303 大王との交渉
ハイタル大王について、武勇だけの人ではないと認識を改め。真剣な交渉モードに移行する。
とりあえず先方の要求は、塩・武器・穀物・布と、羊以外の新しい交易品。
宝石とか言ってくれれば話は簡単だったのに、がっつり実用的。そして将来も見通した要求だ。
このうち塩は対応し易い。本来帝国でも塩は南の海でしか採る事ができず、北部では高価な品なのだが。俺達には北の拠点があるので、あそこから海路で運んでくればいい。
東の拠点はキサの故郷からも近いので、キサの部族に塩の交易を担当してもらえば、恩返しにもなって一石二鳥な気がする。
武器は……どうだろう? 草原では燃料が十分に確保できないので、鉄の精錬や鍛造が難しいのは分かる。
草原は辺境部で、魔獣とかの棲息地域とも隣接しているから、武器が必要なのも分かる。
……でも、いずれこちらに向く可能性もゼロではないと考えると、無制限に供給するのは不安があるね……一旦保留にしておこう。
穀物は今までも遊牧民との主要交易品だったので、特に問題ない。
今回の戦いへの協力のお礼として、毎年馬1000頭分を提供すると約束したけど。馬1頭分は、帝国では1人が1年間に食べる量の半分くらいだ。
遊牧民は穀物を主食にする訳ではないけど。前にキサ父に聞いた記憶だと、1頭分で1人の1年分にちょっと足りないくらいと言っていた気がする。
遊牧民の総人口がどのくらいか知らないけど、とりあえず足りないらしいので、不足分を供給するのは問題ない。
もっとも、これは普通に交易で充足してもらってもいい気がする。
布も同じくで。この世界の布は元の世界感覚よりも大分高価だけど、必要量が多い訳でもないので、原則的には交易で必要量を充足してもらえばいいと思う。
そこで問題になるのが、羊以外に遊牧民側から売る交易品という訳か……。
……しばらく考えて、俺は慎重に言葉を発する。
「塩については、年に馬20頭分を無償提供する事をお約束しましょう。
輸送の関係で、引渡し場所は西の端。今回最初の手紙を仲介した部族を通してとなりますが、よろしいでしょうか?」
俺の言葉に大王の表情に驚きが浮かび、隣にいる側近さんも同様だ。
どうやらかなりのインパクトがあったらしい。
キサ兄は馬1頭に塩30袋を積んで運んでいたから、およそ90キログラム。
20頭だと1800キロだ。
初めてキサ父に会った時に聞いた話だと、300グラム入りくらいの小さな塩袋1つを羊1頭と交換していて。俺の感覚だと味のしないスープを食べていたくらい、遊牧民にとって塩は貴重品らしいからね。
1800キロだと、羊6000頭分になる。
初めて会った時のキサの部族が全体で羊700頭を飼っていると言っていたから、かなりの量。
キサ父は羊を1頭6万ダルナくらいで売っていると言っていたから、3億6000万ダルナ相当。
北の端だったキサの部族と、比較的南寄りな東部とでは相場も違うだろうが、それでも大王をビビらせるほどの額ではあるらしい。
だけど俺達は北の拠点で大規模に塩を生産しているので、生産量的には問題ないし、輸送も船で運べば2・3回分だ。
こちらの負担は少なく、相手に与える影響は大きい。いい取引である。
……大王の反応を見るに、これだけでも押し切れそうな気がするけど、もう一押ししてみよう。
「羊以外の交易品ですが、傭兵はいかがでしょうか?
精鋭の騎馬兵を……そうですね、1000騎派遣してくださいと言ったら可能ですか?」
「……衣食住をそちらで面倒見てくれるならな」
「それはもちろんです。では1000騎で、報酬は1騎当たり年に金貨5枚でどうでしょう?
もちろん衣食住の経費は込みで。戦いの時にはもっと多くの派遣をお願いするかもしれませんが、それはその時に改めて相談という事でいかがでしょう?」
その提案に、大王が大きく目を見開く。
1000騎で金貨5000枚は50億ダルナなので、さっきの塩より更に大きな話だ。
ええと……羊8万頭分くらい?
とはいえ、たしかE級冒険者の平均年収が金貨2枚くらいだったはずなので、精鋭騎兵に金貨5枚は高くない。
むしろかなり安いくらいだと思う。
帝都の皇帝親衛隊が8000いたので、そのうち1000を遊牧民に置き換えてしまえば、費用の面ではむしろ安上がりになるくらいのはずだ。
そして強さも申し分ない。
……そして大王の驚愕の表情の原因は、多分金額以外にもう一つ。
この世界の価値観だと、属国でもないのに他国の軍隊を受け入れるというのは、あり得ない事なのだと思う。
少し考えただけで色々問題が思いつくし、なにより面子に関わる。
――だけど、安全保障上はとてもいいと思うんだよね。
元の世界でも中国にあった宋の国は、周辺の遊牧民に銀や絹を送って友好関係を築いていたし、戦いの時には兵士も借りていた。
面子の問題にさえ目を瞑れば、とても実用的なのだ。
この世界で考えてみても利点は多く、まず遊牧民が攻めてこなくなる。
今でも定期的に攻め込まれて食料を奪われているらしいので、それならその分を取り決めとして穏便に渡してしまえば、ずっと被害が小さくなって大きなメリットだ。
反発は出るだろうけど、皇帝親衛隊はこの前壊滅した所だし、今ならうるさく言う貴族も少ないはずだ。
そして、軍に外国人傭兵部隊を組み込むのは、自国の軍と互いに牽制し合って、軍全体で団結して反乱とかは起こしにくくなる効果もあると思う。
少し違うけど、元の世界でもフランス革命の時に自国の兵士が逃げ出す中。スイス人傭兵達が王宮を守って、最後まで戦ったという話を漫画で読んだ記憶がある。
漫画で読んだだけなのでどこまで史実かは知らないし、遊牧民達がスイス人傭兵のように戦ってくれるとは限らないけど。傭兵だからって馬鹿にしたものではないはずだ。
個人的な印象だけど、遊牧民には真面目な人が多いからね。
そんなこんなで、こちらの思惑も混ぜ込んだ提案に。
固まっていた大王が再起動するまでしばらく待って、交渉が再開されるのだった……。
帝国暦170年 3月20日
現時点での帝国に対する影響度……66.989%
資産
・1億3174万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×10
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)
※キサ父と塩の話をした件は115話をご参照ください。




