M11《2》(わたしはママじゃないかんね!?)
インターネットを飛び出して、アンラブ漫画が、夏コミにて発売されます♪
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大学が夏休みになってからは、寧子はSNS用のスタッフとして、萬里の仕事にも同行するようにもなった(もちろん、SNSの運用バイトとは別に日当もでる)。
マネージャーである猶人が萬里を車で迎えに来られない時、電車で現場に行くために、付き添いがないと心配であるため、ちょうどいいところに寧子が住んでいた、ということなのだろう。
寧子はいつもよりもきっちりと変装をして、萬里の後ろについていっていた。
音楽界、芸能界を垣間見られるのは、そちらへの願望がない寧子のミーハー心もくすぐられて、興味深かった。
そこで、あらためて、隣人ではない『ラブカ』の波涛萬里の活動を見て思うのだ。
(キラキラ、してるんだなぁ……)
スタイルはいいけど前髪の長い、姿勢が悪い若者、という印象だったから、取材やインタビューなどを受ける萬里の姿を見ると、人の熱狂を受け取るだけのオーラがちゃんとあって、気圧されてしまう。
そもそも、『ラブカ』はインターネット世界では正体不明のアーティストだった。その歌声から男性である、ということがわかっていたくらいで。
それが、実際魔法みたいに出てきたのがこんなにキラキラしたイケメンだったら、熱狂するのも仕方が無いか……と思ってしまう。
まあ本人は、といえば。
『ネネさん、眠い……』
取材を終えると、電池が切れたように寧子の方に倒れ込んできたので、寧子は絶叫した。
『猶人さんタクシーーーー!!』
そう、もちろん、寧子がこの忙しさなのだから、デビューしたてのミュージシャンとして前に立つ萬里の多忙さは尋常ではなかった。
この夏出るのはアマチュア時代の曲を含むベストアルバムだが、そのあとにはリリースイベントライブと、新曲発表が控えているらしい。
プロになってからの新曲は、いくつも大型のタイアップも兼ねていた。寝られるわけがない。
前みたいに渋谷でデートなんてできるわけない。
『ラブカ』の波涛萬里は寧子にとって、仕事相手だが遠いひとだ。
……一方で、『隣人』の波涛萬里の世話も加速している。
たまに、猶人から連絡がある。『あいつがちゃんとメシをくってるかドア前みてやってくれ!!』というものだった。
(わたしはママじゃないかんね!?)
と思いながら、置き配された食事が何十分も置かれていたら、鬼電のち鬼ピンポンをしてしまう。
置きっぱなしのご飯が悪くなってそうだから買い直して、自分の部屋で食べさせたことさえあった。
ひとの熱狂に晒される、化物みたいな17才はでも、子供だから、まだ。
寧子は、デートに誘われた時にはちょっとあるかも? なんて思っていた、隣人との「いい関係」への期待、みたいなのはなくなってしまった。
そういうところも、寧子が「人の心がない」といわれる所以なのかもしれない。だって、恋愛ってやっぱりリスクだ。特に、ラブカみたいなパフォーマーにとって。そんなリスクを考えたら、フラットで便利なスタッフ、そういう位置におさまってた方が、絶対にいい。
『ネネさん、あのさ……』
また、寝かしつけ雑談配信ののち、寝ろコールをしていると電話越しから眠い声がした。
「まだなんかあんの!?」
けんか腰に寧子が聞くと、『うん』と半分夢の世界から、萬里が言った。
『ネネさんは……変わらなくて、いいよ。てか、変わって欲しくない……。いつまでも、俺の歌が……響かないネネさんのままでいて……』
これは、喧嘩を売ってんのか?
人の気持ちがわからないままでいろと?
寧子は自分の手にした、スマホを凝視するけれど、萬里の語彙にそういうチクチク言葉がないことぐらいは、わかるのだ。
寝言のような言葉の真意はさだかでは、なかったけれど。
『寝ます……寝る……おやすみ……』
今は、隣人の健やかな眠りの方が大事で。
「腹しまって寝なさい……」
やっぱりおかんみたいなことを言って、電話を切り、髪をかき上げながら、そのままぽんと、入ったLINEに厳しい顔をしていた。
表示されているのは、猶人のそれでもなければ、ましてや萬里からのそれでもない。
寧子の配信で、「バイトをしてる」ということを聞いたらしき、相手だった。
《なんのバイトしてんの?》
その探るような文面が、どういう「意図」でおくってこられているのか、「人の心がわからない」寧子には察することもできなかった。
深町晢、と名前が表示されている。それは……寧子の元彼だった。
春に寧子をフってからも、たまに連絡がきてる。(フッた方が連絡すんなよ、とその度寧子は思っている)
特に、きっかけになったのは、S2の誤配騒動の時。おおよその察しはついていた。
寧子がバズった、のが、目に入ったのだ。
だから、フった、くせに、また連絡をしてきた……。
それなりに情があった元彼だが、こうして離れてしまうと、その情もきれいになくなってしまったし、しかもこういう形でのアクセスは、正直、ダルい。
「ブロックしよかな……でも、やっぱかど立つよな……」
あの配信もきっと見ていたのだろう。監視みたいなことするの、やめて欲しい。
ブロックするのはワンタップ。簡単だが、同じ大学も通っているので、構内で偶然会うこともあるだろう。変に確執を残すことは得策ではない、と思っていた。
《ちょっとね~》と当たり障りのない返事。
《今度休みいつ?》
う、と寧子は思う。休みを先に聞かれたら、その日は用事があると断れないだろう。この会話運び、わかってやっているに違いない。
《まだわからないや。この夏忙しくて》
《そんな忙しいの? 配信やんねーと広告収入も下がるんだろ? 相談のってやるよ》
「相談、乗ってやる~~????」
血管が切れそう、と思いながら、寧子は耐えきれずに打ち込んでいた。
《いいよ~困ってないから。ありがとうございます》
当たり障りなく、けれどクールに。
てか就活とかしたら? 年上よ~~。
そんなことを思いながら、ぽい、とスマホを投げ捨てベランダを見る。
外はすっかり熱帯夜で、しめきった窓からベランダに出ることもあまりなくなってしまった。すぐ隣にいるけれど、防音のきいた部屋は、遠い。
寧子は、最近になってはじめてちゃんと聞いた、ラブカの歌を、流しながら寧子も目を閉じた。
──呼吸忘れた黄金のブラダー
痛みも忘れる冷たさにうねり
さ あ 海底におやすみ
M11 《ウラオモテヤマネコ》、寝かしつけをする
でした!
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