第十話 「両輪」
開業式典の朝は、よく晴れていた。
フォレストパーク正面には、すでに来賓用のテントと中継車が入っていた。地元局のカメラマンが、開場前の広場でアングルを確認している。
冴は搬入口側で待機していた。籠手の上に疾を乗せ、式典の開始時刻までの動きを、頭の中でもう一度なぞる。式典の間、来賓の目に触れる範囲——正面広場と増床部の吹き抜けだけは、絶対にハトやカラスを近づけない。それが今日の最優先だった。
黒木は、正面広場側のドローン管制ブースにいた。モニターが三台。周辺の飛来予測が、リアルタイム(即時)で更新されている。
式典開始の一時間前、最初の兆候が出た。
正面広場の上空に、カラスが二羽現れた。黒木のシステムが、即座に反応した。屋根上のスピーカーから、低い周波数の音が短く鳴る。カラスは、音に反応して旋回し、施設の外へ離れていった。
「予測通りです」
黒木の声が、無線越しに担当者へ届いているのが聞こえた。
三十分後、今度は搬入口側でムクドリの群れが動いた。冴は疾を放った。群れは散り、施設の外へ流れていった。旋回は一回。いつもより速かった。
式典が始まった。来賓が正面広場に集まり、テープカットが行われる。カメラが式典の様子を捉えている間、空にも、施設の敷地内にも、鳥の姿はなかった。
黒木のドローンが、増床部の屋上を巡回している。冴は疾を腕に乗せたまま、搬入口の陰で待機していた。
式典は、滞りなく進んでいた。
休憩を挟んだ昼過ぎ、担当者が冴のところに顔を出した。
「今のところ、完璧です。スカイシールドさんの方も、如月さんの方も」
担当者は、率直にそう言った。
「正直に言うと、比較検討という形にはなっていますが、今日だけ見れば、どちらも申し分ないです」
冴は、それに何も言わなかった。事実だった。今日一日、ドローンも疾も、期待通りに動いている。数字を出せと言われれば、黒木は出せる。冴は目視でしか答えられない。それでも、結果だけを見れば、差はなかった。
これなら、自分がいなくても回るかもしれない。
その考えが、冴の中を一瞬よぎった。振り払うようにして、冴は疾を見た。疾は、いつも通り、静かに腕の上にいた。
式典の後半、増床部の内覧が予定されていた。来賓が施設内を移動する間、吹き抜けの高い窓際にも、鳥を近づけないようにする必要がある。
黒木のドローンが、先に吹き抜けの方へ移動していくのが見えた。
冴も、疾を連れてその方向へ歩き出した。
夕方まで、あと数時間だった。




