307 作戦立案
遊牧民の部隊を探して帝国東部を走っていた時、目に付いた地形。
南に小さな湖があり、周囲は森林と湿地帯。
北になだらかで大きな丘があって、周辺より一段高い。
そして東に、申し訳程度の小さい丘。
この地形には覚えがあって。東西を逆にすると、元の世界にいた頃ナポレオンの漫画で読んだ、三帝会戦。
フランス皇帝ナポレオンに対し、ロシア皇帝アレクサンドル1世と神聖ローマ帝国皇帝フランツ2世の連合軍が戦った、アウステルリッツの戦いの戦場とほぼ同じ地形なのだ。
そして戦いの結果は、ナポレオン率いるフランス軍が歴史に残る圧勝を収め、神聖ローマ帝国が滅亡した。
……俺なんかにナポレオンの真似ができるかは分からないし、戦いに関しては漫画で読んだだけの知識しかない。
だけど名将が用い、世界戦史に残る大勝利を挙げた戦法なのだから、参考にするだけでもご利益がありそうだ。
過去の戦例を学んで、今の戦いに活かすのは軍師の仕事だからね。
そんな訳で、漫画で読んだ戦いの経過を思い出しながら作戦計画を作り。
計画書に仕上げて見てもらう事にする。
集合場所には俺達が先に着いたので、迎えに行くべく西に進み。
復興軍との合流を果たした所で、早速軍議を開く。
メンバーは俺とシーラ、リーズにカーミラにララク、キサも同席といういつもの顔ぶれだ。
まずは復興軍からの報告を聞き、計画通り宰相軍を引っ張り出している事。
精兵揃いで早足の行軍にも馴れた復興軍は、宰相軍を引き離しつつ、十分戦う余力を残している事。
だけど補給が届かないので、食料が乏しくなりつつあるという報告を受ける。
食料に関してはそうだろうなと思っていたので、遊牧民にお願いして、布陣予定の場所に食料を集積してもらっている。
怪しまれないように、遊牧民には今まで通りの襲撃行動を続けてもらっているので、その食料だ。
村から奪われた物だと思うとちょっと申し訳ない気もするけど、次回以降の襲撃はなくなるはずなので、許して欲しい。
俺の方からも、遊牧民との交渉が上手くいった事。サラクス辺境伯を味方に付けた事を報告し、なにやら驚きと尊敬の視線を向けてもらった。
頑張ったので素直に嬉しい。
とはいえニヤけている場合ではないので、すぐに気持ちを切り替え。作戦の説明に入る。
戦場予定地の地形を描いた俺手書きの地図を広げ、駒の代わりにコインを積み上げていく。
銀貨は兵1000。金貨は1万という設定だ。
戦場の大まかな地形は。南に小さな湖と、その周囲に湿地と森。
北になだらかで広い丘と、その東に小さい丘。他は平原。
戦略的に見れば、大軍を展開できて見晴らしのいい広い丘が、この戦場における最重要ポイントだ。
だけどナポレオンは先に戦場に着いていたのに、あえてこの最重要拠点を捨て、小さい丘に本陣を取った。
そこは狭いので大軍を展開できず。部隊の大半は平地に配備されたし、高さも低いので広い丘からは丸見えの場所。
軍事上の常識からすれば全く愚かな行為で、それを見た敵はナポレオンは兵法を知らないと侮ったという。
そして平地に配置した部隊も、南の湖側が極端に薄かった。
湿地と森林地帯なので動きが取り難いし、特に騎兵は行動が制限されるから、ここからの攻撃はないと見て油断しているのだろう……と敵は見て、ここに主力を向かわせて強行突破し、ナポレオン軍の背後に回り込んで後方を遮断。包囲して一気に殲滅する作戦を立てた。
だけどこれはナポレオンの罠で、主力が南に向かった隙を突き。南が薄い分兵士が多く配置されていた中央部から一気に正面突破をかけて、広い丘に残っていた敵を撃破。
戦略要地の広い丘を奪い取って、逆に有利な高地から、南に向かっていた敵の背後を強襲。
南に配置していた部隊と挟み撃ちにして、湖に追い込んで壊滅させたという。
どこまで再現できるかはわからないし、ナポレオンの時代には銃や大砲があったけど、この世界にはない。
ナポレオンの時は冬で湖は凍っていたそうだけど、今は凍っていないなどの違いもある。
だけど、飛行機やドローン、無線機などがないのは同じなので、戦場を見渡せる高地の重要性は同じだ。
ある程度の再現性はあるはずなので、俺は作戦をみんなに説明し。意見を求める……。
最初に口を開いたのはシーラだった。
「アルサル様にしては珍しい、大胆な作戦ですね。
ですが危険が大きい分、成功した時に得る物も大きい。そして成功する可能性は低くない……いえ、かなり高いと見ました。私は賛成です」
続いて、リーズが言葉を発する。
「とても大胆な作戦ですが、理屈に適っていると思います。
あえて付け加えるなら、敵がこちらを包囲しようとするなら北側にも兵力を向けてくるでしょうから、その備えはあった方が良いと思います」
「なるほど。じゃあこっちの陣はこの小さい丘と、湖の間を結ぶように配置しようか。
最北端は丘になるから、敵がそこに軍を向けてくるなら守りやすい」
「はい、それがよろしいかと」
さすがリーズは教国軍相手に長い篭城戦を戦い抜いた経験を持つだけあって、視野が広くて色んな所によく気がつく。
防衛戦の指揮はこうじゃないといけなかったんだろうね。
今回の戦いは全体で見れば攻勢だけど、最初は防御からはじまる。
その場面ではリーズに存分に活躍してもらおう。
そう部隊配置を決め、続いてカーミラに視線を向ける。
「私もお2人と同じく、いい作戦だと思います。
敵は我々を追撃しているつもりでいますから、隙を見せればここぞとばかりに襲いかかってくるでしょう。
遊牧民と同盟を結んだのなら、我々のななめ後方に位置してもらって、我々が不利な地形で行軍を止めた。挟み撃ちにする好機だと思わせれば、より効果が大きいと思います。
敵を一気に殲滅したいのは、向こうも同じでしょうから」
なるほど、カーミラは人間心理みたいな所に敏感だね。
そして、こちらも賛成のようだ。
「わかった、遊牧民にはそうお願いしておこう。……ララク、なにか意見ある?」
「え、俺はその……戦略は素人なので特には。皆さんにお任せします」
「そっか、じゃあ現場での指揮をよろしくね。特に、最初の段階で敵に包囲される形になりかけても動揺しないように。
作戦が漏れないようにするためにも、兵士一人一人に細かく作戦を説明する訳にはいかないから、隊長クラスがしっかり部下を掌握しておいて」
「はい、それはお任せください!」
元気のいい返事に心強さを貰い。キサにも話を振ってみる。
「キサはなにか意見とかある?」
「私ですか? ええと……作戦の事はよく分かりませんが、空を見た感じだと明日は雨になると思います。
天気は関係ないかもしれませんが、私に分かるのはそのくらいなので……」
雨か……戦いになるのは多分明後日くらいだと思うけど、気象情報というのは意外な所で役に立ったりするものだ。覚えておこう。
「ありがとう、どんな情報でもあるに越した事はないから、助かるよ。
他になにか意見がある人はいる?」
そう言って全員を見回すが、誰も手を上げない。
「よし、じゃあ作戦はこれでいこう。
もし失敗して負ける事があったら、サラクスの街に退却して篭城戦をするからそのつもりで。方向はこっち……」
そう言いながら地図に矢印を書き加えるが、そんな事にならないといいよね……。
ナポレオンの配下は名将揃いだったそうだけど、本人の資質はともかく、配下の優秀さだけなら俺も相当のものだと思う。
その力を存分に発揮させてあげる事ができれば、それだけでも戦いに勝てそうな気がするくらいにだ。
頼もしい仲間達の姿を見つめながら。俺はいよいよ目前に迫った戦いへと意識を集中するのだった……。
帝国暦170年 3月26日
現時点での帝国に対する影響度……73.489%
資産
・1億3145万ダルナ(-11万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×10
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)
サラクス(臣下 帝国東部で最大勢力の辺境伯)




