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310 開戦

 俺達が撤退の気配を見せた事で敵は慌てたらしく。朝食の準備を放り出して攻撃に転じたようだ。


 じっと様子を見ていると、俺達の右手方向。

 戦場北側で宰相軍が丘を駆け下りてきて、俺達の北側に回り込もうとしている。


 どうやら俺達が撤退の様子を見せた事で退路遮断を優先したらしく。

 北からの包囲に切り替えられたらどうしようかと慌てたが、見ていると敵の数は多くなく。1万人くらいだと思う。


 帝国軍の総数は5万と報告を受けているので、これは主攻ではない。

 退路を遮断するための蓋と、こちらの注意を逸らすための陽動だろう。


 北側は小さな丘を中心に、カーミラ率いる1万の兵を配置してあるので、同数なら簡単に抜かれないはずだし、背後に回り込まれる事もないはずだ。


 万一背後に回られそうな時は遊牧民に攻撃をお願いしてあるが、様子を見る限り大丈夫そうである。

 敵も本気で攻めてくる様子はなく、包囲を完成させるための蓋なのだろう。


 ――という事は主攻が別に来るはずで。丘の上の敵は相変わらずそこにいるように見えるが、主力はその背後で移動しているのだろう。



 わずかな兆候も見逃さないように。あちらこちらと視線を動かしていると、左手側。

 南の湖の方で、水鳥の群れが一斉に飛び立つのが見えた。


 ……これは、人の気配に驚いて逃げたという事でいいのだろうか?


 俺は急いで南を守るリーズ宛に、『敵の主力がそちらに向かった』と伝令を飛ばす。


 間違いかもしれないし、リーズの方でも気付いているかもしれないけど、念のためだ。


 こういう時は、『だろう』『かもしれない』が一番危ない。


 誤報でも俺が恥をかくだけで特に害はないのだから、『リーズの方でも気付いているだろう』『間違いかもしれない』を恐れずに、とにかく積極的に情報を共有するのだ。


 南のリーズ達はおとり部隊で、数が少なく弱点だと見えるようにしてあるので、厳しい戦いになるはずだ。


 いざとなったら、シーラの隊に援軍に行ってもらえるように。

 万一突破されてしまっても、遊牧民の援軍と中央軍で第2の防衛線を張れるように手配はしてあるが、そうなったら逆襲に使う兵力が減って、勝利は難しくなるだろう。


 なんとか踏み止まって欲しい……。



 そう祈るような気持ちで、俺は望遠鏡を丘の南側へと向ける。


 そこではかすかに、人の列が次々に森へ入っていく光景が見えた。


 ――正面の丘に陣取る宰相軍に動きはないが、裏では兵士が続々南に移動しているという理解でいいのだろうか?

 南に向かった部隊が森を通って守りの薄い南側を攻め。俺達の背後に回り込んで包囲殲滅しようとしているなら、こちらの計画通りだ。


 あとは敵の主力が南に移動しきった所で、こちらの主力を集めてある中央軍で一気に丘を駆け上がり。逆襲をかけて丘を占領して、南に向かった宰相軍の背後を襲い。逆に包囲する形に持っていくのが理想形である。


 ――ここで重要になるのが、主力で丘に逆襲をかけるタイミングだ。


 早過ぎると敵の主力が南に移動しきっていなくて、戻ってきて丘の防衛に合流されたら陥落が難しくなる。


 かと言って遅すぎると、リーズ率いる南の防衛部隊が抜かれてしまい。

 中央軍から部隊をいて受け止めないといけなくなり。中央で逆襲する兵力が減って、丘奪取の成功率が微妙になってしまう。


 だから丘奪取に動くタイミングがこの戦いの最重要ポイントで、それを決めるのは軍師の俺の仕事だ。


 責任が、重い……。



 他の方向の見張りは全部人に任せ、俺はじっと南の戦況を見つめ続ける。


 森の中を進んだ宰相軍と、リーズの軍の間で戦闘が始まったらしく。

 かすかに戦闘の音や声が聞こえてくるが、森の中なので様子が全く見えない。


 仕方がないので10分おきに伝令を出して、情報をこまめに収集する事にする。


 ――その報告によると、さすが防衛戦の経験が豊富なリーズと、ララク達が部隊長を務める精鋭部隊だけあって、巧みに後退を繰り返しながら敵を引き付け。見事に囮の役をこなしてくれているらしい。


 森と湿地帯という攻める側に不利な地形とはいえ、圧倒的多数の敵を相手に崩れる事なく、士気と陣形を維持して戦い続けてくれているようだ。


 頼もしく思うと同時に、早く楽にしてあげたいという気持ちがつのり。

 今にも中央軍に攻撃の命令を出したくなるが、歯を食いしばってぐっと耐え。タイミングを計る。


 こちらからは宰相軍の動きが見えないが、なるべく時間を取るほど丘の上の敵を手薄にできるはずだ。



 ……伝令が報告するリーズ達の位置が次第に後退し。逆襲と南への転戦の時間を考えて、これ以上は厳しいというギリギリのタイミング。


 そこで渾身こんしんの声を張り上げて、『中央軍前進!』を叫び。

 同時にシーラにも部下の元へ戻ってもらい、中央軍と同時に丘の上の宰相軍に攻撃をかけるように命じる。


 シーラの隊は騎兵なので、今から動けばちょうど接敵が同じくらいのタイミングになるはずだ。


 シーラには丘の上にいる宰相軍の突破をお願いすると同時に、敵騎兵への対応もお願いする。


 敵の騎兵はかなりの数が北側に出てきてこちらに睨みを利かせているが、まだ予備があるかもしれないし。こちらの逆襲に気付いたら、北側の隊が丘を登って反撃に出てくるかもしれない。


 数で劣勢なので、まともにぶつからなくていいから、牽制と妨害をお願いする。

 シーラの騎兵は強いので、精鋭の宰相軍の騎兵とも互角以上にやり合えると思う。



 ――俺の号令と同時に、今まで東を向いていた部隊も一斉に向きを変え。


 中央軍は一丸となって丘を駆け登っていく。

 その頼もしい後姿を、俺は祈るような気持ちで見守るのだった……。




帝国暦170年 3月27日


現時点での帝国に対する影響度……73.489%


資産

・1億3145万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×10


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)

サラクス(臣下 帝国東部で最大勢力の辺境伯)

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