305 サラクス辺境伯
宰相軍との最終決戦が迫る中、俺は帝国東部で最大勢力を誇る、サラクス辺境伯宛に手紙を書く。
遊牧民との交渉に行く前にも、皇帝の名前で『味方につけ。余は遊牧民との間に関係を持っているので、将来的に遊牧民の脅威を無くす事ができる』と書いた手紙を送ったけど、特に反応はなかったようだ。
かといって街の様子を見る限り、復興軍を攻撃するべく準備をしている感じもしないので、どちらに付こうか迷っている。
あるいはそもそも関わる気がなく、どちらが勝ってもいいと思っているのかもしれない。
東部の盟主としてずっと遊牧民への対応に当たってきた人なので、援助をくれなかった中央政府の事なんて信用していなくて、独立した自存意識が強いのかもしれない。
なので関心を持つとしたら、今までずっと援助をくれなかった実績がある旧体制の宰相よりも、遊牧民との関係を改善すると言う新体制の俺だと思う。
その可能性に賭けて、端的に『会って話がしたい。すでにサラクスの街に来ておるから、そちらの指定した場所で会おう』とだけ書いた手紙を送る。
皇帝とは思えない身の軽さに、辺境伯はさぞかし胡散臭く思うだろうけど、皇帝直々の書状とあっては無碍にもできないはずだ。
『そちらの指定した場所で会う』と言っているのだから、暗殺を意図した罠の可能性なども疑えないだろう。
領主居城の、一番警備が厳重な場所でもいい訳だからね。
むしろ辺境伯が宰相と通じていたりしたら、のこのこやってきたマヌケな皇帝が捕まってしまう案件だけど、その可能性は低いと思う。
宰相に付く気があるなら、今頃軍を整えて戦いに向かう準備をしていなければいけない。
だけど領都の様子は初めて来た時と変わる事なく、周辺の村からの避難民を受け入れ、守りを固めている。
つまり『今まで通り』であり、長年頭を悩ませてきた遊牧民への対処が最優先で、中央の争いになんて関わる気がないという事だろう。
なので俺が単身乗り込んでも危険はないはずと判断して、手紙への反応を待つ。
……果たせるかな、夕刻には早くも返事が来て。『明日の朝迎えをやります。我が城へおいでくださいませ』と言ってきた。
一応丁寧な文章だけど、皇帝に対するものではない。
根強い中央への不審と不満が読み取れるね……。
――ともあれ、約束を取り付けられたのなら問題ない。
俺は翌朝。護衛のキサ一人を伴って、迎えの馬車に乗り込む。
……馬車は二頭立ての立派な物だったけど、辺境伯家の紋章とかは付いていないので、公式の物ではないのだろう。
護衛の人数も最小限だし、俺を本物の皇帝と信じていいのかどうか、戸惑っているのが感じられる。
そりゃまぁ、いくら敵対勢力との決戦前とはいえ、普通の皇帝はいきなり護衛一人を伴っただけで乗り込んできたりしないからね。
むしろ向こうの対応の方が常識的だ。
そんな事を考えながら領主居城へと向かい、案内されたのは小さな応接室のような部屋だった。
さすがに辺境伯が上に立つ謁見の間とかではなく。テーブルと椅子もどっちが上座とかにならないよう、入口から見て横向きに配置されている。
俺が本物の皇帝でも、お忍びで来たのならギリギリ許されるラインを追及した、苦心の跡が見て取れるね。
部屋にはすでに辺境伯らしい人がいて、立ち上がって一応の礼をもって迎えてくれる。
年の頃は30代だと思うけど、髪の毛に多少の若白髪が見える。
苦労してそうだなぁ……。
とはいえ、俺も人の心配をしている場合ではない。皇帝モードに切り替えないと……。
「急ぎなので手短に話をするぞ。余は帝国26代皇帝、アムルサール26世である。
先日復位した事は聞き及んでおると思うが、近々大逆者共と大きな戦いをする事になりそうだ。
ついては先日送った手紙の通り、余に味方をせよ。
余であれば遊牧民との関係を安定させ、東部に平穏を取り戻してやる事ができるぞ」
俺の言葉に、辺境伯は難しい顔をして固い声を出す。
「失礼ですが、具体的な計画をお聞かせ願えますか?」
「うむ。実は先日、すでに話をつけてきた」
そう言って、ハイタル大王と取り交わした盟約状を見せる。
一般的な契約書同様、同じ物を2通作って双方保管なのだ。
……辺境伯は盟約状に目を走らせると、表情を変えて顔を上げる。
「これは……こちらが毎年無償で食料と塩を送るなどと、まるで従属国ではありませんか!」
お、辺境伯お怒りだ。
長年遊牧民と戦ってきたんだもんね。頭ごなしに降伏のような事をされたら、そりゃ怒るだろう。
「――おちつけ。食料と塩の支援は、此度の戦いへの協力の見返りとしてだ。
友好の証としては、交易の拡大と傭兵の受け入れとなっておる」
実際はそんな細かい取り決めはしていないけど、物は言いようだ。
「だとしても、他国の軍を受け入れるなど、帝国の沽券に関わります!」
「沽券か……言いたい事は分からんでもない。
――だが考えてもみよ。現状でも毎年のように遊牧民の襲撃を受け、ほとんど成す術なく食料を奪われておるのだろう?
領民達の様子も見たが、天災のようなものと諦め。避難場所を提供してくれる領主様はありがたいと口では言っていたが、心の中では頼りにならない領主だと失望しておると見受けたぞ。
そんな現状で、帝国の沽券が失われていないと言えるのか?」
「それは……」
「辺境伯よ。余は別に遊牧民に頭を下げようと言っておるのではない。
ハイタル大王との交渉でもその辺りはしかと確認した。
あくまで対等の同盟相手としての交易と、此度の戦いに協力してもらった事への礼を返すだけだ。
貴族達が協力してくれれば遊牧民の力を借りる必要もないのだが、どうも日和見を決め込んでおる者が多くてな。
頼りにならん身内よりも、頼りになる敵をという事だ。頼りにならん身内の無価値ぶりは、お主がよく知っておるであろう」
「…………」
「傭兵にしても、お主は国の恥のように言うが、普通に考えれば雇っている側が。命令権がある側が偉い。違うか?」
「それは、そうですが……」
――お、なんか弱気になってきたぞ。いい感じだ。
説得に手応えを感じ。俺はこのまま一気に押し切ろうと、言葉を重ねるのだった……。
帝国暦170年 3月23日
現時点での帝国に対する影響度……66.989%
資産
・1億3156万ダルナ(-6万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×10
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)




