第一章「子供ができたの殺人事件」第一話「桜の下で、死体転がしてどないすんねん」(八)
(八)
『七台も、川底に沈んどったらしいで』
俺は神楽にも聞こえるよう、スマホをスピーカーに切り替えていた。詳しい話は伝わったと思う。
余計な記者にまで、やけどな。
しかし、七台て……。
誰が、川に携帯電話を七台も捨てんねん。
「ほんまですか」
『はあ? 俺がお前に嘘ついて、どないすんねん。おもろい奴やな』
いや、おもんない、おもんない……。
関西人が『〇〇やで』と言う。
相手が『へえ、ほんまでっか』と聞く。
すると最後に――『知らんけど』と答える。
この三点セットは、関西人の定番やないかい。
『ほんでや。お前、今どこにおるんや?』
「屋上の喫煙所です。これから神楽と飯でも食いに行こうかなと思っとるんです」
『そうか。ちゃんと飯も食わんとあかん』
おっさんは一応、俺の話を理解した様子やった。
『ほな、急いで背割堤の連中と合流してや』
その舌の根も乾かんうちに、真逆のことを言い出した。
《こら、おっさん》
思わず叫びたくなる衝動を、必死でこらえる。
《人の話、聞いとったか。今、俺は、飯を、食いに、行く、と言うたよな。どんな翻訳機能しとんねん。この程度の日本語を、自分の都合のええように変換すんの、やめてもらえるか》
「あのぉ、山際課長。どうも、未央ですぅ。私も一緒に行っていいですかぁ」
未央が横から口を挟んできた。
しかも、「高梨です」でも「記者の高梨です」でもなく、馴れ馴れしく「未央です」と名乗りよった。
《おっさん、捜査一課長として、あかんもんはあかんて、ビシッと言うたってや》
『ええで。わしから京都府警全体に、記者さんは大事にせえって、ビシッと言うとくさかい。安心しいや』
俺は、山際のおっさんまで籠絡している未央の恐ろしさを、身に染みて感じた。
「ありがとうございますぅ。山際課長、大好きですぅ」
『おう。今日からしばらくは、ここにおるさかいな。いつでも遊びにおいでや』
《何の約束しとんねん》
『ほな、ウガンダ。頼むで』
プツッと通話が切れた。
「……」
俺はスマホを握ったまま固まった。
「誰が七台も投げ入れたんでしょうか」
神楽が目を見開く。
「知らんがな」
俺は素っ気なく言い放った。
「桔平ちゃん、急ぎましょう」
神楽はそう言うと、すでに歩き出していた。
コツ、コツ、と神楽の靴音が屋上に響く。
その隣では、未央だけが嬉しそうに目を輝かせていた。
俺と神楽と、ついでに未央の三人は車に乗り込んだ。
その直後、俺の腹が盛大に鳴った。
腹減ったぁ。腹減ったぁ――と、泣き叫んどるような音やった。
《しゃあない。確か国一(国道一号線)を曲がってちょっと京都よりへ行ったところに、マクド(マクドナルド)があったな。まずはドライブ……》
「マクドのドライブスルーへ行こうとか、考えてませんか?」
助手席の神楽が、振り返りもせずに言った。
《こいつ、なんで俺の考えとることが分かんねん》
俺は一瞬、普通にビビってしもた。
「指示器、逆です。背割堤は右やなくて左ですよ」
「わ……分かっとるがな。ちょっと間違えただけや」
――嘘である。
さりげなく道を間違えたふりをして、ハンバーガーでも買おうと考えていた。
「そうですか。急ぎましょう」
「プッ。ウケるぅ」
後部座席で俺と神楽のやり取りを聞いていた未央が、堪えきれずに吹き出した。
普段から温厚な俺やけど、腹が減っとるせいか、今の笑いには少しだけピキッときた。




