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魔法侵蝕譚ーマナ・サピエンス  作者: ArgasNorn
勇者の軌跡

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protocol22 : 勇者選定

 その村には、年に一度だけ、聖王国から聖職者が訪れる日があった。


 村の中央に建てられた小さな礼拝堂。


 その前に、村人たちは集まっていた。


 老人も、子供も、農夫も、商人も。


 誰もが息を潜めて、礼拝堂の奥に置かれた白い祭壇を見つめている。


 今日は、聖王国の聖王女が神託を下す日だった。


「静粛に」


 祭壇の前に立つ司祭が杖を掲げた。


 その瞬間。


 礼拝堂の天井から、淡い光が降り注いだ。


「おお……」


 誰かが声を漏らした。


 光の中に、一人の少女が現れる。


 白銀の衣を纏い、長い髪を揺らす、聖王国の聖王女。


 彼女の姿は実際には遠隔投影されたものだった。


 しかし、村人たちはそんなことを知らない。


 彼らにとって、それはまさしく奇跡だった。


『聖なるマナの導きに従い、告げます』


 聖王女の声が礼拝堂に響く。


『この村より、魔の脅威に立ち向かう者が選ばれました』


 ざわめきが起こった。


 母親が子供を抱き寄せる。


 老人たちは互いに顔を見合わせる。


『彼は人の身にありながら、常人を超える力を持つ者』


 そして。


 聖王女の視線が、礼拝堂の中央へ向いた。


『その名は――』


 光が、一人の青年を照らした。


「……え?」


 青年は、自分を指差した。


 金髪。


 碧い瞳。


 まだ二十代の、どこにでもいるような青年だった。


「お、俺……ですか?」


 青年――ガイアスは、周囲を見回した。


 村人たちの視線が、一斉に彼へ集まっている。


「ガイアスだ……」


「まさか……」


「あのガイアスが?」


 幼い頃から、この村で暮らしてきた。


 特別に裕福でもない。


 貴族でもない。


 まして、魔法の名門の出身でもない。


 ただ、少しだけ体が丈夫だった。


 剣を握れば同年代の誰よりも強く、魔法を使わせれば、教えられてもいない術式を感覚だけで動かすことができた。


 それでもガイアス自身は、それを大したことだとは思っていなかった。


『ガイアス』


 聖王女が、その名を呼んだ。


『そなたは神に選ばれし者』


「俺が……勇者?」


『そうです』


 その言葉が響いた瞬間。


 礼拝堂が歓声に包まれた。


「勇者だ!」


「ガイアスが勇者に選ばれたぞ!」


「聖王国の神託だ!」


 ガイアスは呆然と立ち尽くしていた。


 やがて、一人の老人が涙を流しながら近づいてくる。


「ガイアス……」


「村長……」


「お前なら……お前なら、この村を救ってくれると思っていた」


「いや、ちょっと待ってください。俺、まだ何も――」


 その声を遮るように、聖王女が続けた。


『ガイアスよ』


「……はい」


『これより先、そなたには長き旅が待っています』


 聖王女の瞳が、まっすぐにガイアスを見つめている。


『魔物を討ち、人々を救い、聖王国を守るのです』


「……俺に、できるでしょうか」


『できます』


 即答だった。


『あなたには、その力があります』


 ガイアスは自分の手を見つめた。


 何の変哲もない、人間の手。


 それなのに。


 今、この瞬間から。


 自分は「勇者」になった。


「……わかりました」


 ガイアスは顔を上げた。


「俺がやります」


 歓声が再び上がった。


 村人たちは喜び、ガイアスの家族は涙を流し、子供たちは彼を取り囲んだ。


「勇者様!」


「ガイアス兄ちゃん!」


 その光景を、聖王女は静かに見つめ、微笑んだ。


『ガイアスよ。聖王国は、そなたを歓迎します』


 光が消える。


 礼拝堂には、歓喜に沸く村人たちだけが残された。


 これは、魔神に立ち向かう勇者たちの物語。

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