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乞う路傍の雪以下なら夢と仰せ  作者: 杜若表六


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全体小説としての泉鏡花『風流線』

 泉鏡花の大作『風流線』『続風流線』。これら二作は実質的に一つの作品といって問題のない小説です。


 これは、藤村操が華厳の滝で哲学的自殺をした事件や、維新後の近代化における国家的事業としての鉄道建設、偽善的慈善事業家の造形、江戸及び明治における社会的階級格差の問題、地方と国家の問題、公と自由の問題、歌舞伎的浄瑠璃的人情悲恋、西洋的理性と東洋的情念の対立、普遍的な人間の諸相、法律と科学技術と義理人情と超自然、仏教説話的物語、口語的語りと文語的語りの混交、浪漫としての伝奇小説、などの点において、全てを包括する場としての石川県は鞍ヶ岳、芙蓉池、手取川、及び白山という神霊的舞台背景装置を軸に展開する、いわゆる全体小説的作品です。


 この小説の特徴的な点は、それが新聞連載という形で掲載されたということもあり、極めて読み易い筆致で、娯楽的大衆的小説として書かれていることです。

 細部は確かな芸術性を秘めながら、全体としては入り組んだすじを極めて明快に処理する手法は、私が最近読んだ石川淳の『狂風記』などの作品も、影響を多分に受けていることは容易に読み取ることができます。

 読者がただ目で追って読むだけで当時の時代風俗を取り入れた豪奢な大浪漫の世界に浸りきることができるのは、この作品が高い可読性のための巧緻を尽くした様々な筆法と重層的な構成によって成り立っていることの証明に他なりません。

 幻想怪奇趣味的中短編の評価が高い泉鏡花ですが、このような雄大な構想をもつ長編にもまたその才を発揮していたことは、鏡花愛読者のみならず多くの読者に広く知られるべき点でしょう。


 思えば通俗小説にして純粋小説であるような小説こそ理想とした横光利一の表明は、その黎明期、既にしてこの『風流線』によって達成されていたことを考えると、その純粋と通俗との企まざる幸福な一致として、『風流線』こそ日本近代文学が持ちえた一つの傑作として記憶されるべきであることには間違いありません。

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