protocol 18 : 華桜閣陥落
出口までは、まだ距離がある。
街路のあちこちから、うめき声とも呻きともつかない声が響いていた。
立派なスーツを着た紳士、ドレスを纏う貴婦人、筋骨隆々としたゴロツキ、鎧に身を包んだ騎士、カバンを背負った商人――皆、グール化していた。皮膚は所々壊死し、白く濁った目のまま、歯を剥き出しにして四人へと殺到する。
レイン「ッ、、、数が多い」
レインは魔導銃を構え、目の前に迫る数体を一撃で蹴散らす。
メリー「離れたところにも来ます! ライトニング!」
メリーが放った雷撃が、離れた場所に群れていたグールたちを一瞬で焼き払う。
リディア「メリー、後ろだ!」
メリーに迫っていた数体のグールを、リディアが振り向きざまに斬り捨てる。返り血一つ浴びず、剣を鞘に納めるような自然な動きだった。
ディックは小型の銃とナイフで周囲を牽制しながら、懐から小型の爆弾を取り出して投げる。
ドンッ。爆発の衝撃でグールたちが吹き飛び、前方に道が開けた。
ディック「行けます! 今のうちに!」
レイン「みんな、今だ! 走り抜けるぞ!」
四人はグールを斬り払い、撃ち払いながら、華桜閣の入り口を目指して駆け出す。
ディック「兄貴……ここの住人、全員グールになっちまったんすか?」
レイン「かもしれないな」
リディア「犯人は、あのローブの奴か」
メリー「何者なんでしょう……」
レイン「わからない。とにかく、今は脱出だ!」
前方に出口の光が見えてきた。
そこには、白銀の鎧に身を包んだ王国の聖騎士たちと、白い法衣を纏った聖浄教会の司祭たちが集結していた。
レイン「そこを通してくれ!」
ディック「俺達、人間っすよ!」
聖浄教会司祭「嘘だろ……まだ、生き残りが居たのか!」
聖騎士「開けてやれ!」
閉ざされていた柵が引き上げられ、四人は転がり込むようにして街の外へと飛び出す。息を切らしながら、ようやく足を止めた。
背後では、聖騎士たちが剣でグールを斬り捨て、ボウガンで撃ち抜き、光線魔法、火炎魔法、氷結魔法、雷撃魔法で応戦していた。司祭たちは動きの鈍ったグールに、白色に発光する液体――「聖水」を浴びせ、その動きを完全に止める。止まったグールは別の司祭たちの手で白い布に包まれ、馬車に乗せられて回収されていった。
司祭「封印措置完了」
聖騎士「数が多すぎる……!」
聖騎士長が、周囲の聖騎士たちに命じる。
聖騎士長「国王命令だ。華桜閣の封鎖措置を行う。この街は、もうだめだ」
聖騎士「障壁魔法展開準備。詠唱開始!」
複数の聖騎士と聖浄教会の司祭たちが一斉に詠唱を始める。光の粒子が街全体を包むように立ち上り始めた。
リディアがその光景を振り返り、拳を握りしめる。
リディア「……封鎖、だと? 中にまだ、生きてる奴がいるかもしれないってのに」
メリー「リディア……」
レイン「今の俺たちには、止める力がない」
その様子を、建物の上から静かに見下ろすフードを被った人物がいた。
フードの人物は自らの頭に手を当て、低く詠唱する。
「――ニューラルアクセス」
魔導通信が繋がる。
フードの人物「偽造マナポーション散布完了しました」
「……ええ、発症率70%」
「予測結果との誤差、0.8%です」
「条件ごとのデータについては、全て記録済みです。では」
魔導通信が終了する。
フードの人物は、それだけを告げると、屋根の上から静かに姿を消した。
華桜閣の上空には、聖騎士たちの詠唱によって淡い光の膜が広がりつつあった。街全体を覆い尽くすその光は、まるで巨大な墓標のようだった。
レインたちは、崩れ落ちるように地面に膝をつく人々の影を、光の膜の向こうにいつまでも見つめていた。




