57.
奉太郎達は場所を、フードコートへと移した。
先ほどのレストランフロアは、どちらかと言うと落ち着いた雰囲気が漂っていた。
一方で、地下フードコートは、先ほどとは正反対。
周囲のあちこちで、おしゃべりが繰り広げられている。
ともすれば耳障りと感じるほどの大きさで、皆が笑い、泣いてる者もいる。
周囲を満たすのは、これまた雑多な食べ物の匂い。
香ばしいソース、揚げ物のスパイシーな香り等。
「休日はやっぱ混んでるね~」
「そうだね。席を探そっか」
「おー!」
奉太郎が手分けをした方がいいと思い、聖華から手を離そうとする。
聖華はすかさず、彼の手を握ってきた。
「……やだ」
さらに、聖華は手をぎゅっと握り直す。
引き留められた奉太郎は、振り返り、彼女の表情を見る。
聖華は小刻みに首を横に振っていた。
目を伏して、「やだ……」と。
「…………」
(それって離れたくないってことか。そんなちょっとの時間でさえ離れたくないって……?)
そんなの……。
(可愛すぎる……)
恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、こちらの顔色をうかがう聖華。
自分を欲してくれている、求めてくれている。
可愛い女の子が、だ。
嬉しくないわけがなかった。
奉太郎は思わず口元が緩んでしまう。
だが、そんなところを聖華に見られるのは、照れくさかったので、口元を手で覆う。
「その……ごめん。君に……さみしい思いさせて」
(……なんだそれは。俺たちはまだ付き合ってすらないのに)
「うん……さみしかった……」
(君も、こんなちょこっとでさみしがるなんて……。やばい……)
奉太郎は心臓が高鳴り、体温が上がってることに気づく。
おかしい。
今自分は同じ景色を見ているはずだ。
目の前には、クラスで美人で有名な女の子。
いつだって明るく笑っている、ちょっと良いなって、可愛いなって思っていた相手。
この間までと、今と、何も外見に違いはない。
変化があったのは奉太郎の心境。
(メンタル一つで、ここまで、違ったように見えるもんなんだな……。だめだ、全部が可愛いって見えてしまう)
奉太郎は優しく、聖華の手を握り直す。
「じゃあ、一緒に席を探そう」
「うんっ!」
聖華はパッと明るい笑みを浮かべてうなずく。
奉太郎の手を引いて、先へと歩き出す。
確かに聖華がこの手を離して、先に進んでいったら……自分もまたさみしいと思っていたかもしれない。
(昼神さんに悪いことしたな……)
どんなときでも、手を離さないように。
奉太郎はそう決めたのだった。




