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311 攻守逆転

 ギリギリまで待って攻撃命令を下し。丘を登っていく復興軍主力を、俺はじっと見守る。


 しばらくすると東の小さな丘の陰からもシーラ率いる騎兵隊が出撃し、主力と並んで丘を駆け上がっていく。


 下から見える範囲では、丘の上の宰相軍に動揺が走るのが見える。このタイミングで攻撃があるなんて、全く予想していなかったのだろう。


 俺達が包囲殲滅せんめつされるのを高見の見物モードだったらしく。慌てて弓で反撃してくる部隊もごく一部で、復興軍主力とシーラの騎兵隊は、勢いそのままに丘を駆け上がっていく。


 ――下から見える宰相軍の第一線はすぐに突破されたが、それ以降は丘の稜線りょうせんに隠れてしまい、様子が見えなくなる。


 斥候せっこうを派遣すると同時に、攻撃隊からの伝令を待つしかない……。



 胃が痛くなるような緊張の時間が過ぎ。


 先に来たのは斥候第一陣からの報告で、『攻撃成功! 丘の上の敵戦力5000程度!』と知らせてくれる。


 どうやら待った甲斐があったようだ。


 5000なら地形の不利があっても、中央軍2万8000とシーラの騎兵隊1000で十分突破できるだろう。


 もうしばらく待っていると、丘の上に登った復興軍からも伝令が来て。『丘の半分を制圧! 敵戦力残少ざんしょう!』と知らせてくる。


 どうやら作戦は順調なようだ。


 そう安心しかけた所に、俺の右にいる見張りから『北側の宰相軍に動き! 騎兵隊が丘の上に戻るようです!』と報告が飛んでくる。


 丘が攻撃されたのを見て、慌てて救援に向かったのだろう。

 さすが精鋭部隊、判断が速い。


 だけどこっちも指揮官が優秀な事に関しては負けていないので、シーラの隊がすぐに反応して、丘を駆け下りて迎撃に向かう。


 宰相軍の騎兵が4000くらいなのに対して、シーラの騎兵は1000ほど。


 数では圧倒的に不利だけど、丘を駆け下りる勢いを利用して、まずは先頭に一撃を加えて勢いを殺し。


 そのまま斜めに丘を駆け下りてすれ違うが、その間にシーラは槍を弓に持ち替え。敵騎兵隊の指揮官らしい一際立派な鎧を着た騎兵を、一撃で正確に射倒してしまう。


 シーラの隣には補助兵が一人付いていて、その人が槍と弓を交換して預かってくれるらしい。


 敵指揮官の他、もう一人を射倒したシーラは武器を槍に持ち直し。

 一旦丘を駆け下りた勢いをそのままに、反転して宰相軍騎兵の背後を襲う。


 先頭を潰され、しかも指揮官を失った宰相軍騎兵隊には動揺が広がり。あろう事か足が止まってしまっている。

 騎兵にとって最悪の行動だ。


 そこにシーラの隊が横からもう一撃を加え。

 丘を登って横一列に広がり、一斉攻撃の態勢を取ると、宰相軍の騎兵達はもう統率も維持できず。バラバラになって退却を……いや、逃走を始める。


 帝都の皇帝親衛隊もそうだったけど、訓練を積んだ精鋭騎兵は負け慣れていないと言うのか、逆境に弱い感じがするね。


 多分自分達のペースで進む勝ち戦では、訓練通りの絶大な強さを発揮するんだろうけど、一旦守勢に回ったり、想定外の事態や混乱が生じると意外なほどもろい。


 その点復興軍は、最初は圧倒的に不利な状況で旗揚げした事もあって、負け戦や撤退の訓練もやっているから、打たれ強いし粘り強い。


 現に今も、戦場の反対側ではリーズの統率とララク達の指揮によって、圧倒的多数の宰相軍を相手に巧みな撤退戦を展開し、存分におとりの役目を果たしてくれている。


 そのおかげで中央軍の正面突破が成功しつつあるのだから、まさに兵の質で勝敗を左右する差が出たと言っていいだろう。



 復興軍の成長に感動を禁じ得ず。胸に熱い物を感じていると、丘を登って行った中央軍から『本陣を進めても大丈夫です!』と伝令が来る。


 それを受けて俺も丘に登ってみると、そこには宰相軍兵士の遺体が散らばっていて、少し進んだ所には豪奢ごうしゃなテントが、半分倒れた状態で無残な姿を晒していた。


 ――おそらく先ほどまで、ここに宰相がいたのだろう。


 戦場に来ているかどうかの情報はなかったけど、来ていたらしい。

 そして多分、まだすぐ近くにいる。


 ……今すぐ追撃をかけて、殺すか捕らえるかしたい。


 そんな感情が湧き上がってくるが、それはいけない。


 今ここで軍を宰相追撃に向けたら、まだ健在な宰相軍主力に背後を襲われる事になってしまう。


 今は誘惑に負けず。当初の計画通り敵戦力を殲滅せんめつするのだ。


 シーラも、他の宰相に恨みを持つ復興軍のメンバーも。それが分かっているからこそ、当初の計画通りに動いてくれているのだ。

 軍師の俺がそれを台無しにする訳にはいかない。


 ほっぺたを両手で『パン!』とやって気を取り直し。回れ右をして丘の上から戦場を見下ろす。


 ――さすがにこの戦場の最重要地点だけあって、戦場の広範囲がとてもよく見える。

 指揮を執るのにこんなに便利な場所はない。


 素早く状況を把握すると、北側は宰相軍の騎兵が抜けたせいで復興軍1万対宰相軍6000となり。

 宰相軍には動揺が見えていて攻撃してくる様子はなく。こちらも守備に徹しているので、戦いは起きていない。


 一方南側では、リーズ達が敵に押され。森の端まで押し出されつつある。


 だけど、丘を占領した復興軍主力が南に反転し。丘を駆け下りて宰相軍の背後と側面を急速に圧迫しているので、形勢逆転は時間の問題だろう。

 宰相軍主力は三方を囲まれ、湖に追い詰められて袋のネズミ状態だ。


 数では宰相軍の方が多いけど、態勢が圧倒的に不利なので満足に戦う事もできないだろう。


 ……問題は、追い詰められた敵が決死の反撃に出てくるかもしれない事。


 そしてそれを防ぐ有効な方法は、細くていいから逃げ道を用意してやる事だ。


 窮鼠きゅうそ猫を噛むの言葉通り、決死の反撃に出てくるのは追い詰められて逃げ場がなくなった時で。逃げ道があるなら、そこに殺到するのが一般的な人間心理だ。


 ――俺はリーズに伝令を送り、『東側に脱出路を開けてやれ』と命令を出す。


 そして同時に、東に陣取る遊牧民の軍勢に『そちらに向かう宰相軍を撃破して欲しい』と伝令を送る。


 この通りに動けば、宰相軍はなんとかリーズの軍を突破する事に成功したと思い。

 今更包囲陣形への移行は不可能だから、退却して逃げ延びようとするだろう。


 ――だけど、そこに遊牧民の軍が襲いかかる。

 その衝撃と絶望はいかほどだろうか?


 非情な気もするけど、宰相本人を取り逃がした以上。軍の方は完膚なきまでに撃破しておく必要がある。


 もし撤退に成功して、有力な戦力でまた領都に籠られたら、今度こそ厄介な事になる。

 釣り出しに成功した今、可能な限り敵戦力を減らしておかないといけないのだ。


 ……そしてもう一つ。北に来ているはずのサラクス辺境伯宛に、北に陣取っている宰相軍の背後を攻撃してもらうように伝令を出す。


 カーミラの軍と挟み撃ちにすれば、宰相軍の残る主要部隊6000も撃破できるはずだ。


 シーラの隊にはここに戻ってきてもらい。必要に応じて南北どちらにも援軍に行けるように備えてもらう。

 こうしておかないと、宰相を追って行ってしまうかもしれないからね。


 いち早く逃げ出した事を考えると、多分有力な騎兵部隊が護衛についているだろうから、シーラの隊だけで追うのは危険すぎる。


 宰相はいざとなったら、部下を捨て駒にしてでも自分だけ助かろうとするだろうからね。


 ……あとは、遥か彼方。

 宰相領の領都北方で待機しているはずのアフマン将軍率いる蜂起軍に、『南下して再び領都を包囲して。東から宰相が逃げ戻ってくるはずだから、可能なら阻止して。無理そうなら安全を優先して』と伝令を送る。


 身軽な騎馬伝令は騎兵に守られて逃げ戻る宰相より速いので、上手くすれば宰相の領都帰還を阻止できるだろう。


 騎馬隊の規模次第では難しいかもしれないけど、それならそれで。逃げ帰った所を即座に包囲するだけでも威圧効果がある。



 そんな手配をしながら、俺は戦闘の最終局面を。


 南と北で包囲戦と挟撃きょうげき戦が行われるのを、丘の上からじっと見守るのだった……。




帝国暦170年 3月27日


現時点での帝国に対する影響度……73.489%


資産

・1億3145万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×10


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)

サラクス(臣下 帝国東部で最大勢力の辺境伯)

※負け戦と撤退の訓練をしたのは136話をご参照ください。

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いよいよ大詰め 決着はいかに
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