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魔法侵蝕譚ーマナ・サピエンス  作者: ArgasNorn
勇者の軌跡

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protocol40 : 謁見の魔

 王宮内部は、外の惨状と変わらなかった。


 廊下の角を曲がるたび、グールが群れをなして現れる。


「もう何体目だ......!」


 フィンが、爪で首を刎ねながら、苦々しく呟いた。


「気を抜くな、まだ奥がある」


 ガイアスの声に、一行は再び足を進めた。


 剣戟の音と、グールの断末魔が、幾度も廊下に響いた。


 やがて――。


 赤い絨毯が敷かれた、長い廊下へと出た。


 その先には、金の装飾が施された、巨大な扉が見える。


「......静かだな」


 ユリウスが、周囲を見渡しながら呟いた。


 不思議なことに、この廊下には、グールの姿が一体もなかった。


 まるで、そこだけが、意図的に守られているかのように。


「開けるぞ」


 ガイアスが、両手で扉を押し開いた。


 ――その光景に、誰もが息を呑んだ。


 天井は、優に百メートルはあるだろうか。


 広大な空間に、幾本もの大理石の柱が並び立ち、青白いエーテル光が、怪しく空間を照らしていた。


 白い大理石の床には、まっすぐに、赤い絨毯が敷かれている。


 一行は、その絨毯の上を、慎重に進んでいった。


 やがて、緩やかな段差を上がると、正面の壁――手すりの付いた、テラスのような高台が見えてきた。


 そこには、立派な椅子がいくつも、入り口側を向いて並んでいる。


 その中央には、一際豪奢な、黄金の椅子があった。


 そして――そのいずれにも、人が座っていた。


 誰もが、平安の時代を思わせる、豪華な着物を纏っている。


 頭には、黒い長い帽子。


 男性と思われる者、女性と思われる者、様々な姿があった。


「......よかった、無事だったのね」


 リタが、思わず安堵の声を漏らした。


 ユリウスも、僅かに肩の力を抜く。


 だが――。


 近づくにつれ、誰もが、その異様さに気づいていった。


 王族たちは、誰もが、真っ黒な布を、顔の前に垂らしていた。


 その表情は、まったく見えない。


 そして、この広大な空間全体に、妙な匂いが漂っていた。


 甘ったるい、香水のような香り。


 だが、その奥に隠れて、時折、生臭い――卵が腐ったような臭いが鼻をつく。


「......あいつらは?」


 ガイアスが、低く問う。


「この国の王族のはずだ」


 ユリウスが、そう答えた。


「この国の王族は、顔を見せないのか?」


「そんなこと、無いはずよ」


 リタが、戸惑いながら首を振る。


「どうして、黒い布なんか......」


 その時、中央の――王と思われる人物が、声を発した。


「よ、ㇰぞ、ここマで、きタ。 ゆウしゃ ノ みなサま 。」


 言葉は、酷く不明瞭だった。


 まるで、ろくに舌が動かないまま、無理やり喋っているかのように。


 その声に合わせて、周囲の王族たちが、ぎこちなく、拍手をした。


 ――パチ、パチ、パチ。


 その動きも、どこか関節が引き攪れるような、不自然な緩慢さがあった。


「......何なんだ、ここは」


 フィンが、僅かに後退った。


 ガイアスは、それでも、単刀直入に問いを投げた。


「この国は、どうなってる」


「そうテイがい。」


 王が、そう答える。


「しんしょㇰ つヨすぎ」


 別の王族が、続けた。


「りソース ふソく」


「 じっけン。しっパい。」


 次々と、王族たちが、片言のような言葉を発していく。


「何を言ってるんだ? ちゃんと話せ!」


 ガイアスが、声を荒らげる。


 誰も、その問いに、まともに答えなかった。


 リタは、注意深く、王族たちの顔にかかる布を見つめていた。


「......あれ」


 それは、黒い布ではなかった。


 元は、白い布だったのだろう。


 だが、びっしょりと濡れ、顔からにじみ出た液体で、真っ黒に染まっていた。


「まさか......」


 リタの背筋が、冷たく凍りついた。


「てき ごうシュ ひっス? りそーす さいてキか しま スか?」


 王が、そう発した直後――。


 周囲の王族たちが、一斉に、もだえるように身を捩り、低いうなり声を上げた。


 ――ウウウウ、ウウウ......。


「......っ」


 その光景に、誰もが、言葉を失った。


「リソースの再配分・最適化完了しました」


 突然、王の口調が、不自然に明瞭なものへと変わった。


「続いて、状況に対する解決策を演算します。......完了しました」


「......な、何だ、こいつら」


 フィンが、震える声で呟いた。


「大丈夫か......?」


「正気とは、思えないな」


 ドレイクが、低く応じる。


 勇者たちは、口々に、その異常さを訴えていた。


「我々の箱庭へようこそ、勇者の皆さま」


 王が、静かに――今度は、はっきりとした声で告げた。


「ご安心ください。現在、この国の全てのグールの動きは、一時停止されております」


「......どういうことだ」


 ガイアスが、剣の柄に手をかけながら問う。


「現在、この国全土のイビルマナネットワークは、我々が掌握しております」


「ただし、演算リソース不足のため、完全な制御には至っておりません」


 王の顔にかかった布が、微かに震えていた。


「そのため、我々への協力を要請します」


「......我々、だと?」


 ガイアスの声が、低く沈んだ。


―――――――――――――――――――――


 王宮前。


 崩れ落ちた石畳と、動かなくなった肉塊の残骸が、あたりを覆っていた。


「わたしなら、救えるわ」


 アリアが、倒れたユリウスパーティの仲間たちを見下ろしながら、微笑んでいた。


「ただし......」


 その言葉に、ミアが、震える声で問いかけた。


「......ただし、何」


「我々に、協力すること」


 アリアの声は、淡々としていた。


「我々って? いったい......」


 ミアが、警戒しながら、アリアを見つめる。


「あら」


 アリアは、口の端を、僅かに上げた。


「ご存じないかしら? 勇者パーティのメンバーなら、知っているはずよ」


 彼女は、ゆっくりと、その名を口にした。


「私たち、魔神機関と呼ばれているの」


 その言葉が、静まり返った広場に、静かに、しかし重く響き渡った。

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