M11《2》(わたしはママじゃないかんね!?)
インターネットを飛び出して、アンラブ漫画が、夏コミにて発売されます♪
通販もはじまりました!!!
詳しくは活動報告&Xにて!
ピンポンピンポンピンポン!!
スマホで時間を見ながら寧子が隣人の部屋のインターホンを鬼プッシュをすると、ぬぼっとした背の高い男が出てきた。夏だというのに、黒ずくめ。
「おはよ……」
「ちょっと、ちゃんと今ドアスコープ確認した!?」
「朝からこんな中のインターホン鳴らすの、ネネさんだけ……」
「それでも確認しろっていってるの! じゃあコンビニ寄って行くよ!」
大学が夏休みになってからは、寧子はSNS用のスタッフとして、萬里の仕事にも同行するようにもなっていた(もちろん、SNSの運用バイトとは別に日当もでる)。
マネージャーである猶人が萬里を車で迎えに来られない時、電車で現場に行くために、付き添いがないと心配であるため、ちょうどいいところに寧子が住んでいた、ということなのだろう。
寧子はいつもよりもきっちりと変装をして、萬里の後ろについていく。マネージャーではなく、あくまでも事務所のバイトスタッフ、だ。
現場では、誰にも話しかけられないように隅に立っている。最初に萬里と一緒に挨拶をして、萬里宛ての名刺を代理で受け取ってしまえば、あとは空気のようなものだ。
今日はあとから猶人も合流することになっている。猶人は現場にきても、他の関係者と話すことが多く、寧子のことは放置だった。それはそれで気楽だ。
「じゃあ、最後にお写真よろしいですか~!」
なにかと待機が多く、退屈なことも多いが、音楽界、芸能界を垣間見られるのは、そちらへの願望がない寧子のミーハー心もくすぐられて、興味深かった。
そこで、あらためて、隣人ではない『ラブカ』の波涛萬里の活動を見て思うのだ。
(キラキラ、してるんだなぁ……)
スタイルはいいけど前髪の長い、姿勢が悪い若者、という印象だったから、取材やインタビューなどを受ける萬里の姿を見ると、人の熱狂を受け取るだけのオーラがちゃんとあって、気圧されてしまう。
「すごくいいですよ~! サイト用にもう数枚撮らせてくださいね~!」
そもそも、『ラブカ』はインターネット世界では正体不明のアーティストだった。その歌声から男性である、ということがわかっていたくらいで。
それで、突然魔法みたいに出てきたのがこんなにキラキラしたイケメンだったら、熱狂するのも仕方が無いか……と他人事のように寧子も思ってしまう。
なお、寧子が萬里のキラキラにときめくことがあるかと、いえば。
「ネネさん、眠……」
その日の雑誌取材を終えると、電池が切れたように寧子の方に倒れ込んできたので、寧子は絶叫した。
「猶人さんタクシーーーー!!」
そう、もちろん、スタッフである寧子がこの忙しさなのだから、デビューしたてのミュージシャンとして前に立つ萬里の多忙さは尋常ではなかった。
この夏出るのはアマチュア時代の曲を含むベストアルバムだが、そのあとにはリリースイベントライブと、いくつも新曲発表が控えているらしい。
メジャーデビューしてからの発表曲は、どれも大型タイアップも兼ねていた。
そりゃそう、寝られるわけがない。
タクシーに押し込んで、当たり前だけれど帰宅目的地が同じなので、都合寧子も乗り込む。
後部座席で萬里はすっかり目を閉じていた。
(メイク、落とさなくて大丈夫なのか……?)
触れるわけもないから、顔が外から見えないように、萬里の帽子を顔の上にのせた。マンションの住所を告げて、ぐるぐると考える。
今朝コンビニで買ったサンドイッチ以外口にしてないはずだから、夜はもうちょっとお肉とかご飯ものをウーバーさせて、サラダも……って。
(わたしはママじゃないかんね!?)
額をおさえて、息をついた。
ひとの熱狂に晒される、化物みたいな17才はでも、子供だから、まだ。
寧子は、デートに誘われた時にはちょっとあるかも? なんて思っていた、隣人との「いい関係」への期待、みたいなのはなくなってしまった。
そういうところも、寧子が「人の心がない」といわれる所以なのかもしれない。だって、恋愛ってやっぱりリスクだ。特に、ラブカみたいな、誰かの……「神様」にとって。
そんなリスクを考えたら、フラットで便利なスタッフ、そういう位置におさまってた方が、絶対にいい。
家に帰りつく頃には夕方だった。
タクシーが止まり、決済をしていると、眠っていた萬里がぱちっと目をさました。
酔っ払いよろしく運ばなくてもよくなったことに寧子はほっとして、二人で並んでエレベーターに乗り込んだ。
「ちゃんと顔洗ってベッドで寝るんだよ」
「今寝たから大丈夫」
「ああ!?」
とかいう会話は、前よりも気安いけれど。
『ラブカ』の波涛萬里は寧子にとって、仕事相手だが遠いひと。
前みたいに渋谷でデートなんてできるわけない。
そんなことを実感しながら、階数ボタンを押していたら。
「ネネさん、あのさ……」
萬里が、おもむろに言った。
「今日は寝かしつけはしないかんね!?」
「そうじゃなくて……」
ぼそぼそと、まだキラキラした、横顔で、萬里が言う。
「ネネさんは……変わらなくて、いいよ。てか、変わって欲しくない……。いつまでも、俺の歌が……響かないネネさんのままでいて……」
これは、と寧子は思う。
これは、喧嘩を売ってるのか?
人の気持ちがわからないままでいろと?
一瞬腹が立ったけれども……まだ眠そうな、萬里の横顔を見たら、寧子はなんにもいえなくて、萬里の、少し丸い背中をぽんぽんと叩いた。
わたしだって、いい風に変わりたい。
あんたみたいに、って。
そういうの、年上の自分が言うの、なんだか癪で。
「絶対寝なよ! おやすみ!」とドアの前で別れて、やれやれと髪をほどく。
朝から鞄の中に入れたままだった、プライベート用の携帯に、通知が表示されていた。
「……」
仕事の連絡はすべて、猶人から渡されている仕事用携帯にくるし、萬里からの連絡でもなかった。
昨日、寧子は、本当に短い雑談配信で、「バイトをしている」と言った。
それを、聞いていたのだろう。けれど、それを前座に置くでもなく。
《なんのバイトしてんの?》
唐突な、探るような文面が、どういう「意図」でおくってこられているのか、「人の心がわからない」寧子には察することもできなかった。
深町晢、と名前が表示されている。それは……寧子の元彼だった。
春に寧子をフってからも、たまに連絡がきてる。(フッた方が連絡すんなよ、とその度寧子は思っている)
特に、きっかけになったのは、S2の誤配騒動の時。おおよその察しはついていた。
寧子がバズった、のが、目に入ったのだ。
だから、フった、くせに、また連絡をしてきた……。
それなりに情があった元彼だが、こうして離れてしまうと、その情もきれいになくなってしまったし、しかもこういう形でのアクセスは、正直、ダルい。
「ブロックしよかな……でも、やっぱかど立つよな……」
監視みたいなことするの、やめて欲しい。
ブロックするのはワンタップ。簡単だが、同じ大学も通っているので、構内で偶然会うこともあるだろう。変に確執を残すことは得策ではない、と思っていた。
《ちょっとね~》と当たり障りのない返事。
《今度休みいつ?》
う、と寧子は思う。休みを先に聞かれたら、その日は用事があると断れないだろう。この会話運び、わかってやっているに違いない。
《まだわからないや。この夏忙しくて》
《そんな忙しいの? 配信やんねーと広告収入も下がるんだろ? 相談のってやるよ》
「相談、乗ってやる~~????」
血管が切れそう、と思いながら、寧子は耐えきれずに打ち込んでいた。
《いいよ~困ってないから。ありがとうございます》
当たり障りなく、けれどクールに。
てか就活とかしたら? 年上よ~~。
そんなことを思いながら、ぽい、とスマホを投げ捨てベランダを見る。
外はすっかり熱帯夜で、しめきった窓からベランダに出ることもあまりなくなってしまった。すぐ隣にいるけれど、防音のきいた部屋は、遠い。
寧子は、最近になってはじめてちゃんと聞いた、ラブカの歌を、流しながらベッドに寝転び、しばし、目を閉じた。
──呼吸忘れた黄金のブラダー
痛みも忘れる冷たさにうねり
さ あ 海底におやすみ
M11 《ウラオモテヤマネコ》、寝かしつけをする
でした!
※2026/8/30 M11を大幅改稿いたしました、すみません……!!
Xにて、コミカライズ連載中!
夏コミ8/16日曜日東E25a『アンラブ』にて、コミカライズ同人誌版、発売です!
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