protocol36 : 二つのパーティ
ギルド『垓亜のよるべ』の周囲には、幾体ものグールがひしめいていた。
建物を取り囲むように、うめき声を上げながら、鈍い動きで徘徊している。
「......これは、想像以上だな」
ガイアスが、剣を構えながら、その光景を見渡した。
「一気に片付けるぞ!」
号令とともに、勇者パーティが飛び込んでいく。
剣が、爪が、拳が、次々とグールを打ち倒していった。
だが――。
「――そっちにも回るぞ! 気を抜くな!」
不意に、別方向から声が上がった。
振り返ると、そこには、別の冒険者パーティの姿があった。
先頭に立つのは、ぼさぼさの茶髪をした、快活な雰囲気の青年。
ユリウスだった。
「......何だ、お前らは」
ガイアスが、剣を振るいながら、油断なく問う。
「見りゃ分かんだろ、こっちも命懸けでグール退治してんだよ!」
ユリウスが、大剣を振り下ろしながら、笑い混じりに答えた。
「敵の敵は味方だ! 文句がねぇなら、手を貸せ!」
その言葉に、ガイアスは、一瞬だけ黙り込んだ。
だが、すぐに小さく頷いた。
「......構わない。数が多い、猫の手も借りたいところだ」
「話が早くて助かるぜ!」
ユリウスが、白い歯を見せて笑う。
彼の背後には、槍を構えた女性、杖を携えた魔導師、盾を構えた重装備の男など、五、六人の仲間の姿があった。
「囲まれる前に、まとめて叩くぞ!」
ユリウスの指示に、彼のパーティが素早く展開する。
勇者パーティも、それに合わせて陣形を整えた。
「フィン、右手を頼む!」
「了解!」
フィンが跳躍し、迫るグールの首を刎ね飛ばす。
その隣で、ユリウスパーティの槍使いの女性が、鋭い突きで別の個体を貫いた。
「連携、悪くないじゃねぇか!」
ユリウスが、楽しげに叫びながら、大剣を横薙ぎに振るう。
三体のグールが、まとめて弾き飛ばされた。
「調子に乗るな。数はまだ多いぞ」
ドレイクが、冷静に忠告しながら、竜の腕でグールの群れを薙ぎ払う。
「かてぇこと言うなよ、兄ちゃん!」
ユリウスが、軽口を返す。
その間にも、リリィの拘束魔法が、群れの動きを鈍らせ、ゴードンの戦斧が、確実にその数を減らしていった。
ユリウスパーティの魔導師も、氷の刃を放ち、複数のグールを一気に切り裂く。
アンナとローズ、そしてユリウスパーティの重装備の男が、正面から突っ込んでくる集団を、力任せに食い止めていた。
後方では、魔導具たちも、それぞれ武器を構え、隙間を縫って現れる敵を、確実に仕留めていた。
「リオ、左!」
「分かってる!」
リオが、短剣で床を這うように近づく一体を斬り捨てる。
ルナが、結界で味方の死角を守りながら、小さな魔法弾を撃ち込んでいた。
バルドは、黙々と、確実に敵の急所を突いていく。
二つのパーティが入り乱れる激しい戦闘は、それでも、着実に決着へと近づいていった。
やがて――。
最後の一体が、地に崩れ落ちる。
辺りに、静寂が戻った。
「......ふう」
ユリウスが、大剣を肩に担ぎ、額の汗を拭った。
「助かったぜ、正直、数が多すぎて焦ってた」
「こちらも同じだ」
ガイアスが、剣を鞘に収めながら、短く応じた。
「お前ら、見ない顔だな。旅の冒険者か?」
ユリウスが、興味深そうに聞いてくる。
「......まあ、そんなところだ」
ガイアスは、それ以上詳しくは語らなかった。
「この街、一体何が起きてる。街中がグールだらけだ」
「俺たちが聞きてぇよ」
ユリウスが、肩をすくめた。
「昼間までは、いつも通りだったんだ。それが、日が暮れた途端、こんな有様さ」
「情報を集めるために、ギルドに向かっていたところだ」
ガイアスが、目の前の建物を見上げた。
金属製の扉は、固く閉ざされたままだった。
「ちょうどいい。俺たちも、そこに用があったんだ」
ユリウスが、扉へと歩み寄る。
「おい、中にいるやつら! 開けてくれ! 俺だ、ユリウスだ!」
拳で、扉を叩く。
――ドン、ドン、ドン。
その音は、先ほど、宿屋で聞いたノックの音と、酷似していた。
一瞬、勇者パーティの間に、緊張が走る。
「......よせ、リオ」
ガイアスが、思わず制止の声を上げようとした。
だが、それより早く、扉の向こうから、押し殺した声が返ってきた。
「......ユリウス? 本当に、ユリウスなの?」
女性の声だった。
僅かに、震えている。
「ああ、そうだ! リタ、無事か!」
ユリウスが、扉に向かって叫び返した。
しばらくの沈黙の後、重い施錠を外す音が、幾つも連続して響いた。
――ガチャン、ガチャン、ガチャン。
やがて、金属製の扉が、僅かに開かれた。
隙間から、こちらの様子を窺うように、一人の女性が顔を覗かせる。
金髪のショートヘア。
その顔には、隠しきれない疲労と、まだ消えない恐怖の色が浮かんでいた。
リタだった。
「......本当に、生きてたのね」
リタの声が、微かに震えていた。
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってる」
ユリウスが、努めて軽い調子で答える。
その様子を、ガイアスたちは、無言のまま見つめていた。
「......中に、入れてくれ」
ガイアスが、静かに口を開いた。
「話を聞きたい。この街で、一体何が起きているのか」
リタは、一瞬、見知らぬ勇者パーティの面々を見渡した。
その視線が、微かに揺れる。
だが、すぐに、覚悟を決めたように頷いた。
「......分かりました。どうぞ」
扉が、大きく開かれる。
二つのパーティは、崩れかけたギルドの建物の中へと、足を踏み入れていった。
建物の奥では、まだ、血の匂いが微かに漂っていた。
そして、リタの脳裏には、あの執務室で見た書類の文字が、消えることなく焼き付いていた。
リタは、二つのパーティを、ギルドの奥へと案内していった。




