第四話『神楽、お前もあっち系か』(四)
(四)
「退院してからでもいいんじゃないですか?」
病室で、神楽は神楽は調書から顔を上げて、俺を気遣って聞いてきた。
「いや、かまへん。俺は昔から嫌いなおかずから食べる人間やし」
「そうですか。意味はわかりかねますが、続けますね」
そう言うと神楽は、再び供述調書の写しに目を向けた。
――
「そう。分かったわ」
何もかも嫌になって私は室田康太に言うと、彼に背を向けて帰ろうとしました。
「晴子」
「何?」
「すまん、晴子。俺が悪かったで」
彼の言葉に、私はまだ半信半疑でした。
「そうやな。元気な子、産んでや」
その言葉を耳にした瞬間、胸の奥が熱くなりました。
「本当に産んでもいいの?」
私はもう一度、康太に訊ねました。
「あたりまえや。俺もそろそろと思っとったんや」
「うれしい」
康太が私の肩を抱き寄せてきた。
私はそれに応えようとしたとき、彼は私の首を絞めてきました。私は必死に康太の手を掴んで抵抗をしました。
「アホが。面倒くさい奴や」
私の意識が遠のいていく中、康太の声が聞こえた気がしました。
――
「以上です」
供述調書を閉じた神楽は、俺をじっと見つめていた。
「何や?」
多分、大野晴子の供述を聞いた俺の感想を聞きたいんやなと思って、感想を言おうとした。
「桔平ちゃん、ペットカメラって知っていますか?」
「……」
一瞬、神楽が何を言っているのか、わからなかった。
「私が、仕事に出かけたり、京都の家に帰ったりしている間、もしもの事があってはいけないと、担当の先生に相談してました。『ペットカメラ』も先生に勧められて。ほら、あそこ……に設置していました」
「ふーん……そうやったんや……」
俺の背筋に冷たいものが流れていた。
何故なら昨日の夜、まりかが俺の病室に来て、小説とSDカードを渡した後、いきなり抱きついてきた――という、やましい理由があるからや。
「……いや、そのカメラは知ってたで……」
嘘である。全く気付いていなかった。
「昨日の夜の映像で不思議な事がありました」
「何がや……」
俺は小さい頃から知っている。神楽が静かに話しているときは、怒ってる証拠や。
「まりかさんが桔平ちゃんの部屋に入ってきて、手に持っていた小説とSDカードを渡していました……」
「そうやったなぁ……ゴクッ」
《これぇ……めっちゃ死亡フラグやん。何でペットカメラなんて仕込んどんねん》
家に帰ったら、手当たり次第にカメラを探そうと俺は決意した。
「その時、画像が急に乱れてしまいました。画像が戻った時、まりかさんの姿はなく、桔平ちゃんは一人で、小説を読んでました」
「……」
意味はわからん。
しかし、やましい場面は映ってないということやった。俺は胸の内でガッツポーズを決めた。
「私的に、何か霊的なものを感じました」
神楽の霊的=幽霊発言に、俺の心臓が反応して、咄嗟に四方を確認した。
「はは……何でも幽霊のせいにしたら……あかんでぇ」
「そうですね」
「ははは……」
俺はその時、笑いながら心の中で「般若心経」を唱えていた。




