が」
「後で、確認した範囲でまとめます」
冴はそう答えるしかなかった。
打ち合わせが終わり、担当者と宮下が席を立ったあと、部屋には冴と黒木だけが残った。黒木はノート型パソコンを閉じながら、口を開いた。
「気を悪くしないでほしいんですが」
冴は黙って、続きを待った。
「如月さんの仕事が悪いとは思っていません。むしろ、現場で見ている限り、うちのドローンより早いと思う場面もあります」
「でも」
「一羽の鷹と一人の鷹匠に、この規模の施設の安全を預ける。それを、技術とは呼べないと思っています」
冴は、何か言おうとした。だが、言葉が出てこなかった。
「如月さんが今日ここに来られなかったら、どうなりますか。体調を崩したら。疾に何かあったら。代わりはいますか」
いない。
答えは、すぐに出た。だが、口には出せなかった。
「うちは、誰が担当しても同じ数字が出ます。それを保証できることが、技術だと思っています」
黒木の口調に、悪意はなかった。ただ、事実として述べているだけだった。それが、なおさら重かった。
「如月さんのやっていることが、技術じゃないとは言いません。でも、それを他の誰かに渡せますか」
冴は答えられなかった。
黒木は、それ以上は何も言わず、パソコンを鞄にしまって部屋を出て行った。
残された冴は、しばらく椅子に座ったままだった。覚書のノートを開く。〈見取り〉のページを開いた。
その下に、冴は書いた。
〈羽〉〈風〉〈群れ〉
三つの言葉の下には、まだ広い空白が残っていた。
冴は、その空白を、しばらく見ていた。




