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異世界の王子さま

しょうたside


お昼休み、携帯を確認するとゆりからメールが入っていた。


『お姉さんがそっちに行ったはずだから、探してあげて。白いノースリーブワンピースを着てる。』


「は?」


お姉さんとは誰のことだろう。

ゆりに姉妹がいたとは初耳だった。


「急に来るって言われても…」


十も離れた妹の彼氏がどんなものか見に来たのだろうか。

そうであるならば気を抜けない。

建物を出て左右を見回すが、それらしい人影はない。


『もうちょっと、特徴とかない?』


ゆりに送るとすぐに返信が返ってきた。


『腰まである黒髪を垂らしてて、裸足だった。』


「裸足!?」


なんだろう。

尚更わからなくなった。

と。


「しょうた」


携帯を握る手の下に、裸足が見えた。

そのまま顔を上げていく。

手から携帯が滑り落ちた。


「久し振り。立派になったじゃないの。」

「…姉ちゃん……」


姉の好きだった白いノースリーブのワンピースが淡く光っていた。


(お姉さんて…姉ちゃんのことか…?)


信じられない思いで姉の顔を凝視していると青白い顔に笑みをこぼした。


「やだ、なにその顔。わたしの顔、忘れちゃった?」


忘れる訳がない。

忘れたことなど一度もない。


「本当に…姉ちゃんか…?」

「うん。キルくんとかいう子に手伝ってもらった。」

「キルくん?」

「キルヴィ・エルフォレスト・ガヴィネル」

「…あいつ?」

「まあ、良いじゃない細かいことは。時間が、ないの。」


笑う顔が少し、歪んだように見えた。


「だから、お別れに来た。」

「!!」

「母さんにも会ったけど、もう大丈夫よ、って言われた。だから、もう、行くね。そばにいなくても、平気でしょ?」

「ずっと、いたの?」

「あはは、母さんと同じこと言うのね。いたわ。見えなくて当たり前だけど。」

「ありがとう」

「急に恥ずかしいわね、こういうの。」


あれから十六年。

少しも変わらない姉は、あの時はすごく大きく見えたのに、今ははにかむ少女にしか見えない。


「俺、頑張った。姉ちゃんみたいに誰かを守れる男になりたくて、警察官になったんだ。」

「わたし男じゃないし。まぁそれは置いといて。聞いたわ、彼女に。」

「彼女?」

「ゆりさん、だっけ。」

「あぁ」

「随分若い子と付き合ってるのね。」

「…んまぁ」

「良いじゃない、年齢なんて関係ないわよ。なんて、あんたのが年上になっちゃったからもう偉そうなこと言えないわね。」

「いいよ。姉ちゃんは、姉ちゃんだから。」


あの頃の姉はとても大きな背中だった。

でも、


(俺の半分くらいしか生きられなかったんだ)


あの時と同じ、優しい顔で自分を見る姉は、苦しそうに、しんどそうに笑っている。

あの時言えなかったあれを伝えなければ。


「姉ちゃん」

「ん?」

「俺、姉ちゃんが、世界で一番好きだった。」

「––––––そう。でももうそれじゃあだめよ。ゆりさん、大事にしてあげてね。」


思ったよりも反応が薄いと思ったけれど、それは表面だけであることは表情でわかる。

姉の目からとめどない涙が溢れ出した。


「そうそう」


ひとしきり泣いて落ち着いてきた頃、思い出したように言った。


「キルヴィね、家族が見つかったって。春子さんに、母さんに伝えておいて欲しいって。直接言いたかったんだけど異世界に帰っちゃったから無理って。」

「……はい?」

「わたしのこの体、キルくんがやったって言ったでしょ。あの子魔法が使えるのよ。すごくない?」

「……えーっと」

「ゆりさんに聞けばこう言うはずよ。“ 彼、実は異世界から来た王子さまなのよ。どうせ信じないだろうし、言わないでって頼まれてたから言えなかった ”って。」

「……ゆりが?マジでか」

「あぁ、もう行かなきゃ」


後退り始めた姉に、俺は最後に言った。


「元気で。」


瞬きをした一瞬で姿が消えていたけれど、残像のように姉の満面の笑みが見えたような気がした。



***



落ちる 落ちる 落ちる


何かを掻き分けるような少しの抵抗を背中に感じる


来た時もこんな感じだったのだろうか。

気がついたら公園にいたから覚えていない。

と、突然視界が開け、目の前に壮大な空間が、空が開けた。


「わああっ!!」


強い風が吹き付ける。

風に押された雲が流れていくのが視界の端に映る。


「って、ここどこ?」


いつの間に魔法が解け、キルヴィの姿に戻っていた自分の手足を見ながらふと呟いた。


「–––––疲れた」


よく最後までもったものだと自分でも思う。


【ふふふふっ、流石英雄。己の力で記憶を取り戻すとは。】


眠気と戦う私の耳に、いつかの声が聞こえてきた。


【まぁ良い。楽しめたか?】


ええ、とても–––––




彼の体は城近くの、大きな湖へと向かう。

湖の岸辺には、物憂げなアルの姿があった。

急展開で「えぇー!?」となった方もおられるでしょうか。

次は「続・転生したら病弱な王子になりました。」に続きます。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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