312 宰相軍壊滅
早朝から始まった戦いは、お昼頃にはすでに大勢が決しつつあった。
さすが元の世界で歴史に残る名将が考えた作戦の模倣だからなのか。
あるいは配下のみんなが優秀だったおかげか、敵味方総数10万に迫る大軍勢が正面からぶつかり合ったにしては、短時間で決着がついた。
しかもこちらの圧勝モードだ。
戦場の中央に当たる丘は復興軍によって占領され、北では攻勢に転じたカーミラの軍と、南下してきたサラクス辺境伯の軍に挟撃された宰相軍6000が、わずかな抵抗の後次々に降伏している。
一方の南では、復興軍主力とリーズの軍に包囲された宰相軍主力3万5000が東に空いた穴から逃げ出そうとするも、そこを遊牧民の騎兵隊に襲われて、目を覆いたくなるような惨状が繰り広げられている。
北の部隊みたいに降伏してくれればいいのにと思うが、大きな戦いがなく指揮系統が混乱しなかった北と違い。南は視界が効かない森の中にいた所、突然背後と側面から攻撃を受けて混乱状態に陥り。
なんとか逃げ出そうとした所を遊牧民の騎馬隊に襲われたので、指揮系統がぐちゃぐちゃになってしまっているのだろう。
降伏を命令する指揮官がいないか、いても指揮官でさえ状況を把握できていないのかもしれない。
もしくは遊牧民に対して妙な思い込みがあって、『遊牧民に投降しても殺される』とか思っているのかもしれない。
これは遊牧民イコール蛮族と認識している帝国人にありがちな考え方で、俺も遊牧民相手に単身……ではないけど、キサと2人で交渉に行こうとした時には、ずいぶん止められたものだ。
俺はキサの部族と交流があって、ある程度遊牧民の事を知っていたし。キサ父経由で大王に手紙を送ってもらった経緯からしても、話の通じない蛮族だなんて思っていなかったけど。帝国人のほとんどは遊牧民を見た事がないし、たびたび東部を荒らしに来る蛮族だとしか認識していないようだ。
その意味でも、遊牧民の傭兵部隊を迎え入れるのは、相互理解にとっていい事だと思う。
――そんな事を考えている間にも、南では凄惨な戦い……と言うよりも、ほとんど一方的な殺戮が展開されている。
それは遊牧民だけではなく、リーズの軍や復興軍主力も加わったもので、俺に戦場の過酷さを嫌と言うほど教えてくれる。
明らかにもう決着はついているけど、敵が降伏しない以上こちらから戦いをやめる訳にはいかない。
攻撃を中断すれば敵は逃亡し、いずれ再び俺達の敵となって現れるかもしれないのだ。
「……シーラ。南の敵の所へ行って、大声で降伏を呼び掛けてみて。
皇帝の名において命は保証するって言って。
もしそれに応じなかったら、残念だけどリーズ達と協力して殲滅の任に当たって」
「承知しました」
横で俺と一緒に戦況を見ていたシーラにそう命令を出すと、シーラは顔色一つ変えずに命令を復唱し、配下の騎馬隊を率いて丘を駆け下りていく。
正直、戦うだけなら復興軍主力とリーズの部隊に、遊牧民まで加わって戦力は十分。入り込む余地がないくらいなんだけど、シーラ派遣の主目的は降伏勧告だ。
声の大きさには定評があるので、降伏を呼びかけるには適任だと思う。
よく声が通る以外に、威圧感もあるからね。
シーラの活躍に期待しながら見守っていると、丘を降りた所で部下達を左右に展開させ。
一斉攻撃をかける構えを取りつつ、自分は単騎で森に入っていく。
よく訓練された動きで、綺麗に一線に並んだ騎馬兵達。
彼等が森に突入していったら降伏の呼びかけは失敗したという事で、宰相軍主力3万5000はほとんど全滅する事になるのだろう。
そしてそこまで戦うと、いくら形勢が圧倒的有利とはいえ、こちらにも少なくない犠牲が出るはずだ。
――なんとか穏便に片付きますように……と祈るような気持ちで見ていると。槍を手にしたシーラが一人で出てきて、すわ説得失敗かと動揺した次の瞬間。
シーラの後に続くように、両手を上げた兵士達がぞろぞろと森から出てくる。
兵士達は手にした武器を一か所にまとめて置くと、少し離れた所に一塊になって座り込む。
騎兵達がそれを周囲で警戒し、シーラはまた別の場所へと単騎で向かう。
どうやら、降伏の説得は成功しつつあるようだ。
シーラ単騎での行動はちょっと怖くもあるけど。今まで見てきた戦闘能力と気配察知能力からしたら、下手な護衛が10人ついてもあまり変わらない気もする。
それなら単騎の方が、敵の警戒を和らげて降伏勧告の成功率を上げてくれるのだろう。
改めてシーラの優秀さを実感し。後を任せて大丈夫と判断した俺は、遊牧民向けに戦闘の中断と、100歩後退をお願いする伝令を送り。
護衛のキサと一緒に戦場の北へと向かう。
ちなみにこの『〇歩後退』という指示。
シーラがよく訓練で使っていたが、『何メートル』とか言うより分かりやすくていい。
なにか目印になる物があればそこまで後退でもいいけど、毎回都合よくあるとは限らないし。横隊などの陣形を保ったまま後退する場合にとても有効だ。
今回の戦いでも、リーズの隊がよく活用した事と思う。
リーズ達の健闘に思いを馳せながら北へ向かい。サラクス辺境伯の陣を探す。
騎兵を失い、カーミラの軍と辺境伯の軍に挟撃された北の宰相軍はあっさり降伏したので、北の戦場は比較的落ち着いている。
辺境伯の居場所もすぐに見つかり。俺の顔を見ると慌てて馬から降りて頭を下げようとしたので、急ぎだからと制止して手短に用件を伝える。
「我々は逃亡した宰相を追うので、捕虜の管理をお願いしたい。
ここにいる分と、南で最大3万ほど。可能か?」
「それは……しっかりと武装解除されてからであれば可能です」
「よし、辺境伯の軍勢はどれほどだ?」
「歩兵が4000と騎兵が400です」
「では、ここに歩兵1000と若干の騎兵を残して、残りを南に回してくれ。捕虜の武装解除を進める。
ここにはしばらくはカーミラの隊が残るから、それと協力して捕虜を扱ってくれ。
宰相の配下であったとはいえ余の臣民であるから、可能な限り丁寧に扱ってやってもらえるとありがたい」
「はい、承知いたしました」
捕虜を丁寧にというのは、辺境伯の考えとも一致したのだろう。
嬉しそうに返事をする。
「よし、ではおまえも一緒に南に来い。
その前にカーミラの所に寄って顔繋ぎをするから、可能な限りの高位指揮官を同行させよ」
皇帝らしさを意識してそう伝えると。辺境伯は慌ただしく部下に指示を出すと同時に、短い時間で30人ほどの同行者を揃える。
いい手際だ。優秀なのが感じられるね。
辺境伯の能力を心強く感じながら。
南へ行く部隊に一旦丘の上まで前進するよう命じ。俺と辺境伯、同行の部下30人ほどはカーミラの元に向かう。
――軍師の仕事は、戦いが終わってからも忙しい。
だけどこれで、大軍勢がぶつかる主要な戦いは終わったはず……だと思う。
そうあって欲しいと願いつつ。俺はカーミラの陣がある小さい丘へと向かうのだった……。
帝国暦170年 3月27日
現時点での帝国に対する影響度……73.489%
資産
・1億3145万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×10
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)
サラクス(臣下 帝国東部で最大勢力の辺境伯)




