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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第四話『神楽、お前もあっち系か』(二)

(二)


「小説を読んで、この部分があればもっと面白いかなと思いました」


 あまり話を進めて、泣かれても嫌やし、俺は話をそらしながらまりかの反応を窺っていた。


「俺も小説を書いています」


 頭の中で……やけどな。


「はい」


 まりかが、大きな目で俺を見ている。


「稚拙ながら、俺なりに柴田さんの小説に少しばかり付け足してみました。聞いてくれますか?」


 と、一文字も書いたことのない俺が、偉そうに言うので、まりかも小さく笑いながら「聞かせてください」と言った。


「冒頭の『ビシャン』から主人公の『もう戻れない』は、いいと思います。そこから、男からの連絡が入る前の部分です。被害者の女が何故夜遅く、人のいない可能性の高い背割堤へ一人で行ったのか? この部分が気になりました」


「なるほど、そうかもしれないですね」


「誰が、被害者の女を呼び出したのか? これは俺が、警察官だからそう思ったということもあるかもしれません」


「現職の刑事さんの考えも重要ですね」


 まりかは、声を震わせながら相づちをうってきた。


「あくまで小説のストーリーです。あまり硬くならないでください」


 俺は、優しく声をかけた。


「はい」


「夜の十一時という時間を考えると、相手は『女』。しかも、男絡みの話をちらつかせた、というのは」


「面白い発想です。さすがは刑事さん。そうですね、小説の中の被害者の女の『本命の男』について、呼び出す女に『私もその男の子供を妊娠してるの。だから彼と別れて』とでも言わせれば、或いは呼び出しに応じるかも知れませんね」


 まりかの言葉は、自白のように聞こえるが、あくまで小説での話や。それを山根あかりに当て嵌めているだけの、たわいのない空想の世界の話やった。


 ただ俺には、真実のように感じた。


 織田まりかは、SDカードの中身を見た。そして弟の祐輔が死んだときの状況を写している「扉」を開いてしまったんや。


 そのとき、病室の扉が静かに開いて、山際のおっさんのとこから神楽が戻ってきた。


「なんやお前……」


 ノックぐらいしろやぁと文句を言おうとしたが、どうも神楽の表情が怪しい。


「どないした?」

「いえ。何でもありません」


 何でもありませんと言いながら、明らかに動揺の色は隠せていない。


《まさか……お前》


 ……俺の浮気を疑っとるのとちゃうやろな。と思いながらも、昨夜のまりかとの抱擁を思い出して、心臓がバクバク鳴り出した。


「あ、私はこれで失礼します。所長に頼まれ事をしていたのを忘れてしまってました」


 まりかも何やら気まずそうに立ち上がると、病室を出ようとした。


「先日のまりかさんへの答えを、まだお伝えしていませんでした」

「……」


 まりかは何も言わない。神楽をじっと見つめて次の言葉を待っていた。


「私の言葉が軽すぎた事をお詫びします。そして私があなたの立場なら……警察官として言うべき言葉ではありませんが……。殺してやりたい……いえ、犯人がわかっていたら拳銃で撃ち殺します」


 まりかの『あなたの大事な人が突然奪われても、同じことが言えますか』という問いへの返答やとは思う。


 あかん、神楽。あかんでぇ。


 サスペンスの主人公は、憎くても涙を呑んで、犯人を捕まえるんや。


《確かに、警察官が言う言葉やない。もしもあの未央に聞かれて記事にでもなったら……大炎上ではすまへん。俺がおっさんに言われて、火消しに走らなあかんやないけ。しかもサスペンスの主人公が殺人て……ありやな》


 神楽の言葉の真意はわからんけど、俺は小説の案としてびびっと閃いて、忘れん内に早く一人になりたくてうずうずしていた。


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