protocol25 : 聖王女からの贈り物
王宮の大広間には静かな高揚感が残っていた。
七人は、まだ互いをよく知らない。
それでも、確かに一つの使命で結ばれた。
ガイアスがそう感じていた、その時だった。
「勇者の皆様」
聖王女の声が響いた。
「まだ、お伝えすべきことがございます」
「まだ何か......?」
ガイアスが問う。
聖王女は静かに頷いた。
「あなたたちの旅には、支援が必要です」
言葉と同時に、大広間の両脇の扉が開いた。
近衛騎士に先導され、数名の男女が入ってくる。
その数、七人。
勇者たちと同じ人数だった。
先頭を歩くのは、黒髪短髪の青年だった。
青い瞳に、緊張の色が浮かんでいる。
その隣には、金色のロングヘアを持つ女性。
緑色の瞳が、落ち着かなさそうに広間を見回していた。
残りの五人も、それぞれ静かに歩みを進め、勇者たちの正面に整列する。
誰も、声を発さなかった。
フィンが小さく首を傾げる。
「......何だ、この空気」
聖王女が手で示した。
「彼らを紹介します」
アンナが眉を寄せた。
聖王女は、黒髪の青年に視線を向けた。
「リオです。傭兵として、各地で戦闘の経験を積んできました」
リオは小さく頭を下げた。
「......よろしくお願いします」
その声は硬かった。
次に、聖王女は金髪の女性に目をやる。
「ルナです。魔法の心得があります」
「よろしくお願いします」
ルナも同じように頭を下げた。
その所作には、どこか諦めのようなものが滲んでいた。
聖王女は残る五人の名を、一人ずつ静かに読み上げていった。
ガイアスは、七人の顔を順に見た。
勇者たちと違い、種族はほとんどが人間だった。
装備も質素で、統一感がない。
そして――何よりも、その目だった。
勇者たちのような高揚も、誇りも、そこにはなかった。
「彼らは」
聖王女が続けた。
「マナレベル0――聖王国が定める基準において、体内のマナがほとんど発現していない者たちです」
「マナレベル0......?」
ゴードンが低く呟いた。
「本来であれば、マナ欠乏症のリスクを抱え、隔離の対象となる者たちです」
聖王女の声に、変化はなかった。
淡々と、事実だけを述べる口調だった。
「ですが聖王国には、救済措置があります」
「救済......措置」
リリィが小さく繰り返す。
「勇者パーティの支援に加わることで、彼らは最低限の魔力の供給を受けられます」
聖王女は微笑んだ。
「そしてあなたたちは、彼らの力を借りることができる」
広間に、束の間の沈黙が落ちた。
ガイアスは、リオとルナを見た。
二人とも、視線を伏せている。
まるで、何かに耐えているかのように。
「あなたたちは、彼らを自由に使ってくださって構いません」
聖王女の言葉が、静かに響いた。
「戦闘の盾として。荷運びとして。道の露払いとして」
「......自由に、使う」
ドレイクが繰り返した。
その声には、微かな戸惑いがあった。
「彼らの意思を、気にする必要はありません」
聖王女は続けた。
「彼らは、聖王国のために存在する道具です」
「道具......」
ガイアスは、思わずその言葉を繰り返した。
目の前にいるのは、確かに人間だった。
リオの青い瞳も。
ルナの緑の瞳も。
自分たちと同じように、光を宿している。
それなのに――道具、と呼ばれている。
アンナが腕を組んだ。
「おい」
その声に、わずかな棘があった。
「人間だろ、こいつら」
「アンナ様」
聖王女の隣に控えていた騎士が、静かに口を挟んだ。
「マナレベル0の者たちは、聖王国において特別な区分に置かれています」
「彼らは自らの意志で、この役目を受け入れています」
「勇者パーティの支援は、彼らにとっても最低限の魔力供給を受けられる、数少ない道です」
アンナは黙った。
だが、納得したようには見えなかった。
ローズが、小柄な体でリオとルナを見つめていた。
「......ねえ」
ローズが小さく声をかけた。
「あなたたち、それでいいの?」
リオが顔を上げた。
一瞬、何かを言いかけるように口を開いた。
だが、すぐに視線を伏せた。
「......これが、俺たちの役目ですから」
ルナも小さく頷いた。
「はい」
その返事は、あまりにも静かだった。
ガイアスは、何も言えなかった。
七人の勇者は、それぞれの表情で、目の前の七人を見つめていた。
フィンは、獣の耳を微かに伏せていた。
リリィは、口元に手を当てたまま黙っている。
ゴードンは、深く息を吐いた。
ドレイクは、視線を逸らさずにリオを見つめていた。
聖王女は、その空気を気にする様子もなく、静かに告げた。
「彼らは、明日よりあなたたちと共に旅立ちます」
「以上で、本日の説明を終わります」
一礼し、聖王女は騎士たちを引き連れて広間を後にした。
残されたのは、十四人だった。
誰も、しばらく言葉を発さなかった。
やがて、フィンが小さく息を吐いた。
「......まあ、これから世話になるってことだな」
努めて軽い口調だった。
だが、その声には、先ほどまでの気安さはなかった。
ガイアスは、もう一度リオとルナを見た。
二人は、まだ視線を伏せたままだった。
自由に使っていい。
その言葉が、耳の奥に残っていた。
――本当に、それでいいのか。
誰にともなく、ガイアスは心の中でそう問いかけていた。
答えは、まだ出なかった。




