第五章『隠し扉の真実』第三話 家族って何や(六)
(六)
「とりあえず駐車場の中を確認しましょう」
変な妄想に負けじと、頭を振りながら俺は、ガレージの鍵を受け取った。シャッターを開けると、奥にパソコンが三台置いてあった。
一台はデスクトップ型、残り二台はノート型だった。どれも見た目は古くない。
「これを私に処分して欲しいということですね」
「はい。そうです」
何故か、不必要に身体を密着してくる百合は「お願いします」 と言ったので、俺は仕方無く、パソコンを車に積み込んだ。
「これは何ですか」
羽毛? のようなものが辺りに散らばっていた。百合に訊ねると「大分前に大きな枕が駐車場に置いてあって、女の香水の匂いがしたので、腹が立ってナイフで切り裂いて捨てました」と、彼女は隠すこともせずに答えた。
「そのときに、枕の中に隠されていた、あのSDカードを見つけました」
百合は汚らわしいと言わんばかりの顔をした。
「あなたは、中身を確認されましたか?」
「いいえ、見ていません。でも女の枕に隠すようなもの、世間に知られてまずい事が入っているに決まっているじゃないですか」
意外な返事だった。
《普通は気になって見るものじゃないのか?》
しかも俺にSDカードを渡して『晒してほしい』と言った。そして『主人の犯罪記録』とも言っていたのだ。
《言ってる事が矛盾している。何か企んでいるのか》
と、警戒心を強めた。
「でも」
と、彼女は一呼吸置いた。
「ファイルだけはコピーして、別の子に預けました」
「誰ですか?」
百合が誰にファイルのコピーを渡そうと、俺には別にどうでもいい話だ。娘が生きていれば、俺も焦るだろうが、もうひかりはいない。いまの俺は娘を殺した四人の名前や居場所を特定することに忙しいからだ。
しかし、迫田の嫁なら、他の奴等の名前も知っている可能性は高い筈だ。そのために俺は、訊きたい素振りだけは見せておいた。
「ここでは何ですので、上がって話をしましょう」
すると百合は案の定、俺を家の中へ誘導してきた。
玄関に入るやいなや俺に抱きついてキスを求めてきた。
今の俺にとって、女なんてどうでもいいことだ。ただ百合を抱いているとき、面白いことを考えついたので、俺はそれを実行に移すことにした。
《この女を使って奴等を追い詰めてやる》
追い詰めた先のことまでは考えが至っていない。だが、長年追っていた真実に近づいている。そのためには何でもするというのが本音だった。
百合とはその後、何度も逢瀬を重ねたお陰で、四人の素性がわかった。
俺は、自身が「不倫相手」になることで、迫田の心をを揺さ振れればと思っていた。その逢瀬のたびに別の探偵をつけ、俺自身を追わせた。
俺は毎回、サングラスにマスク、かつらを被って別人を装い、見つかるように百合を連れて祇園などを歩いた。
恋愛感情なんて存在しない。
それは百合も同じであろう。
旦那に相手にされず傷ついた心を、俺で埋めているに過ぎない。
《哀れな女だ――》
相手があんなクズじゃなければ、別の人生もあったであろうに。そんな百合を俺は、目的の為に求められるままに抱き、駒として使った。
《俺の方がクズだな》
腕枕で眠っている百合の肢体を見ながらそう思った。
数ヶ月後、ようやく獲物が飛び込んできた。
「妻の浮気を調査してほしい」
と、迫田真司が依頼をしてきた。
俺の前にいる男は、嫁の浮気を知って憔悴した顔で俯いていたが、百合から貰った女とのメールのやりとりを俺は知っている。内心、ほくそ笑んだ。
「分かりました。お調べいたします」
こちらも演技で優しく微笑んだ。
料金の見積もりを提示した時、安くならないかと言ってきたから、「調査の様子と、突撃までを動画として撮影・使用することを了承してもらえるなら、半額以下の料金になりますよ」と、教えてやったら、即座に飛びついてきた。
残念だ。もう少し早くここに来てれば、俺も今のような気持ちにはなっていなかった……かもしれな。
最近、腹の具合がおかしかったので、かかりつけの病院で診断された『余命三ヶ月』という宣告が、俺の意志を変えた。
あのSDカードと共に、こいつらを警察に突き出し、罪を償わせるまでに俺の寿命は尽きてしまう。
《本当に……神様はどこまでも残酷だな》
俺は最初、そのように神を憎んだ。




