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隠し扉の真実  作者: 北島 将


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第二話 奇跡?……そんなもんはまやかしや(三)

(三)


「否定……なさらないんですね」


「フッ。否定も何も……。ゆかりが側にいてくれたなら……傷付いていても、生きてさえいてくれたら……。出来れば三ヶ月と言わず、すぐにでもあの世へ送って貰いたいぐらいです」


 修一は、目線を海から空へ移して言った。とても寂しそうな目で……。


「余命を聞かされたあと、何か残したいと考えましてね。僭越ながら、私の人生を綴った小説を書いています。まあ、無名の個人が書くわけですから、誰も興味ないでしょうが」

「小説……ですか?」


 小説を書いているという、修一のキャリアから思いもしなかった言葉が出てきて、俺は思わず聞き返してしまった。


「余命を宣告された男が、娘を殺した人間たちに、復讐をするというミステリー小説です。物語の中でなら、誰を……何人殺しても、罪には問われないですから」


 問われないと言った修一が、初めて笑った。


 ただ、修一が『傷付いていても……』や『娘を殺した人間たち』の言葉が引っかかった。


《どうやって、ゆかりさんを殺した奴等に辿り付いたんや》ということや。話を聞く限りでは、何らかの事情で、特定出来た……までは、俺でもわかる。


「俺も、WEBで小説を書いて投稿したりしてるので興味があります。中でも、復讐譚の場合、誰にもわからなかった犯人を、主人公がターゲットを特定するまでの過程によって、話の内容も変わってきますよね」


 嘘や――。まだ、あらすじだけで、実際には書いてはいない。


 うちの女共を、法律に触れずに、何度も崖から落としたいという希望から、実際に書こうと思ってはいた。ただ、あらすじで突き落とすだけで、満足している部分は否めへんけどな。


「たまたま……ですよ」

「はい?」


「たまたま見たものに、たまたま隠れていた扉を開ける鍵が入っていた……という設定です」


「事実を訊かせてください」


 後ろから神楽が割り込んできた。恐らくこいつの中では『自白』として捉えとるんやろう。


「いいですよ。ただし条件があります」


 修一は、ただ静かに海を見ながら答えた。心なしか息が荒いように見えた。


「何ですか、言ってください」

 と、神楽も返した。


「私は、妻や娘と同じ所へは行けません。なので最後に、妻とむす……」と言った瞬間、

「うぐっ」と修一が腹を押さえて呻きだし、前のめりに倒れそうになる。


 横にいた俺が、その体を支えて、ゆっくり地面へ下ろした。


「神楽、至急救急車や!」


 俺は叫んだ。


「はい」と神楽がすぐに救急へ電話をかけた。その声に、五十八が「おいおいおいおいっ」と叫びながら、走ってこちらへきた。


「しっかりしてください」


 俺は、苦しそうな修一に、懸命に声をかけ続けた。


 ふと傍に、ぬいぐるみが落ちていた。


 俺は、無意識に修一に渡そうと拾ってしまった……。


 ――ズンッ!


 俺の脳裏に、今までにない衝撃が走った。


 雲一つない青空を背に、ぬいぐるみが高く持ち上げられていた――。


「パパ……ありがとう」


 熊のぬいぐるみを買って貰った直後なのか、嬉しそうな子供の声やった。


 それから途切れ途切れながらも、声が聞こえた。

 

 ……胸が痛い。泣いているんか……?

 

 男の顔が浮かぶ。笑っていた。


 女もスマホをこちらに向けて笑っていた。すがるように、別の男を見た瞬間、息ができなくなる。


 ――苦しい……。


 ただこの時はいつもの感覚と違う気がした。頭が割れそうに痛くなって、心臓の鼓動が激しくなって、息が出来ない……。


 目の前が真っ暗になって……気がついた時は、俺も病院のベッドの上やった。



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