31.
一つの折り畳み傘の下で二人の肩が触れ合うたびに、昼神聖華の心臓は早鐘のように激しく打ち鳴らされた。
雨粒が傘の布地をパラパラと叩く音が、すぐ頭上で小気味よく響いている。
雨の冷たい匂いに混じって、隣を歩く阿智奉太郎から微かに漂うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
物理的な距離の近さと、ダイレクトに伝わってくる彼の存在感に、聖華の五十三万IQの頭脳は完全にメルトダウンを起こしている。
(やばい、やばいやばいやばいっ! 密着度がハンパないっ!)
聖華は耳の裏まで真っ赤に染め上げ、見えない尻尾をちぎれんばかりにパタパタと振り回していた。
平静を装って前を歩こうとするが、どうしても顔のニヤけが収まらず、ぬへへへ、とだらしない笑みが口からこぼれ落ちてしまう。
「お、今日の雨、結構つ、強いねっ! あははははっ!」
裏返った声で無駄に明るく振る舞いながら、クネクネと身悶えして無意識のうちに奉太郎の腕にすり寄ってしまう。
奉太郎は淡々とした表情で前を向いたまま、傘の柄を持つ手を少しだけ聖華の方へと傾けた。
「君の右肩、濡れてる。もう少しこっち寄れば」
「ふぇっ!? よ、寄るっ! 寄りますともっ!」
聖華は弾かれたように身を乗り出し、奉太郎の肩にぴたりと体を密着させた。
制服越しに伝わってくる彼の体温が熱くて、鼓動の早さが限界を突破する。
ふと見上げると、聖華を雨から庇うように傘を傾けているせいで、奉太郎自身の左肩が冷たい雨に濡れてしまっていた。
「あ、阿智くん、肩濡れてるよっ! あたしも傘持つからっ」
「いいよ。これくらいすぐ乾くし、君が風邪を引くよりマシだ」
さらりと紡がれた不器用で誠実な優しさに、聖華は胸を撃ち抜かれたようにガックリと膝から崩れ落ちそうになった。
(イケメンすぎるっ! 優しすぎて昇天しちゃうっ!)
「あ、歩きながら崩れ落ちるな。水たまりに突っ込むぞ」
奉太郎が呆れたように小さく息を吐き、崩れかけた聖華の腕をサッと支えて引き寄せる。
その淀みないスマートな手つきに、純情ギャルは完全にノックアウトされてしまった。
「阿智くん、すきぃっ! いや、なんでもないにょっ!」
「本当に騒がしいな、君は」
呆れ顔で吐き捨てる奉太郎の横顔を特等席で見上げながら、聖華はだらしない顔でふにゃりと笑う。
冷たい雨が降りしきる灰色の通学路も、今の聖華にとってはどこまでも甘く輝く最高のデートコースへと変貌を遂げていた。




