第五章『隠し扉の真実』第三話 家族って何や(四)
(四)
ふと時計を見ると、十二時を超えていた。この先は明日にでもしようかとも思たんやけど、何故か読まんとあかんような気がしたので読み進めた。
――
第三章「浮かび上がった扉」
「これをネットで晒してください」
旦那の浮気の調査を依頼してきた相談者の迫田百合が、俺にSDカードを手渡した。
「なんですか? これは」と俺は訊いた。
「主人たちの犯罪記録です」
大きな目をまっすぐこちらに向けて、百合が「なんの為に、こんなものを大事に保管していたのかは分かりませんが」と、涼しい顔をしていたので、「汚職」か何かの記録だろうと、俺は楽観視していた。
「旦那の浮気でそこまでやる必要性はないと思いますが」
俺は眼鏡を外し、雪が降る窓の外を見た。どんな犯罪かは知らないが、これを晒すことによって、慰謝料にも影響しかねないとも、伝えたが、百合は頑なに首を振った。
「お金なんて興味ありません。旦那は女と組んで、私を捨てようとしています」
それは、彼女からもらったスクショで知っている。綺麗な顔立ちからは想像が付かないほどの執念だった。
「分かりました。ひとまず預かっておきますが、念のため、中を確認させて貰ってもいいですか」
「いいですよ」
百合は簡単に答えたが、最近は個人情報の取り扱いが難しいので、一筆書いてもらうことを了承して貰った。
その後は、普段と何ら変わらない、調査の進捗などの報告を受けて百合は帰って行った。
数日後、解析を依頼した業者の報告を受けて愕然とした。
いくつかの動画のファイルの中に、ひかりが亡くなった日付と同じ「20220608」という名前のファイルがあった。
「見られますか? 出来ることなら見ない方がいい」
業者の男は、妙に深刻な声で、俺に念を押していた。
彼とは、探偵事務所を立ち上げてからの付き合いだから、冗談のつもりで言ったのだろうと高を括っていた。
だが、それは浅はかだった。
特に深く考えず、俺はパソコンの画面にあるファイルをクリックした。
画面の中に……生きているひかりがいた。
俺は驚きのあまり、声が出なくなった。だが、そこにいるひかりは……。
必死に抵抗して逃げようとしていたひかりを捕まえて、男たち二人は彼女を陵辱した。
泣いているひかりを……笑いながらその光景を撮影している女。
嬉しそうにカメラを男達に近づけ、奴等のおぞましい顔のアップを撮っている。
『出来ることなら見ない方がいい』
彼の言う通りだった……。
「正弘、助けて」と、ひかりは泣き叫びながら男の名前を呼んだ。
俺はその名前を知っていた。
「会って欲しい人がいるの」
二人で有名な洋食レストランで、ひかりの誕生日を祝っていたときに、ひかりが改まって言ってきた。
「結婚したいと思ってる」
二十四歳はまだ若い。複雑な気持ちになったが、ひかりが決めた相手なのだというふうに考えて、「彼の名前は?」と訊いた。
「髙野正弘、二十六歳で会社を経営してる人なの」
「そうか、じゃあ早めに会わないといけないな」
俺は手帳を広げてスケジュールの確認をした。
もちろん、ひかりが大きくなってからの土日は、こうやってひかりと会うこと以外は空白であるが『少しでも忙しいふりをしとかないと』という、父親の見栄があった。
「六月十二日は空いてるな」
少しでも遠い日がいいのと、暇人に思われたくないという理由で、少しばかりの猶予を持った。
「じゃ、ひかりの結婚を祝して乾杯しよう」
「パパ、ありがとう」
……これが、ひかりと直接話した最後だった。
娘の彼氏と会う四日前に、警察から『娘が死んだ』という連絡を受けて、病院へ駆けつけた時に見たひかりは、俺に何も、話しかけてはくれなかった。
――
四年前、俺が見た柴田修一の後ろ姿が頭に浮かんだ。彼はあのとき、どんな思いやったのかは書かれていなかった。
《いや。『書かんかった』やなく『書けんかった』んやないか? 多分やけど、動画を思いだして、フラッシュバックしたんやないか》
俺は、修一のことを考えて胸が痛んだ。
「事実は小説より奇なり」と言う諺があるけど、あまりにも惨すぎる……。
室田康太、山根あかり、そして大迫真司……。
《お前ら、何を食べたら、そこまで鬼になれんねん》
俺は、あくまで小説やと思いながらも、怒りが湧いてきた。
そして再び、小説のページを捲ると、話は動画に戻った。




