第64話 幼馴染に本を貸すだけの休日なのに、どうして彼女はそんなに嬉しそうなんだ?
日曜日の朝、俺はいつもより少し遅い時間に目を覚ました。
昨夜は読みかけだった恋愛小説の続きを読んでいるうちに、気づけば日付が変わる少し前になっていた。大学で再会した幼馴染の男女が、ようやく互いの気持ちを意識し始めるところまで読み進めたのだが、そこで本を閉じるのはなかなか難しかった。
とはいえ、今日は午後から予定がある。
雫と近所の公園で待ち合わせをして、先週買った日常ものの短編集を貸すことになっているのだ。
布団から起き上がってカーテンを開けると、窓の向こうには青空が広がっていた。昨日は薄い雲が多かったが、今日は朝から日差しが明るく、庭の木々も穏やかな風に揺れている。
(……よかった。これなら公園で話せそうだな)
昨日の電話で、雫は天気がよければベンチで話したいと言っていた。
雨が降れば別の場所を考える必要があったけれど、今のところその心配はなさそうだ。
俺は洗面所で顔を洗い、朝食を済ませてから自分の部屋へ戻った。
机の上には、昨日の夜に読みかけた恋愛小説と、白石先輩から借りている連作短編集、それから読書週間の準備に使っているノートが並んでいる。
その隣に置いてあるのが、今日雫へ貸す予定の日常ものの短編集だ。
先週の土曜日、白石先輩と一緒に出かけた書店で購入したもので、街の小さな店や日々の暮らしを舞台に、ささやかな出来事から人と人とのつながりを描いている。
派手な事件が起きる作品ではない。
けれど、読み終わったあとに、普段何気なく見ている景色が少し違って感じられるところが気に入っていた。
俺は本を手に取り、表紙を確かめた。
何度か読み返したものの、状態は悪くない。貸す前に特別なことをする必要はなさそうだったが、鞄へ入れるときに角が折れないよう、薄いブックカバーを掛けることにした。
(……雫、どの話を気に入るかな)
彼女は昨日、俺が以前選んだ恋愛小説を読み終えたばかりだ。
その感想を電話で聞いたとき、雫は登場人物が相手の好きなものを大切にしているところがよかったと話していた。
今回の短編集にも、誰かの大切なものを理解しようとする場面がいくつかある。
恋愛小説とは違う形ではあるけれど、雫なら楽しんでくれるかもしれない。
俺は本を鞄へ入れ、時計を確認した。
待ち合わせは午後二時。
まだ十分時間がある。
午前中は少し読書をして、それから昼食を済ませて出かければいいだろう。
そう考えたところで、机の上のスマートフォンが震えた。
画面に表示されたのは、雫からのメッセージだった。
『春樹、おはよう。今日はいい天気だね』
俺は窓の外をもう一度眺めた。
『おはよう。本当だね。公園でも気持ちよく過ごせそう』
返信すると、少しして次の文章が届いた。
『うん。昨日話しきれなかった感想もあるから、楽しみにしてるね』
『俺も楽しみ。午後二時に入口で』
『了解。じゃあ、あとでね』
短いやり取りだったが、画面を閉じたあとも何となく気分がよかった。
雫とは学校で毎日のように会っている。
だから、休日に少し会うこと自体は珍しいことではないはずだ。
それでも、最近は以前よりも二人で出かける機会が増えている気がする。
先週の日曜日には、子どもの頃によく遊んだ丘の上の展望広場へ行った。あの日は昔の話をたくさんしたし、同じ形の木の葉の栞も買った。
今日も本の話をするだけのつもりだったが、雫は本以外のこともいろいろ話したいと言っていた。
(……そういえば、何を話したいんだろう)
少し気になったものの、わざわざメッセージで尋ねるほどでもない。
会ったときに聞けばいいだろう。
俺はスマートフォンを置き、白石先輩から借りている短編集を開いた。
午後の約束までは、まだたっぷり時間がある。
せっかくの休日なのだから、まずは静かな読書の時間を楽しむことにした。
◇◇◇
同じ頃、西条雫は自分の部屋で鏡の前に立っていた。
机の上には、昨日読み終えた恋愛小説が置かれている。
春樹が選んでくれた本だった。
最初は共通の趣味をきっかけに仲良くなった男女が、少しずつ互いを特別な存在として意識していく物語。
読み終わったあと、すぐに春樹へ感想を伝えたくなって電話をかけた。
その流れで、今日の約束までできた。
(……誘ってよかった)
雫は鏡に映る自分を見ながら、小さく笑った。
今日は学校へ行くわけではない。
特別な場所へ出かける予定でもない。
ただ近所の公園で春樹と会って、本を借りたり話をしたりするだけだ。
それなのに、朝から服を選ぶのに思った以上の時間がかかっていた。
派手すぎる格好は公園に合わないし、普段とまったく同じでは少し物足りない。
結局、淡い色のブラウスに落ち着いた色合いのスカートを合わせ、歩きやすい靴を選ぶことにした。
鏡の前で軽く身体を動かし、違和感がないことを確かめる。
(……うん。これなら大丈夫かな)
雫は髪を整えてから、机の上の恋愛小説へ目を向けた。
昨日の電話では、好きだった場面について春樹と話した。
けれど、本当はまだ話していないことがある。
物語の終盤、男の子が女の子へ、自分の好きなことを楽しそうに話している姿を見るのが好きだと伝える場面。
あの言葉を読んだとき、雫は春樹の顔を思い浮かべていた。
彼が本について話しているときの表情。
好きな物語の魅力を説明するときの声。
相手が興味を示すと、嬉しそうに話を続けるところ。
どれも昔から知っているはずなのに、最近は以前よりも強く心に残る。
(……私も、春樹が楽しそうに本の話をしてるところ、好きなんだけどな)
昨日の電話で、少しだけその気持ちに近いことを伝えた。
けれど、春樹はきっと、幼馴染としての何気ない言葉だと思っている。
それが少しもどかしくて、同時に春樹らしいとも思った。
雫は机の引き出しを開け、淡い緑色の木の葉の栞を取り出した。
先週の日曜日、春樹と一緒に買ったものだ。
彼も同じ形の栞を持っている。
ただそれだけのことなのに、こうして手に取ると嬉しくなる。
雫は栞を指先でそっとなぞり、手帳の間へ挟んだ。
今日は借りる本がある。
だから、持っていく鞄にも少し余裕を作っておこう。
そう考えて準備を始めたところで、ふと昨日の春樹の言葉を思い出した。
『俺も雫の話、いろいろ聞きたい』
特別な意味を込めた言葉ではなかったのだろう。
それでも、雫には嬉しかった。
春樹が本の話だけでなく、自分自身の話にも耳を傾けようとしてくれている。
それだけで、今日の約束が少し特別なものに感じられた。
(……焦らなくてもいいよね)
幼い頃の約束について、まだ春樹へ詳しく話すつもりはない。
あの約束を覚えているのは、今のところ自分だけだ。
だからこそ、いつか彼が思い出してくれたら嬉しい。
けれど、それを急かすことが今の自分の望みではなかった。
今日も一緒に笑って、本の感想を話して、少しだけお互いのことを知る。
そんな時間を積み重ねていけたらいい。
雫は手帳を閉じ、窓の外へ目を向けた。
青空の下では、近所の家の庭木がゆっくり揺れている。
午後も、このままいい天気が続きそうだった。
◇◇◇
昼食を済ませたあと、俺は出かける準備を始めた。
鞄には雫へ貸す短編集と、念のためのハンカチ、それから小さな水筒を入れてある。
公園までは歩いて行ける距離だ。
長時間外出する予定でもないので、荷物はこれくらいで十分だろう。
玄関で靴を履きながら時計を確認すると、午後一時四十分を少し過ぎていた。
待ち合わせまで二十分ほどある。
歩いて十分程度だから、少し早めに着く計算だ。
俺は家を出て、住宅街の道を歩き始めた。
休日の午後らしく、辺りには穏やかな空気が流れている。
遠くから子どもたちの声が聞こえ、通り沿いの家では洗濯物が風に揺れていた。車の通行もそれほど多くなく、歩道には木々の影が細長く伸びている。
こうして目的地へ向かって歩いていると、先週の日曜日のことを思い出す。
あの日は雫と駅で待ち合わせをして、子どもの頃によく遊んだ展望広場へ行った。
懐かしい景色を見ながら昔の話をしたことも、昼食を一緒に食べたことも、今では楽しい思い出になっている。
特に、雫が昔のことをよく覚えていたのには驚いた。
木の橋を渡ったときのことや、二人で遊んだ場所のこと。
俺も覚えていることは多かったが、彼女の方が細かい部分まで記憶していた。
(……昔から、雫ってそういうところあるよな)
何気ない出来事を、意外なほど大切に覚えている。
俺が忘れてしまった約束についても、きっと同じなのだろう。
ただ、どんな約束だったのかは、まだ分からない。
いつか思い出せたらいいと思う。
そんなことを考えながら歩いているうちに、公園の入口が見えてきた。
時計を見ると、午後一時五十分を少し過ぎたところだった。
まだ待ち合わせには早い。
俺は入口近くの日陰で待とうと思い、歩く速度を緩めた。
そのとき、向こう側の歩道から見慣れた姿が近づいてくるのが見えた。
雫だった。
淡い色のブラウスにスカートを合わせ、肩から小さな鞄を掛けている。
こちらに気づくと、彼女はぱっと表情を明るくした。
「春樹!」
雫は軽く手を振りながら近づいてきた。
俺も手を上げて応える。
「雫、こんにちは。早かったね」
「こんにちは。春樹こそ、もう来てたんだ」
「今着いたところだよ。ちょうどいいタイミングだったね」
そう答えると、雫は嬉しそうに笑った。
「うん。私もちょっと早く出ちゃったんだけど、待たなくて済んでよかった」
彼女はそう言ってから、俺の鞄へ視線を向けた。
「……本、持ってきてくれた?」
「もちろん。ちゃんと入ってるよ」
「よかった。楽しみにしてたんだ」
雫の声が弾んだ。
俺はそんな彼女を見て、自然に笑った。
「じゃあ、どこか座れるところを探そうか。今日は天気もいいし」
「うん。あっちのベンチ、空いてるみたいだよ」
雫が指さしたのは、公園の奥にある木陰のベンチだった。
そこは遊具のある広場から少し離れていて、落ち着いて話すにはちょうどよさそうな場所だった。
俺たちは並んで歩き始めた。
公園には小さな子どもを連れた家族や、散歩を楽しむ人たちの姿がある。遊具の方からは楽しそうな笑い声が聞こえ、芝生の上では親子がボールを転がして遊んでいた。
風が吹くたびに木々の葉が揺れ、足元にはまだらな影が落ちる。
俺はその景色を眺めながら、雫へ声をかけた。
「こうして公園に来るの、久しぶりな気がするね」
「そうだね。小さい頃は、もっとよく来てたのに」
雫は懐かしそうに周囲を見回した。
「春樹、覚えてる? あっちの遊具、昔は違う形だったんだよ」
「えっ、そうだっけ?」
「うん。もっと小さい滑り台があったの。春樹、あそこで何回も滑ってたよ」
俺は記憶を辿った。
確かに、幼い頃にこの公園へ来たことは何度もある。
ただ、遊具の形までははっきり覚えていない。
「……言われてみれば、そんな気もする」
「ふふ。春樹、昔から好きなことには夢中になるけど、ほかのことは結構忘れちゃうんだよね」
「それ、ちょっとひどくない?」
「本当のことでしょ?」
雫は楽しそうに笑った。
俺も苦笑しながら、彼女の隣を歩いた。
こういうやり取りは、昔から変わらない。
何でもない会話なのに、どこか安心する。
ベンチへ到着すると、俺たちは少し間を空けて腰を下ろした。
木陰には心地よい風が通り、日差しの強さもあまり気にならない。
雫は膝の上に鞄を置き、こちらへ顔を向けた。
「それじゃあ、まずは本の話からかな?」
「そうだね。昨日の感想、まだ聞きたいことがあるんだ」
「ふふ。春樹らしいね」
彼女はそう言って笑ったが、その表情はどこか嬉しそうだった。
◇◇◇
俺は鞄から短編集を取り出し、雫へ差し出した。
「はい。これ、約束してた本」
「ありがとう。大事に読むね」
雫は両手で受け取り、表紙を眺めた。
淡い色合いの街並みが描かれた装丁は、作品の穏やかな雰囲気によく合っている。
彼女はしばらく表紙を見つめたあと、ゆっくりページを開いた。
「……綺麗な本だね。表紙も好き」
「俺もそこが気に入ったんだ。内容も、見た目の雰囲気に合ってると思うよ」
「へえ。どんな話が一番好きだった?」
雫が尋ねたので、俺は少し考えた。
短編集にはいくつもの物語が収められている。
どれも好きだが、特に印象に残っているのは、街の小さな店で働く主人公が、何気ない一日の中で自分の仕事の意味を見つめ直す話だった。
「俺は、最初の方に入ってる店の話が好きかな。大きな出来事は起きないんだけど、主人公が普段見過ごしてたことに少しずつ気づいていくんだ」
「……そういう話、春樹好きそう」
「分かる?」
「うん。春樹って、派手な展開がある本も読むけど、何でもない日常を丁寧に描いてる作品も好きでしょ」
俺は少し驚いた。
確かに、その通りだった。
雫とは昔から本の話をしてきたが、最近は特にいろいろな作品について感想を交わしている。
だから、俺の好みも以前より伝わっているのかもしれない。
「……よく分かってるね」
そう言うと、雫は少しだけ得意そうに笑った。
「幼馴染ですから」
「なるほど。それは強い」
「でしょ?」
彼女は楽しそうに笑い、本をそっと閉じた。
それから、鞄の中へ大切そうにしまう。
その仕草を見て、俺は少し嬉しくなった。
自分が好きな本を誰かへ貸すときは、いつも少し緊張する。
相手が楽しんでくれるか分からないし、好みに合わない可能性だってある。
けれど、雫は最初から興味を持ってくれていた。
それだけでも、貸してよかったと思える。
「読み終わったら、また感想聞かせてね」
「うん。今度は私からも、春樹におすすめしたい本があるんだ」
「本当? どんな本?」
「まだ秘密。もう少し考えてから教えるね」
雫はいたずらっぽく笑った。
俺は少し首を傾げた。
「秘密にするほどの本なの?」
「うーん……春樹に合いそうなものを選びたいから、かな」
彼女はそう言って、少し視線を逸らした。
「せっかくなら、春樹が読んでよかったって思える本にしたいし」
その言葉に、俺は自然に笑った。
「それは楽しみだな」
「……うん。楽しみにしてて」
雫は少し照れくさそうに微笑んだ。
俺はその表情を見ながら、彼女がどんな本を選んでくれるのか想像した。
恋愛小説かもしれないし、日常ものの短編集かもしれない。
あるいは、俺が普段あまり手に取らないジャンルの作品という可能性もある。
どれにしても、雫が選んでくれるなら読んでみたいと思う。
俺たちはそのあと、昨日彼女が読み終えた恋愛小説の感想を話し始めた。
雫が特に気に入っていたのは、主人公の女の子が自分の趣味を隠さず、相手へ少しずつ話せるようになっていくところだった。
俺もその場面は好きだったので、自然と会話が弾んだ。
「最初は、相手に変に思われるんじゃないかって気にしてたんだよね」
「そうそう。でも、男の子がちゃんと興味を持って聞いてくれるから、少しずつ安心できるようになるの」
雫は膝の上で指を組みながら、楽しそうに続けた。
「好きなものを好きって言える相手がいるのって、いいなって思った」
俺は頷いた。
「分かるよ。自分が大切にしてるものを、相手にも大切にしてもらえたら嬉しいよね」
「……春樹も、そう思う?」
「もちろん。俺だって、本の話を楽しそうに聞いてもらえると嬉しいし」
そう答えると、雫は少しだけ目を細めた。
「……そっか」
彼女は柔らかく笑った。
その表情が、何となく印象に残った。
俺は少し不思議に思ったものの、雫が続きを話し始めたので、そのまま耳を傾けることにした。
「あとね、最後の方で男の子が言う言葉も好きだったな」
「昨日も話してたところ?」
「うん。好きなことを楽しそうに話してる君を見るのが好きだっていう言葉」
俺は頷いた。
「あそこはよかったね。相手のことをちゃんと見てる感じがして」
雫は少しだけ俺の方へ身体を向けた。
「……春樹は、そういうこと言われたらどう思う?」
俺は少し考えた。
自分が好きなことを楽しそうに話している姿を、誰かが好きだと言ってくれる。
それは、きっと嬉しいことだろう。
「普通に嬉しいと思うよ。自分の好きなものを否定されないってことだし」
「……そっか」
雫は小さく頷いた。
それから、少しだけ視線を落とした。
「じゃあ……春樹が本の話してるところ、好きだよって言われても?」
俺は思わず彼女を見た。
雫は膝の上で指を組んだまま、こちらを見ている。
その表情は普段とあまり変わらないように見えたが、どこか少し緊張しているようにも感じられた。
「……うん。嬉しいよ」
俺は素直に答えた。
「雫がそう思ってくれてるなら、なおさらね」
そう言うと、雫は一瞬だけ目を見開いた。
それから、ゆっくり笑った。
「……そっか。よかった」
彼女はそう言って、少しだけ顔を伏せた。
俺は何となく不思議に思った。
別に、特別なことを言ったつもりはない。
雫が俺の本の話を好きだと言ってくれるなら、嬉しいのは当然だ。
それでも、彼女があんなに安心したような顔をした理由は、よく分からなかった。
俺はしばらく考えたあと、ふと笑った。
「……でも、俺ばっかり話してると退屈じゃない?」
雫は顔を上げた。
「全然。むしろ、もっと聞きたいくらいだよ」
「本当に?」
「本当。春樹って、本の話になるとすごく楽しそうだから」
彼女は少し笑いながら続けた。
「そういうところ、昔から変わらないなって思うし」
俺は少し照れくさくなった。
昔から変わらない。
その言葉には、何となく安心する響きがあった。
俺たちはそのあとも、好きな本の話を続けた。
気づけば、最初に座ったときよりも太陽の位置が少し変わっていた。
◇◇◇
しばらく話しているうちに、雫は公園の奥へ目を向けた。
そこには、小さな子どもたちが遊ぶ広場がある。
滑り台やブランコの周りでは、親子連れが楽しそうに過ごしていた。
雫はその景色を眺めながら、懐かしそうに笑った。
「……春樹、昔ここで転んだこと覚えてる?」
俺は少し考えた。
「転んだこと? 何回かあると思うけど……」
「ふふ。そうだよね。春樹、結構走り回ってたもん」
「それは雫も同じだったでしょ」
「私は春樹ほどじゃなかったよ」
雫は楽しそうに笑った。
それから、少しだけ声を柔らかくした。
「でもね、一回だけ、春樹が転んだあとに私が泣いちゃったことがあったんだよ」
「……えっ?」
俺は思わず彼女を見た。
そんなことがあっただろうか。
記憶を辿ってみても、はっきり思い出せない。
「俺が転んだのに、雫が泣いたの?」
「うん。春樹、膝を擦りむいてたのに、全然泣かなかったんだよ」
雫は昔のことを思い出すように、ゆっくり話し始めた。
「私の方がびっくりしちゃって、どうしようって思ってたら、春樹が大丈夫だよって笑ったの」
俺は少し首を傾げた。
幼い頃の自分が、そんなに落ち着いていたとは思えない。
「……俺、そんなこと言ったんだ」
「うん。しかもね、私が泣きそうになったら、春樹の方が困った顔してた」
雫は小さく笑った。
「自分が転んだのに、私のこと心配してくれたんだよ」
俺は少し照れくさくなった。
「……全然覚えてないな」
「そうだと思った」
雫は苦笑したが、その声には責めるような響きはなかった。
むしろ、懐かしい思い出を大切に話しているようだった。
「でも、私は覚えてるよ。あのとき、春樹が笑ってくれたから、私も安心できたんだ」
俺は彼女の横顔を見た。
雫は遠くの遊具を眺めながら、穏やかに微笑んでいる。
昔の自分が何を考えていたのかは分からない。
けれど、雫にとってその出来事が大切な思い出になっていることは伝わってきた。
「……そっか」
俺は少し考えてから言った。
「覚えてなくてごめん。でも、雫がそんなふうに思ってくれてたなら嬉しいよ」
雫はゆっくりこちらを向いた。
「……うん」
その返事は短かったが、表情は柔らかかった。
しばらく二人で公園の景色を眺めたあと、雫が小さく笑った。
「春樹って、昔からそういうところあるよね」
「そういうところ?」
「自分では大したことしてないって思ってるのに、相手にとってはすごく嬉しいことだったりするところ」
俺は少し困った。
そんなふうに言われると、どう返せばいいのか分からない。
「……それは、ちょっと褒めすぎじゃない?」
「褒めてるんだよ」
雫は楽しそうに笑った。
「だから、素直に受け取ってよ」
俺は苦笑した。
「……じゃあ、ありがとう」
「うん。どういたしまして」
彼女は満足そうに頷いた。
そのやり取りが何となく可笑しくて、俺たちは二人で笑った。
風が吹き、頭上の葉がさらさらと音を立てる。
木陰のベンチは涼しく、周囲の声も少し遠く感じられた。
俺は背もたれへ身体を預け、ゆっくり息を吐いた。
こうして雫と昔の話をするのは、やっぱり楽しい。
忘れていた出来事を教えてもらうと、自分の知らない昔の自分に会ったような気分になる。
それに、雫がどんなことを覚えているのか知るのも面白かった。
(……俺、もっと昔のこと聞いてみたいな)
そう思ったところで、先週の展望広場で話題になった約束のことが頭をよぎった。
雫が覚えていて、俺が忘れている約束。
今なら、少し聞いてみてもいいだろうか。
けれど、彼女はまだ詳しく話すつもりがなさそうだった。
無理に聞き出すのも違う気がする。
俺はその話題を口にする代わりに、別のことを尋ねた。
「……雫って、昔のこと本当によく覚えてるよね」
「そうかな?」
「うん。俺が忘れてることも結構覚えてるし」
雫は少し考えるように視線を落とした。
「……全部覚えてるわけじゃないよ」
それから、ゆっくり続けた。
「でも、大事だったことは、結構覚えてるかもしれない」
俺は頷いた。
「なるほどね」
雫は小さく笑った。
「春樹も、きっと覚えてることあると思うよ」
「俺が?」
「うん。今は忘れてても、何かのきっかけで思い出すことってあるでしょ?」
その言葉に、俺は少し考えた。
確かに、昔の景色を見たり、懐かしいものに触れたりすると、急に記憶が蘇ることがある。
先週の展望広場でも、そんな瞬間が何度かあった。
「……そうだね。いつか思い出せるかもしれない」
俺が答えると、雫は静かに微笑んだ。
「うん。そうだといいね」
彼女の声は穏やかだった。
俺はその表情を見ながら、何となく胸の奥が温かくなるのを感じた。
◇◇◇
午後三時を少し過ぎた頃、俺たちは公園のベンチを離れることにした。
日差しはまだ明るかったが、長く座っていたので少し身体を動かしたくなったのだ。
雫も同じだったらしく、立ち上がると軽く伸びをした。
「結構話しちゃったね」
「そうだね。気づいたら一時間くらい経ってた」
「ふふ。春樹と話してると、時間が早いな」
雫はそう言って笑った。
俺も頷いた。
「分かる。今日も本の話だけで結構時間使ったし」
「……本の話だけじゃなかったでしょ?」
雫が少しだけ頬を膨らませた。
俺は思わず笑った。
「そうだった。昔の話もしたね」
「もう。ちゃんと覚えててよ?」
「大丈夫。今日は覚えてる」
そう答えると、雫は少し呆れたように笑った。
「今日だけじゃなくて、これからもね」
「努力します」
「ふふ。よろしい」
彼女は満足そうに頷いた。
俺たちは公園の小道をゆっくり歩き始めた。
遊具の近くでは、子どもたちが元気に走り回っている。
芝生の端には小さな花が咲き、風が吹くたびに細い茎が揺れていた。
雫はその景色を眺めながら、ふと口を開いた。
「……ねえ、春樹」
「ん?」
「最近、読書週間の準備どう?」
俺は少し意外に思った。
昨日も紹介カードの文章を考えていたが、雫には詳しい進み具合を話していなかった。
「少しずつ進んでるよ。まだ展示の内容は決まってないけど、紹介文の候補はいくつか作った」
「そっか。白石先輩たちとも相談してるんだよね?」
「うん。九条さんも安全面のことを考えてくれてるし、一ノ瀬先輩も生徒会の立場から意見をくれてる」
俺は最近の準備について簡単に説明した。
図書室の入口付近に展示を設ける案があること。
紹介カードの文章をどうするか考えていること。
雫が提案した、気分に合わせて本を選べる展示方法も候補になっていること。
どれもまだ検討中だが、少しずつ形が見えてきている。
雫は頷きながら聞いていた。
「……楽しそうだね、春樹」
「うん。思ってたより考えることは多いけど、結構楽しいよ」
俺は素直に答えた。
「本を紹介するって、ただ好きなところを話せばいいわけじゃないんだよね。まだ読んでない人に興味を持ってもらうには、どこまで説明するか考えないといけないし」
雫は小さく笑った。
「そういうこと考えてるときの春樹、本当に楽しそう」
「……そんなに?」
「うん。すごく」
彼女はそう言ってから、少しだけ表情を真面目にした。
「でも、無理しすぎないでね」
俺は頷いた。
「大丈夫だよ。みんなで相談しながら進めてるし」
「ならいいんだけど」
雫は少し考えてから続けた。
「……私にもできることがあったら、言ってね」
「ありがとう。雫の展示案も助かってるよ」
俺が答えると、彼女は嬉しそうに笑った。
「そっか。よかった」
その笑顔を見て、俺も自然に笑った。
雫が考えてくれた案は、実際に面白いと思っている。
気分に合わせて本を選ぶというのは、普段あまり図書室へ来ない人にも分かりやすいかもしれない。
ただ、展示スペースには限りがある。
どの程度実現できるかは、まだ分からない。
俺はそのことも説明した。
雫は少しも残念そうな顔をせず、むしろ納得したように頷いた。
「うん。全部やろうとしなくていいと思うよ。できる範囲で、楽しい展示になったらいいね」
「そうだね」
俺たちはそんな話をしながら、公園の出口へ向かった。
◇◇◇
公園を出たあと、雫は少しだけ歩く速度を緩めた。
俺は彼女の様子に気づき、隣で足を止めた。
「どうした?」
「……あのね、春樹」
雫は少し迷うように視線を落とした。
それから、ゆっくり顔を上げる。
「今日、誘ってよかったなって思って」
俺は少し驚いた。
「……そう?」
「うん。本の感想も話せたし、昔のことも話せたし」
彼女は小さく笑った。
「それに、春樹が楽しそうだったから」
俺は何となく照れくさくなった。
「俺も楽しかったよ」
そう答えると、雫は少しだけ目を見開いた。
それから、柔らかく微笑んだ。
「……そっか」
彼女は嬉しそうに頷いた。
俺はその表情を見ながら、ふと考えた。
雫とは昔から一緒にいる。
だから、こうして二人で話すことも自然だと思っていた。
けれど、最近は彼女が嬉しそうにしている理由を、以前より気にするようになった気がする。
それがなぜなのかは、まだよく分からない。
ただ、雫が楽しそうに笑っていると、俺も嬉しくなる。
それだけは確かだった。
「……また、こういう時間作ろうか」
俺が言うと、雫は一瞬だけ動きを止めた。
「……えっ?」
「いや、本の感想とか、昔の話とか。学校だとゆっくり話せないこともあるし」
俺は少し考えながら続けた。
「今日みたいに、たまには公園で話すのもいいなって思って」
雫はしばらく俺を見つめていた。
それから、ゆっくり笑った。
「……うん」
彼女は少しだけ声を弾ませた。
「私も、またこういう時間があったら嬉しい」
俺は頷いた。
「じゃあ、また都合が合うときに」
「うん。約束ね」
雫はそう言って、小さく笑った。
俺も笑って頷いた。
「約束」
その言葉を口にしたとき、雫の表情がほんの少し変わった気がした。
嬉しそうで、どこか懐かしそうな顔だった。
けれど、すぐにいつもの笑顔へ戻ったので、俺は特に気にしなかった。
俺たちはそのまま住宅街の道を歩き始めた。
途中で何度か他愛のない話をしながら、家の近くまで戻ってくる。
分かれ道に差しかかったところで、雫が足を止めた。
「じゃあ、私はこっちだから」
「うん。今日はありがとう」
「こちらこそ。本も大事に読むね」
雫は鞄へ軽く手を添えた。
中には、今日俺が貸した短編集が入っている。
俺は笑った。
「感想、楽しみにしてる」
「うん。読み終わったら話すね」
彼女は少しだけ間を置いてから、柔らかく続けた。
「……それと、春樹」
「ん?」
「今日は、本当に楽しかったよ」
俺は頷いた。
「俺も。誘ってくれてありがとう」
雫は嬉しそうに笑った。
「……また明日ね」
「うん。また学校で」
俺たちは軽く手を振り、それぞれの帰り道へ向かった。
少し歩いてから振り返ると、雫もこちらを見ていた。
目が合うと、彼女はもう一度手を振った。
俺も笑って応えた。
それから、家へ向かって歩き始めた。
日曜日の午後は、まだ穏やかな明るさに包まれていた。
◇◇◇
帰宅した俺は、自分の部屋へ戻って鞄を机の上へ置いた。
雫へ貸す予定だった短編集は、もう鞄の中にはない。
代わりに、今日の楽しかった会話が頭の中に残っていた。
俺は椅子へ座り、しばらく窓の外を眺めた。
雫とは本の話をたくさんした。
昔の公園での思い出も聞けた。
読書週間の準備についても話せたし、また一緒に過ごす約束もした。
特別な出来事があったわけではない。
それでも、何となく満足感のある一日だった。
(……こういう休日もいいな)
俺は小さく笑い、机の上の恋愛小説を手に取った。
大学で再会した幼馴染の男女を描いた物語。
今読んでいるところでは、主人公が相手と過ごす何気ない時間を、以前よりも大切に感じ始めている。
その変化が、文章の端々から伝わってくる。
俺はページを開きながら、ふと今日の雫の言葉を思い出した。
『今日、誘ってよかったなって思って』
あのときの彼女は、本当に嬉しそうだった。
俺も楽しかった。
だから、またこういう時間を作ろうと自然に思った。
(……幼馴染と過ごす時間って、やっぱり落ち着くな)
俺はそんなことを考えながら、物語の続きを読み始めた。
しばらくすると、スマートフォンが震えた。
画面には白石先輩からのメッセージが表示されている。
『七瀬君、こんばんは。昨日話していた紹介カードの件、月曜日に少し確認できそうかしら?』
俺はすぐに返信した。
『こんばんは。はい。家で候補をいくつか考えてみたので、明日持っていきます』
少しして、先輩から返事が届いた。
『ありがとう。無理のない範囲で大丈夫だからね。楽しみにしているわ』
俺は小さく笑った。
白石先輩らしい、柔らかな気遣いのある文章だった。
『ありがとうございます。明日よろしくお願いします』
返信を送ってから、俺はスマートフォンを机へ戻した。
明日からまた学校だ。
読書週間の準備も少しずつ進んでいる。
まだ決まっていないことは多いが、みんなで相談しながら形にしていくのは楽しい。
俺はノートを開き、今日思いついたことを少しだけ書き加えた。
気分に合わせた展示の案。
紹介カードの文章。
図書室の入口付近で、通行の邪魔にならない配置。
どれも、明日以降に相談するためのメモだ。
書き終えたところで、俺は鉛筆を置いた。
今日はこれくらいでいいだろう。
あとは、ゆっくり本を読むことにしよう。
◇◇◇
その頃、雫は自分の部屋で、春樹から借りた短編集を机の上に置いていた。
表紙を眺めるだけで、今日のことが思い出される。
公園の木陰のベンチ。
穏やかな風。
春樹が楽しそうに話していた本のこと。
そして、昔の思い出。
雫は椅子へ腰を下ろし、そっと本を開いた。
(……今日、楽しかったな)
春樹はいつもどおりだった。
本の話になると楽しそうにして、昔のことを思い出そうとして、雫の話にもちゃんと耳を傾けてくれた。
その一つ一つが、嬉しかった。
特に、帰り道で春樹が言った言葉。
『また、こういう時間作ろうか』
雫はその言葉を思い出し、少しだけ頬を緩めた。
春樹にとっては、幼馴染と過ごす何気ない時間なのかもしれない。
けれど、雫にとっては大切な約束だった。
また一緒に過ごせる。
また二人で話せる。
そんな未来が、少しだけ近くなった気がした。
(……焦らなくても、少しずつでいいよね)
雫はそう思いながら、短編集の最初のページへ目を落とした。
春樹が好きだと言っていた、街の小さな店を舞台にした物語。
読み始めると、穏やかな文章がゆっくりと広がっていく。
雫はしばらく夢中になってページをめくっていたが、途中でふと手を止めた。
物語の中で、主人公が誰かの何気ない優しさに気づく場面があった。
特別な言葉ではない。
大きな出来事でもない。
ただ、相手が自分のことを気にかけてくれていたと知る。
それだけで、いつもの景色が少し違って見える。
雫はその文章を読みながら、今日の春樹の表情を思い出した。
昔の話を聞いてくれたとき。
自分の感想を楽しそうに受け止めてくれたとき。
また会おうと言ってくれたとき。
どれも、春樹にとっては自然なことだったのだろう。
けれど、雫には嬉しかった。
彼女は本を閉じ、胸の前でそっと抱えた。
(……春樹。私、やっぱりあなたのことが好きだよ)
その気持ちは、今すぐ言葉にするには少し勇気が足りない。
けれど、いつか伝えたいと思っている。
幼い頃の約束も、今の自分の気持ちも。
そのとき、春樹がどんな顔をするのかは分からない。
それでも、今日のような時間を積み重ねていけば、少しずつ前へ進める気がした。
雫は本を机へ戻し、窓の外を眺めた。
夕暮れの空には、柔らかな色が広がっている。
明日からまた学校だ。
春樹と会える。
それだけで、月曜日が少し楽しみになった。
雫は小さく笑い、再び短編集を開いた。
今度は、春樹が好きだと言っていた物語を、最後までゆっくり読んでみようと思った。
彼が何を感じ、どんなところを好きになったのか。
それを考えながら読む時間も、きっと楽しい。
雫はページをめくり、静かな物語の世界へ入っていった。
◇◇◇
夜、俺は読みかけの恋愛小説を閉じ、机の上へ置いた。
物語の主人公は、ようやく自分の気持ちに気づき始めていた。
幼馴染として当たり前のように過ごしてきた時間が、実はかけがえのないものだったと知る。
その変化が、少しずつ丁寧に描かれている。
俺は本を閉じたまま、しばらく考えた。
(……やっぱり、幼馴染ものっていいな)
長い時間を一緒に過ごしてきたからこそ生まれる安心感。
互いのことを知っているつもりで、実は知らないこともある。
そして、何でもない日常の中で、少しずつ相手の新しい一面に気づいていく。
そういう物語が、俺は好きだった。
机の上には、淡い緑色の木の葉の栞が置かれている。
先週、雫と一緒に買ったものだ。
俺はそれを手に取り、今日読んでいたページへ挟んだ。
ふと、今日の公園での会話が頭をよぎる。
雫は昔のことをよく覚えていた。
俺が転んだときのことも、何気ない言葉も。
そして、まだ詳しく教えてくれていない約束も。
(……いつか、ちゃんと思い出せるかな)
俺は少し考えてから、本を閉じた。
無理に思い出そうとしても、今すぐ答えが出るわけではない。
けれど、雫と昔の話をするたびに、少しずつ記憶がつながっていく気がする。
いつか、あの約束のことも思い出せるかもしれない。
そう思いながら、俺は机の上のスマートフォンを手に取った。
雫から、短いメッセージが届いていた。
『春樹、今日はありがとう。本、少し読み始めたよ。すごく雰囲気が好き』
俺は自然に笑った。
『よかった。ゆっくり楽しんでね』
少しして、雫から返事が届いた。
『うん。春樹が好きな理由、ちょっと分かった気がする』
俺はその文章を見て、何となく嬉しくなった。
自分が好きなものを、誰かが理解してくれる。
それは、思っていた以上に温かいことなのかもしれない。
『それは嬉しいな。また感想聞かせて』
『もちろん。おやすみ、春樹』
『おやすみ、雫』
やり取りを終えたあと、俺はスマートフォンを置いた。
明日からまた学校が始まる。
読書週間の準備もあるし、悠斗から今日の展示会の話をもう少し聞くことになるかもしれない。
白石先輩へ紹介カードの案を見せる予定もある。
きっと、いつもどおり賑やかな一日になるだろう。
俺はベッドへ腰を下ろし、今日のことを思い返した。
雫と本の話をした。
昔の思い出を聞いた。
また一緒に過ごす約束をした。
それだけの一日だった。
けれど、何となく心に残る休日だった。
(……また、こういう日があってもいいな)
俺はそう思いながら、部屋の明かりを消した。
窓の外では、夜の風が静かに吹いている。
明日も、きっと本を読む時間はある。
そして、雫やみんなと話す時間もあるだろう。
そんな何気ない日常を楽しみにしながら、俺はゆっくり目を閉じた。




