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アンチコメント・ラブソング  作者: 瀧ことは
M11 配信者《ウラオモテヤマネコ》、寝かしつけをする 

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22/23

M11《1》「ね、ねろーーーーー!!! っていっただろーー!!!」

 最近の、《ウラオモテヤマネコの》配信は、少々低速気味だった。

 大学が夏休みに入ったというのに、それを怪しむ声もある。

 短時間の雑談配信は、へたに燃えたり盛り上がったりしていない分、ゆるゆるとはじまってゆるゆると終わる。


「こんばんは。いや久しぶり? 三日ぶりか……。

 いやほんと、最近ちょっと忙しくてぇ……。違う違う、ゲームじゃなくて。ゲームだったらよっぽどよかったんだけど。ちょっと、バイトをはじめてて……あーうん、夏だから。リゾートバイト、ともちょっと違うけど。おい誰だ、水じゃないです」


 最近はじめたバイト、について、寧子はリスナーにも、リアルの親にも友達にも誰にも言っていなかった。

 言えるわけあるか、と思っている。


「彼氏でもない!! もちろんラウンジでもパパでもない~!!! 彼氏がいたら毎日わざわざあなたたちリスナーを寝かしつけてないからね???」


《フラれネコだから……》《ラブカめっちゃ売れてんね。ネコから一言ください》


「ラブカぁ……??」


 顔を歪めて嫌そうにしたあと、寧子が天井を見て、それから言った。


「あー、もちろんあたしも知ってるよ。メジャーデビューして、相変わらず暗い歌うたってんでしょ? でも、顔だして本名さらして出てきたのは、覚悟あってすごいと思うよ。あたしは全然わかんないけど、今もう別にアンチじゃないです。応援してます」


《おっ手のひらクルーですか?》《上から~》《ネコから目線》


 寧子の額に青筋が浮かぶ。


「なんとでもいいなさいよ。そうじゃなくて、あたしだって変わりたいなーって思うことは結構、あるって話……」


 いつものようにつらつらと、最近気になってるゲームやコンテンツについて話していた寧子だったが、ちらりと時計を見て、言う。


「そろそろじゃあおしまいにしようと思います。みんな最近暑いから、ちゃんとクーラーかけて腹しまって寝なよ~おやすみ~」


《おやすみ》《おやす~~》《乙~》


 流れていくコメントの中で、ぽん、と少額の課金が投げられた。


《おやすみなさい》


 そのアカウントを見て、寧子が切ったあとの画面でうんざりした顔をする。

 ぱっとスマホを握るとためらわず《通話》を押した。


「ね、ねろーーーーー!!! っていっただろーー!!!」


 電話の向こうから、もそもそとしたこもった声がかえってくる


『ねています……配信を聞きながら……今まさに……寝落ち……』


 ぶち、と寧子がキレた。


「寝落ち配信して欲しいっていうから!! 寝かしつけにしてやったんでしょうが! 昨日も全然寝てないの知ってんだからね!? 投げ銭しないで寝なってわたしは言ったよねぇ!? 猶人さんに来てもらって添い寝してもらう!!?」


『それはやだ……猶さん俺のうちで延々飲むし……』


 ぐずぐずと言う、『隣人』との関係は、相変わらず続いていた。


『ラブカ』こと波涛萬里の音楽はデビューからこちら、様々なところで聞こうとしなくても耳にする。

 デビュー曲は夏のドラマのタイアップとして流れ、まだLIVEや音楽番組には出ていないが、配信曲としてチャートがテレビで流れているのを見たことは一度や二度ではない。

 本人、本体、が、テレビ、に出たら次の波がくる、とはマネージャーである猶人も言っていた。よくわからないけど、寧子もそんな気がする。

 萬里をとりまく世界がもっと変わってしまうことだろう。

 正直、怖すぎる、というのが正直な気持ちだった。


 実際、SNS炎上監視スタッフである寧子の仕事も、多忙を極めていた。


(とにかく、熱狂者が、多すぎる……!!)


 寧子の仕事は公式SNSに指定された文言や写真をアップロードすること。

 加えて隣人からおくられてくる動画やイラスト、「本人のお言葉」を確認して投下するのも彼女の仕事だった。

 それ自体は重い作業ではないが、とにかく突撃してくるファンが多すぎる。

 元々アマチュア出身だったことも大きく起因しているのだろう。距離が近い、親のように親戚のように、友達のように馴れ馴れしく時に攻撃的、または情熱的だ。

 一方で、ウラオモテヤマネコなんか目じゃないくらい、口汚いアンチも数多く現れた。

 メディアに大きくとりあげられることで、『わたしたちのラブカが取られた』と思う一部のファンも少なくなかった。


 それらをみんな、寧子はちぎっては投げ、ちぎっては投げる。


 他にも、パブリックにサーチをして、波涛萬里やラブカの曲の評判をウォッチし、広報に報告を上げる。

 この作業自体は、かなり勉強になる、と寧子も思っていた。

 これからの、インターネットを使った広告宣伝について、今学んだ知識がいつまで使えるかはわからないが、きっと有用に違いない。


『ネネさん……』


 電話口から、まだ寝言のような萬里の声がする。まだ寝てなかったんかい、と寧子は思う。


『明日も……よろしくね……』


 半分以上眠っているのか、小さく、笑っているような気配までして。いいから寝ろ、と電話口に小声で怒鳴った。

明日も更新予定、明日は、お知らせもあります♪


Xにて、コミカライズ連載中!


「アンラブ」で、検索してみてください♪


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