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315 採られたら困る戦術

 伝令の報告によって、俺は宰相領領都を囲む街壁の北側へ向かう。


 そこにはシーラ・セラード・リーズ・アフマン将軍・カーミラ・ララクも先着していて、みんな険しい表情で壁の上を見上げていた。


 俺も見上げると、高い壁の上には木材を十字に組んだ、いわゆる十字架がズラリと並べられていて。年端としはもいかない少年や少女達が縛り付けられている。


 そして一番右端だけは、30代くらいに見える女性が縛り付けられていた。


 俺も表情を険しくしただろう所に、シーラが怒りを押し殺した声で、『このような矢文やぶみが』と手紙を渡してくれる。


 読んでみると、


『おまえの母親および弟と妹達の命が惜しければ、今すぐ包囲を解いて帝都に戻れ。以後の事はそれから交渉してやろう』


 と書いてある。


 ――俺が警戒していた、この局面で採られたら困る戦法そのものズバリだ。

 さすが宰相、この手の汚い手段に関しては実に抜け目がない。


 望遠鏡を取り出して覗いて見ると、十字架に縛り付けられているのは痛いのだろう。みんな苦しそうで、泣いている子もいる。


 俺の弟や妹と言うからには、後宮ハーレムから連れてきた歴代皇帝の子供達。未来の皇帝候補なのだろう。

 ひょっとしたら、現役の皇帝もいるかもしれない。


 なんと言うか、宰相はホントに皇帝を使い捨ての道具としてしか見てないよね。


 と言うかそれ以前に、年端も行かない子供にこんな酷い事をするのは、人間としてどうかと思う。


 ――だけど有効な戦術なのも確かで、正直対応に困る。


 俺は本来の皇帝の体に意識が入って乗っ取った身なので、弟や妹という感覚はほとんどないが、それでも見殺しにするのはとても寝覚めが悪い。


 ……そして問題なのが、10数本並んでいる十字架の一番右に、この体の母親がいる事だ。


 もう長らく本来の皇帝の意識は感じていなかったけど、母親の顔を見た瞬間。ズキリと胸に鋭い痛みが走った。


 皇帝に即位するに当たって、まだ幼い頃に引き離された母親。


 熱病に犯されて死の床にあった時も、会いたいと強く願っていたのだろう。

 この体に転生したばかりの頃は、母親を想う感情を強く感じたものだ。


 ……この体の母親という存在は、冷酷な言い方をすれば、意識だけが入っている俺にとっては赤の他人である。


 だけど体を貰い受けた身であり。母親への強い思慕しぼの念を感じた事があるだけに、ここで母親を見捨てるのはなんかもう、人間としてダメな気がする……。



(――わかった、絶対助けるよ)


 そう心の中でつぶやくと、胸に感じていた痛みがスッと引き。じわりと温かさが伝わってくる。


 この体の元の持ち主だった皇帝が、安心したのだろう。


 もう一度望遠鏡で母親の姿を覗き。

 毅然きぜんとした表情で前を向いているのを見て、(強い人だな……)と感じて、俺は視線をシーラ達に向ける。


 いつもならここで軍議タイムだけど、今回は俺の身内が絡む案件だけに、みんな意見を言いにくそうだ。


 そしてシーラは、明らかに冷静ではない感じがする。


 周りの人は気付いていないみたいだけど。長い時間を一緒に過ごし、片思いをしてずっとシーラを見続けてきた俺には分かる。


 これは明らかに怒っている。それも尋常ではない勢いでだ。


 理由はもちろん、宰相が採った戦術についてだろう。


 シーラの家族。母親と妹も、現在宰相の手中にある。

 もしシーラの存在を知られたら、母親と妹もあの十字架に並ぶ事になるに違いない。


 その想像をするだけでシーラの怒りは煮え立ち。

 すでにその境遇に置かれている俺を見て、宰相への怒りが留まる所を知らないのだろう。


 戦意が高揚するのはいい事だけど、冷静さを失うのはよろしくない。

 まずは頭を冷やす所からだ。


「シーラ、目を瞑って10数えて……。

 うん、次は大きく息を吸ってゆっくり吐いて…………どう、落ち着いた?」


「――はい」


 様子を見る限りまだちょっと目が怖いけど、大分マシにはなった。

 一応落ち着いて話はできそうだ。


 ――だけど話をする前に、とりあえず急ぎでとりあえずの対応を打つ。


 紙を取り出して、


『帝国皇帝アムルサール26世の名において命じる。大逆たいぎゃくの罪人、宰相を討て。

 降伏してこちら側に着けば、命じられて宰相に従っただけの一般兵士・下級指揮官の罪は問わぬし、宰相の首をもってきた者は貴族に取り立て、伯爵位を与える』


 と書き。セラードに『これを1000枚書き写して、矢文で全方位から領都に射ち込め』と命じる。


 効果があるかは分からないけど、成功すれば費用対効果はとても高い。

 そして成功しなくても、領都内の住民と防衛隊を揺さぶる効果はあるだろう。


 十字架にかけられている子供達の体力はあまり長くは持たないだろうから、とりあえず急ぎでの対応を指示し。


 セラードには手配が終わったら戻ってくるようにと命じて、本命の対応を考える…………が、なにかいい案がある訳ではない。


 こう来る可能性は予想していて、対応もあれこれ考えていたのだが。思いついたのはすでに指示を出した、矢文で領都内の動揺を誘う事くらい。


 他には有効な対応が思いつかない、『この局面で採られたら困る戦術』なのである。


 素直に国外に亡命してくれたらよかったのにね……。



 ――セラードが戻ってくるのを待つ間。


 なにか有効な手はないかと、俺は必死に頭を回転させるのだった……。




帝国暦170年 4月14日


現時点での帝国に対する影響度……80.789%


資産

・3145万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×10


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達101人(部下・帝国復興軍部隊長95人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)※2人戦死

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)

サラクス(臣下 帝国東部で最大勢力の辺境伯)

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